ムチのように風を切る枝に打たれ、悲鳴にも似た弱々しい叫び声が、こだまのように次々と聞こえてきました。
固まっていた人垣がバラバラに散らばると、やはりそこには、膝を抱えたリリが震えていました。
「迎えに来たよ、リリ――」
サトルが言うと、リリはすぐにわかったのか、はっと顔を上げて立ち上がると、サトルに抱きつきました。
「――大丈夫。心配ないよ。一緒に帰ろう」
サトルは、リリの手を引くと、やって来た方向に戻ろうと、歩き始めました。
と、なにか白い煙のような物が、あちらこちらから、目にも止まらぬ早さで走り抜けていきました。
急いでその場を離れようとしたサトルでしたが、リリがぎゅっと強く手を引いて、足を止めさせました。
かすかに震えているリリは、まぶたのない大きな目で、回りのなにもない空間を見上げていました。
「なにかあるの、リリ――」
サトルは聞きましたが、リリが身振りで答えるまでもありませんでした。透きとおった空に線を引いて飛び交う白い煙が、逃げ惑う人々を、次々に襲っているのを目の当たりにしました。
生きた煙のようなものは、魂を食う獣に違いありませんでした。
自分を見失って、死の砂漠に落ちてきた人達の魂を、体が黄色い砂に変わる前に奪い取る、魔獣でした。
魔獣の狙いは明らかでした。どこからか集まってきた、落ち人達でした。
魔獣は、ゆらゆらと逃げ回る落ち人達の体を透り抜けると、凍りついたように動きを止めた落ち人の体が、ザザッと音を立て、あっという間に黄色い砂に変わりました。
砂に変わった落ち人は、粉々になって地面に広がると、二度と立ち上がりませんでした。
落ち人達はほとんど抵抗する間もなく、砂に変わって消え去っていきました。
もたもたしてはいられませんでした。落ち人であるリリも、狙われるはずでした。
「さあ、ここにいちゃ危ない。早く逃げよう――」
おびえて首を振るリリでしたが、サトルが手を引いて走り出すと、足元をふらつかせながらも、必死で後についてきました。
しかし、いくらも走らないうち、魔獣達が二人を狙って飛び交い始めました。
すぐ目の前を、脅すようにすれ違っていく魔獣達は、黄色い二つの目を光らせ、針の山のような牙を剥き出していました。
「来るな! お前ら――」
頭を抱えてしゃがみこむリリを守って、サトルは樹王の枝を振り回し、なんとか魔獣達を追い払おうとしました。
樹王の言ったとおり、魔獣は樹王の枝が恐いのか、目の前に近づけただけで、気持ちが悪そうに遠ざかりました。そして、どうやらそれだけではありませんでした。魔獣達は、どういう訳か、サトルには襲いかかってきませんでした。
固まっていた人垣がバラバラに散らばると、やはりそこには、膝を抱えたリリが震えていました。
「迎えに来たよ、リリ――」
サトルが言うと、リリはすぐにわかったのか、はっと顔を上げて立ち上がると、サトルに抱きつきました。
「――大丈夫。心配ないよ。一緒に帰ろう」
サトルは、リリの手を引くと、やって来た方向に戻ろうと、歩き始めました。
と、なにか白い煙のような物が、あちらこちらから、目にも止まらぬ早さで走り抜けていきました。
急いでその場を離れようとしたサトルでしたが、リリがぎゅっと強く手を引いて、足を止めさせました。
かすかに震えているリリは、まぶたのない大きな目で、回りのなにもない空間を見上げていました。
「なにかあるの、リリ――」
サトルは聞きましたが、リリが身振りで答えるまでもありませんでした。透きとおった空に線を引いて飛び交う白い煙が、逃げ惑う人々を、次々に襲っているのを目の当たりにしました。
生きた煙のようなものは、魂を食う獣に違いありませんでした。
自分を見失って、死の砂漠に落ちてきた人達の魂を、体が黄色い砂に変わる前に奪い取る、魔獣でした。
魔獣の狙いは明らかでした。どこからか集まってきた、落ち人達でした。
魔獣は、ゆらゆらと逃げ回る落ち人達の体を透り抜けると、凍りついたように動きを止めた落ち人の体が、ザザッと音を立て、あっという間に黄色い砂に変わりました。
砂に変わった落ち人は、粉々になって地面に広がると、二度と立ち上がりませんでした。
落ち人達はほとんど抵抗する間もなく、砂に変わって消え去っていきました。
もたもたしてはいられませんでした。落ち人であるリリも、狙われるはずでした。
「さあ、ここにいちゃ危ない。早く逃げよう――」
おびえて首を振るリリでしたが、サトルが手を引いて走り出すと、足元をふらつかせながらも、必死で後についてきました。
しかし、いくらも走らないうち、魔獣達が二人を狙って飛び交い始めました。
すぐ目の前を、脅すようにすれ違っていく魔獣達は、黄色い二つの目を光らせ、針の山のような牙を剥き出していました。
「来るな! お前ら――」
頭を抱えてしゃがみこむリリを守って、サトルは樹王の枝を振り回し、なんとか魔獣達を追い払おうとしました。
樹王の言ったとおり、魔獣は樹王の枝が恐いのか、目の前に近づけただけで、気持ちが悪そうに遠ざかりました。そして、どうやらそれだけではありませんでした。魔獣達は、どういう訳か、サトルには襲いかかってきませんでした。