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――――……
サトルは、黒い靄をかけたような世界に、ぼんやりと一人立ちつくしていました。
トン……トン……トン……と、ひっきりなしに鐘の音が聞こえてきます。
(ぼくはどこいいるんだろう――)
サトルは、手探りをするように黒い世界の中を歩き回りました。まるで、真空の宇宙を漂う、人工衛星のようでした。体は、重さを失ったようにふわふわし、どこまで行ってもつきない空間が、広がっていました。
「サトル……」と、ガッチの声が、すぐ後ろで聞こえました。
(あっ、ガッチ……)
振り返ったサトルは、ガッチが砂に変わったのは夢だったんだ、とあまりのうれしさにガッチに飛びつきました。しかし、生気の抜けたような目でサトルを見ていたガッチは、サトルが飛びつくと、ふっと消えてしまいました。
「サトル……おまえは、この国の人間ではないな……」
と、ねむり王が巨大な人差し指をサトルに向けながら、苦しくなるほど何度も繰り返し言いました。サトルは、たまらず耳を塞ぎましたが、ねむり王の声は、聞くまいと抵抗するほど、さらに大きくなって聞こえてきました。
(うるさいっ!)
と、サトルは唇を噛みながら、勇気を出してねむり王に飛びかかりました。すると、ねむり王もふっと消えてしまいました。
サトルは、なぜか急に息苦しくなり、喉を押さえながら、何度も咳きこみました。
「君は、どこの子だね――。わしは見たことがない――」「おまえはこの国の人間ではない――。ウッヒッヒッハ――」「サトル――そうだったのか――」と、苦しがるサトルの目の前を、パフル大臣、ねむり王、そしてガッチまでもが、口々に責め立てながら、ぐるぐると回り出しました。
「うるさいっ! えいっ、このっ!」と、サトルは片手で喉を押さえながら、三人を必死で追い払いました。しかし、三人はサトルをあざ笑うように、だんだんと声を大きくしながら、いつまでも回り続けるのでした。
「うるさい! やめろ、このっ!」と、サトルは叫びました。カラカラに乾いた喉からは、しわがれたかすれ声しか出ませんでした。サトルは、燃えるように痛い喉を、苦しそうに押さえました。