サトルは、唇を噛みながら、たき火のそばに戻って、樹王を見上げました。
「……この砂漠には……役目を持った獣がいる」と、樹王が静かに言いました。「ワシは、リリが砂にならないように、守っていたのではないのだ」
「――えっ」と、サトルが言いました。
「……リリが砂に変えられないように、獣を遠ざけていたのだ」
と、サトルは首を傾げました。
「樹王なら、なんとかしてあげられるって、言ってたのは?」
「砂に変わるのを……止められるという意味じゃ……ないんだ」と、樹王は言いました。「強い思いを失い……疑いに支配された者が……だんだんと砂に姿を変えるのは……誰にも止めることはできない。ただ、強い思いを取り戻し、自分自身を見つけ出すまで、魂を食う獣から守ってあげる事は……できるのだ」
「魂を食うって、それって、生き物ですか――」
「サトルがいた世界での生き物とは……ちょっと違うじゃろう」と、樹王は言いました。「ワシと同じく……生まれた時からそこに生きていた者だ。夢を失って砂漠に落ちてきた者が……黄色い砂に変わり果て、魂だけになってさまよい続けるのを……彼らは永遠のゆりかごの元に帰しているのだ」
「難しいですけど、それって――」サトルが続けようとすると、
「――それは死を意味する」と、樹王が重苦しく言いました。「ワシの根の届く範囲であれば……彼らを近寄らせないことができる。しかし、一歩外へ出れば……彼らは夢を失った者をどんなに遠くからでも嗅ぎつけて……やってくる。けっして……逃げることはできない」
「なら、リリは?」
「助けてやってほしい」と、樹王がサトルに言いました。「お前がやって来た場所に帰るには……彼女の力を借りるしかない」
「――」と、サトルは大きくうなずきました。迷っている余地はありませんでした。自分のいた町に帰るためなら、進むしかありませんでした。
「夜は危険だ。日の出を待つのじゃ」と、樹王はうなずきながら言いました。「――この先の枝を持ってゆくがいい」
ゆるゆると、サトルの目の前に樹王の枝が伸びてきました。
サトルは戸惑いながら、伸びてきた枝をつかみました。
「この枝はワシの分身じゃ」と、樹王はサトルに枝つかませたまま、自ら枝を折りました。「獣は……魂が溢れている物を嫌う。ワシの枝は……いくつもの世界に存在している……ワシの魂の集合だ。その枝を持って迎え撃てば……獣は手も足も出せないほど……苦痛を覚えるだろう」
サトルは、普通の枝にしか見えない武器を、試すように素振りしました。
「――リリの居場所は、すぐにわかるだろう」と、樹王は言いました。「わずかな足跡さえ見つければ……あとは足跡が向かう方向を目指して……追いかけていけばいい。獣を恐れ……砂の底に隠れていた落ち人達が……リリの歌声を欲して……姿を現しているはずだ」
――……
「……この砂漠には……役目を持った獣がいる」と、樹王が静かに言いました。「ワシは、リリが砂にならないように、守っていたのではないのだ」
「――えっ」と、サトルが言いました。
「……リリが砂に変えられないように、獣を遠ざけていたのだ」
と、サトルは首を傾げました。
「樹王なら、なんとかしてあげられるって、言ってたのは?」
「砂に変わるのを……止められるという意味じゃ……ないんだ」と、樹王は言いました。「強い思いを失い……疑いに支配された者が……だんだんと砂に姿を変えるのは……誰にも止めることはできない。ただ、強い思いを取り戻し、自分自身を見つけ出すまで、魂を食う獣から守ってあげる事は……できるのだ」
「魂を食うって、それって、生き物ですか――」
「サトルがいた世界での生き物とは……ちょっと違うじゃろう」と、樹王は言いました。「ワシと同じく……生まれた時からそこに生きていた者だ。夢を失って砂漠に落ちてきた者が……黄色い砂に変わり果て、魂だけになってさまよい続けるのを……彼らは永遠のゆりかごの元に帰しているのだ」
「難しいですけど、それって――」サトルが続けようとすると、
「――それは死を意味する」と、樹王が重苦しく言いました。「ワシの根の届く範囲であれば……彼らを近寄らせないことができる。しかし、一歩外へ出れば……彼らは夢を失った者をどんなに遠くからでも嗅ぎつけて……やってくる。けっして……逃げることはできない」
「なら、リリは?」
「助けてやってほしい」と、樹王がサトルに言いました。「お前がやって来た場所に帰るには……彼女の力を借りるしかない」
「――」と、サトルは大きくうなずきました。迷っている余地はありませんでした。自分のいた町に帰るためなら、進むしかありませんでした。
「夜は危険だ。日の出を待つのじゃ」と、樹王はうなずきながら言いました。「――この先の枝を持ってゆくがいい」
ゆるゆると、サトルの目の前に樹王の枝が伸びてきました。
サトルは戸惑いながら、伸びてきた枝をつかみました。
「この枝はワシの分身じゃ」と、樹王はサトルに枝つかませたまま、自ら枝を折りました。「獣は……魂が溢れている物を嫌う。ワシの枝は……いくつもの世界に存在している……ワシの魂の集合だ。その枝を持って迎え撃てば……獣は手も足も出せないほど……苦痛を覚えるだろう」
サトルは、普通の枝にしか見えない武器を、試すように素振りしました。
「――リリの居場所は、すぐにわかるだろう」と、樹王は言いました。「わずかな足跡さえ見つければ……あとは足跡が向かう方向を目指して……追いかけていけばいい。獣を恐れ……砂の底に隠れていた落ち人達が……リリの歌声を欲して……姿を現しているはずだ」
――……