くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(85)

2020-06-27 19:02:47 | 「地図にない場所」
 だんだんと明るさを失っていくたき火を見ながら、サトルはほとんど眠ることができませんでした。
 肌寒さを我慢していると、日はすぐに昇ってきました。
 サトルは、樹王がくれた枝を手に、立ち上がりました。樹王は大きな顔を上げ、
「頼んだぞ……」
 と、低い声で言いました。
 木の皮で作った袋には、樹王の木の実と、木の実の殻で作った水筒が入っていました。水筒には、水代わりの露がたっぷり入っていました。
 サトルは、「行ってきます」と言うと、リリを探して、歩き始めました。
 足跡は、すぐに見つかりました。風のない黄色い砂漠に、リリが走って行った足跡が、延々と続いていました。
 サトルは、次第に暑さを増す日差しの中、砂に足を取られながら、リリの足跡をたどって行きました。
 樹王と一緒にいた時には、ゆるゆると時を刻んでいたお日様が、樹王から遠く離れたとたん、空の一点にとどまって、動かなくなってしまいました。
 黄色い砂の山や谷が、だんだんと大きく高くなり始め、深い谷と大きな丘になっていきました。どこまでも平らに見えた砂漠が、ぼこぼこと山々の連なる景色に変わってしまいました。
 リリはどこまで行ってしまったのか。力強く広かった歩幅が、足跡をたどっていくうち、不規則で小さく、狭くなっていくのがわかりました。
(――早く、助けにいってあげなきゃ)
 サトルは、暑い日差しに体力を奪われ、ついつい弱気になってしまう自分を、リリを思って振り払いました。
 どのくらい進んだでしょうか、ゆるゆると陽炎の立ち上がる向こうに、ゆらゆらとした人影が、いくつも集まっているのが見えました。
『リリの居場所は、すぐにわかるだろう』
 と、サトルは樹王が言っていた言葉を思い出しました。
 砂に踏み出す足が、しっかりと強くなりました。
 サトルは、樹王の枝を手にしながら、力を振り絞って走りました。

「――みんなどけ、そこから離れろ」

 ゆらゆらと陽炎のように揺れる人影は、不気味な人間達でした。サトルの声に驚いて振り向いた顔は、どの顔も青白く、無表情で、まるで意志が感じられませんでした。
 集まってなにをしているのか、ぞろぞろと行きつ戻りつする足の隙間から、リリの細い木の手足が、見え隠れしていました。

「えーい!」

 と、サトルは樹王の枝を乱暴に振り回しながら、人垣の中に割って入りました。
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