「ホッホッホッ……大丈夫だよ。君も臆病だな……ホッホッホッ……」と、樹王がサトルをからかうように笑いました。サトルは、そういえばなにも怖いことなんかないな、と考え直すと、急に恥ずかしくなって、顔を赤くしました。
「おう、リリや……こちらはサトル君……おまえと同じく……上の世界から落ちてきたのだ……挨拶しなさい……」
樹王が言うと、ひとつ目の人形はぺこり、と頭をひとつ下げました。サトルもどきっとして、戸惑いながら立ち上がると、頭を下げました。
「ホッホッホッ……二人ともなんとかうまく行きそうじゃのう……」と、樹王は言うと、天まで届きそうなくらい大声で笑いました。「ホッホッホッ……これでわかったわい……二人を元に戻す方法が……」
――――
サトルは、樹王の太い根っこを枕がわりに、パチパチとはぜる火を見ながら、横になっていました。死の砂漠に来てから、初めての夜でした。どういう訳か、サトル一人の時は、まったくお日様が沈む気配もなかったのに、樹王に出会ったとたん、お日様が生き返ったように動き出しました。まるで、死の砂漠が生命の砂漠に変わったようでした。
ここに来てから、なにも口にしていなかったサトルは、樹王の実を腹一杯食べると、リリという名の人形と二人で、小さな火をおこし、すぐにころんと横になったのでした。
静かな寝息を立て始めて間もなく、サトルは何度も見たガッチやねむり王の夢を見て、汗をぐっしょりかきながら、パチッと目を開きました。
(ぼくは、本当にガッチやねむり王のいる世界へ帰れるんだろうか……。樹王は、帰す方法が見つかったとかって言ってたけど、ぼくにはぜんぜん話してくれない……。ぼくは、一体どうしたらいいんだろう……)
サトルは、そっと体を起こすと、樹王とリリが眠っているのを確かめました。
樹王は目をつぶって、まるで息をしていないかのように、静かに眠っていました。リリは、かわいそうに、ひとつしかない目を閉じられないまま、宙に目をさまよわせて、規則的な息を繰り返していました。
「はぁ……」と、サトルはため息をつくと、力が抜けたように、またころんと横になりました。
(ぼくもこのままここにいたら、リリのような木の人形のようになってしまうんだろうか……。目を閉じたくても、閉じられない木の人形に……。あーあ、本当にぼく、どうしたらいいんだろう……)
サトルがぼんやりと赤い火を見ていると、樹王の囁くような声がしました。
「フッ……眠れないのか……サトル」
「えっ?」サトルが見ると、樹王はうっすらと目を開き、かすかに微笑んでいました。
「心配してるんだろう……本当に自分が帰れるかどうか」樹王が言うと、サトルが「うん」とうなずきました。
「しかたあるまい……ワシがサトルを元に戻してやると言った以上、黙ってばかりいるわけにもいかんだろう……」
樹王は、ちょっとの間目をつぶると、「よし」と体をひと揺すりして、話し始めました。
「サトル……おまえが落ちてきた世界に戻すのは、たやすいことだ……しかし、おまえが住んでいた世界へ戻すのは、ワシにはどうしてやることもできん……。黙っていたのは、そのためだ……。ワシは、お前のような境遇に陥った者を何人も助けてきた。そこにいるリリもその一人だ……」
「おう、リリや……こちらはサトル君……おまえと同じく……上の世界から落ちてきたのだ……挨拶しなさい……」
樹王が言うと、ひとつ目の人形はぺこり、と頭をひとつ下げました。サトルもどきっとして、戸惑いながら立ち上がると、頭を下げました。
「ホッホッホッ……二人ともなんとかうまく行きそうじゃのう……」と、樹王は言うと、天まで届きそうなくらい大声で笑いました。「ホッホッホッ……これでわかったわい……二人を元に戻す方法が……」
――――
サトルは、樹王の太い根っこを枕がわりに、パチパチとはぜる火を見ながら、横になっていました。死の砂漠に来てから、初めての夜でした。どういう訳か、サトル一人の時は、まったくお日様が沈む気配もなかったのに、樹王に出会ったとたん、お日様が生き返ったように動き出しました。まるで、死の砂漠が生命の砂漠に変わったようでした。
ここに来てから、なにも口にしていなかったサトルは、樹王の実を腹一杯食べると、リリという名の人形と二人で、小さな火をおこし、すぐにころんと横になったのでした。
静かな寝息を立て始めて間もなく、サトルは何度も見たガッチやねむり王の夢を見て、汗をぐっしょりかきながら、パチッと目を開きました。
(ぼくは、本当にガッチやねむり王のいる世界へ帰れるんだろうか……。樹王は、帰す方法が見つかったとかって言ってたけど、ぼくにはぜんぜん話してくれない……。ぼくは、一体どうしたらいいんだろう……)
サトルは、そっと体を起こすと、樹王とリリが眠っているのを確かめました。
樹王は目をつぶって、まるで息をしていないかのように、静かに眠っていました。リリは、かわいそうに、ひとつしかない目を閉じられないまま、宙に目をさまよわせて、規則的な息を繰り返していました。
「はぁ……」と、サトルはため息をつくと、力が抜けたように、またころんと横になりました。
(ぼくもこのままここにいたら、リリのような木の人形のようになってしまうんだろうか……。目を閉じたくても、閉じられない木の人形に……。あーあ、本当にぼく、どうしたらいいんだろう……)
サトルがぼんやりと赤い火を見ていると、樹王の囁くような声がしました。
「フッ……眠れないのか……サトル」
「えっ?」サトルが見ると、樹王はうっすらと目を開き、かすかに微笑んでいました。
「心配してるんだろう……本当に自分が帰れるかどうか」樹王が言うと、サトルが「うん」とうなずきました。
「しかたあるまい……ワシがサトルを元に戻してやると言った以上、黙ってばかりいるわけにもいかんだろう……」
樹王は、ちょっとの間目をつぶると、「よし」と体をひと揺すりして、話し始めました。
「サトル……おまえが落ちてきた世界に戻すのは、たやすいことだ……しかし、おまえが住んでいた世界へ戻すのは、ワシにはどうしてやることもできん……。黙っていたのは、そのためだ……。ワシは、お前のような境遇に陥った者を何人も助けてきた。そこにいるリリもその一人だ……」