猿壺と猿酒

猿壺と猿酒
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　山形

　山形県に小倉という場所がある。
ここに荒木源内という武士がいた。
ある時、赤松という場所に用ができ、川を渡ろうとしていた。
すると、猿が困ったようにいきつ、戻りつ、している。
目を凝らしてみると、中州に取り残された小猿を助けようとしているのだ。
「猿とはいえ、これは哀れなことだ」
心優しい源内は、小猿を助け、親猿のところに渡してやった。
すると、親子の猿は何度も頭をさげながら山中に消えていった。

それから、しばらくして源内の妻が病の床についた。
心配した源内は、八方手をつくすが、どうにもよくならない。
（困ったものだ、妻の病気はどうしたら…　よくなるのだろうか）
一向に改善しない妻の病状に、源内は苦悩していた。
ある夜、源内の夢枕にあの猿が立った。
「私は、あの時助けて頂いた猿です。奥方の病気は、私の猿器に酒を入れて呑めばたちど
ころによくなるでしょう」
と猿が述べたところで目が覚めた。

「不思議な夢だ」
源内が首を傾げていると、
枕元には、夢のとおり猿のしゃれこうべがある。
「これは…いったい」
早速、このしゃれこうべに酒を入れて妻に呑ませたところ、忽ち回復したという。
この猿酒は、三山行者などに分けられ、多くの人々を救った。
特に、夫人の病に効果的らしい。

出典　出羽の伝説　角川書店　昭和５１年３月１０日


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