(あーあ。もうだめだ――)と、気落ちしたサトルは、じっと赤の川を眺めました。
いにしえの人々が流した涙と血の結晶である赤の川は、なぜかサトルを励ますような瀬音を立て、休むことなくとうとうと流れていました。しかし、サトルは何もできないというもどかしさと悔しさで、いつの間にかシクシクと泣き出してしまいました。
(――もうどうにでもなっちまえ)と、サトルは思いました。頭上に輝いているお日様は、そんなサトルをさらに打ち据えるように、ギンギンとした熱気を発し続けていました。
ドッバーン!……。
サトルがはっとして見ると、アリジゴクの怪物と格闘していた青騎士が、どういう訳か、サトルのそばの砂の下から、乗っている馬ともども、間欠泉のような熱砂を巻き上げて、姿を現しました。
怪物との激しい戦いを物語るように、青騎士の鎧はところどころ破れ裂け、血こそ出ていませんでしたが、見るからに怨念の塊といった姿でした。
「来るなっ!」と、サトルは叫びました。
しかし、青騎士は今までにない激しい動きで馬を操り、手にしたヤリを間髪を入れずに突き立ててきました。
「――うわっ」と、サトルは青騎士が繰り出すヤリに、右肩を貫かれてしまいました。
サトルは「う――」と、赤い血を流す右肩を左手で押さえ、燃えるような痛さに耐えながら、ガックリと砂の上に膝を突きました。
青騎士は、サトルを見下ろして、ゆっくりと近づいてきました。屍のような馬は、やっとサトルにとどめを刺せるという達成感からか、後ろ足で立ちあがると、天まで届きそうな声を上げました。
(くそっ、ぼくだって……ぼくだって……)と、サトルはヤリを構えて迫ってくる青騎士から、決して目をそらさず、しっかりと見据えていました。
もう、恐くはありませんでした。もはや逃げ道はないことを、サトルは一番よく知っていました。サトルは、自分の心の闇の中で、一匹のホタルが、まぶしく光っていることに気づいていました。それは、勝機というホタルが発する、希望という名の光でした。
――ブンッ。
重たいヤリが空気を裂いて、サトルの心臓目がけて突き出されました。サトルは、青騎士がヤリを突き出したその瞬間、逆にこちらから、青騎士に飛びかかっていきました。
青騎士は虚を突かれて、わずかに後ろにのけぞりました。青騎士は、腰にしがみついてきたサトルごと、ドタッという乾いた音を立てて、馬から落ちました。
「くそっ、このっ――」と、サトルは青騎士の上に馬乗りになり、ところどころ凹んだ兜を、ひと思いに脱がせました。
「あっ!」と、サトルは青騎士の顔を見て、声を上げました。幻の中で見た青騎士と同じく、もう一人のサトルの顔が、兜の下に現れました。
いにしえの人々が流した涙と血の結晶である赤の川は、なぜかサトルを励ますような瀬音を立て、休むことなくとうとうと流れていました。しかし、サトルは何もできないというもどかしさと悔しさで、いつの間にかシクシクと泣き出してしまいました。
(――もうどうにでもなっちまえ)と、サトルは思いました。頭上に輝いているお日様は、そんなサトルをさらに打ち据えるように、ギンギンとした熱気を発し続けていました。
ドッバーン!……。
サトルがはっとして見ると、アリジゴクの怪物と格闘していた青騎士が、どういう訳か、サトルのそばの砂の下から、乗っている馬ともども、間欠泉のような熱砂を巻き上げて、姿を現しました。
怪物との激しい戦いを物語るように、青騎士の鎧はところどころ破れ裂け、血こそ出ていませんでしたが、見るからに怨念の塊といった姿でした。
「来るなっ!」と、サトルは叫びました。
しかし、青騎士は今までにない激しい動きで馬を操り、手にしたヤリを間髪を入れずに突き立ててきました。
「――うわっ」と、サトルは青騎士が繰り出すヤリに、右肩を貫かれてしまいました。
サトルは「う――」と、赤い血を流す右肩を左手で押さえ、燃えるような痛さに耐えながら、ガックリと砂の上に膝を突きました。
青騎士は、サトルを見下ろして、ゆっくりと近づいてきました。屍のような馬は、やっとサトルにとどめを刺せるという達成感からか、後ろ足で立ちあがると、天まで届きそうな声を上げました。
(くそっ、ぼくだって……ぼくだって……)と、サトルはヤリを構えて迫ってくる青騎士から、決して目をそらさず、しっかりと見据えていました。
もう、恐くはありませんでした。もはや逃げ道はないことを、サトルは一番よく知っていました。サトルは、自分の心の闇の中で、一匹のホタルが、まぶしく光っていることに気づいていました。それは、勝機というホタルが発する、希望という名の光でした。
――ブンッ。
重たいヤリが空気を裂いて、サトルの心臓目がけて突き出されました。サトルは、青騎士がヤリを突き出したその瞬間、逆にこちらから、青騎士に飛びかかっていきました。
青騎士は虚を突かれて、わずかに後ろにのけぞりました。青騎士は、腰にしがみついてきたサトルごと、ドタッという乾いた音を立てて、馬から落ちました。
「くそっ、このっ――」と、サトルは青騎士の上に馬乗りになり、ところどころ凹んだ兜を、ひと思いに脱がせました。
「あっ!」と、サトルは青騎士の顔を見て、声を上げました。幻の中で見た青騎士と同じく、もう一人のサトルの顔が、兜の下に現れました。