目にもとまらぬ早さで飛び交う魔獣達は、サトルが不注意に背中を見せても、牙を突き立ててきませんでした。
しかし、サトルがいくらがんばって魔獣を追い払おうとしても、数に勝る魔獣は、サトルの隙を見逃さず、だんだんとリリに迫ってきました。
樹王の枝を振るっていたサトルも、バラバラに飛びかかってくる魔獣を、いつまでも追い払い続けられませんでした。軽いはずの枝が、だんだんと重く感じられるほど、腕が痺れていました。
「――あっ」
と、息を切らしたサトルが、砂に足を取られてひっくり返りました。
リリに向かって、魔獣達が一斉に躍りかかりました。しかし、サトルがあわてて起き上がると、魔獣達はまた、一斉にリリから離れていきました。
サトルが枝を振りながら見ると、見たことのない子犬が、リリに近づく魔獣を追い払っていました。白色の毛が多いぶち色をした子犬でした。小さな体に似合わず勇敢で、うろうろと上空を飛び交う魔獣に向かって、小さな牙をのぞかせながら、ぐるぐると低く唸っていました。
「ありがとう。どから来たの」と、サトルが言うと、立ち上がったリリが、サトルの背中に隠れました。
「――どうしたのさ、リリ」と、サトルが言いました。「この子が助けてくれたんだよ」
サトルが子犬に手を伸ばそうとすると、リリがあわててサトルの腕をつかまえ、しがみついて離しませんでした。
「おかしいよ、リリ――」と、サトルが首を傾げている間に、どういう訳か、集まっていた魔獣達が、どこへともなく姿を消していました。
「よかった。どうやら助かったみたいだよ」
サトルとリリは、樹王の元に引き返しました。急がなければ、いつまた魔獣達が襲いかかってくるか、わかりませんでした。二人は、焼けるような日差しの中、消えかかった足跡をたどって、歩き続けました。
と、どこからかやって来た子犬も、二人の後を追いかけて、いつまでも着いて来ました。二人のそばを離れようとしない子犬に、サトルが樹王の露を飲ませてあげようとすると、それを見ていたリリが、あわてて水筒を取り上げてしまいました。
「……」と、サトルは訳がわからず、しかし子犬を見ると、つらそうにしている様子もないので、不思議に思いながらも、先を急ぎました。
サトルがリリの足跡を追いかけた時に比べ、それほど苦労することなく、二人は樹王の元に戻ってきました。
樹王の根がどこまで伸びているかわかりませんでしたが、こんもりと緑の葉を茂らせた山のような樹王の姿が目に入ると、止まっていたお日様が、息を吹き返したように動き始めました。
サトルは、ゆっくりと傾いていくお日様に気がつくと、わずかにほっとして息をつきました。
「ようやく帰ってこれたみたいだ――」と、樹王の姿を見ていたサトルが振り返ると、リリが立ち止まって、後ろの様子をうかがっていました。
しかし、サトルがいくらがんばって魔獣を追い払おうとしても、数に勝る魔獣は、サトルの隙を見逃さず、だんだんとリリに迫ってきました。
樹王の枝を振るっていたサトルも、バラバラに飛びかかってくる魔獣を、いつまでも追い払い続けられませんでした。軽いはずの枝が、だんだんと重く感じられるほど、腕が痺れていました。
「――あっ」
と、息を切らしたサトルが、砂に足を取られてひっくり返りました。
リリに向かって、魔獣達が一斉に躍りかかりました。しかし、サトルがあわてて起き上がると、魔獣達はまた、一斉にリリから離れていきました。
サトルが枝を振りながら見ると、見たことのない子犬が、リリに近づく魔獣を追い払っていました。白色の毛が多いぶち色をした子犬でした。小さな体に似合わず勇敢で、うろうろと上空を飛び交う魔獣に向かって、小さな牙をのぞかせながら、ぐるぐると低く唸っていました。
「ありがとう。どから来たの」と、サトルが言うと、立ち上がったリリが、サトルの背中に隠れました。
「――どうしたのさ、リリ」と、サトルが言いました。「この子が助けてくれたんだよ」
サトルが子犬に手を伸ばそうとすると、リリがあわててサトルの腕をつかまえ、しがみついて離しませんでした。
「おかしいよ、リリ――」と、サトルが首を傾げている間に、どういう訳か、集まっていた魔獣達が、どこへともなく姿を消していました。
「よかった。どうやら助かったみたいだよ」
サトルとリリは、樹王の元に引き返しました。急がなければ、いつまた魔獣達が襲いかかってくるか、わかりませんでした。二人は、焼けるような日差しの中、消えかかった足跡をたどって、歩き続けました。
と、どこからかやって来た子犬も、二人の後を追いかけて、いつまでも着いて来ました。二人のそばを離れようとしない子犬に、サトルが樹王の露を飲ませてあげようとすると、それを見ていたリリが、あわてて水筒を取り上げてしまいました。
「……」と、サトルは訳がわからず、しかし子犬を見ると、つらそうにしている様子もないので、不思議に思いながらも、先を急ぎました。
サトルがリリの足跡を追いかけた時に比べ、それほど苦労することなく、二人は樹王の元に戻ってきました。
樹王の根がどこまで伸びているかわかりませんでしたが、こんもりと緑の葉を茂らせた山のような樹王の姿が目に入ると、止まっていたお日様が、息を吹き返したように動き始めました。
サトルは、ゆっくりと傾いていくお日様に気がつくと、わずかにほっとして息をつきました。
「ようやく帰ってこれたみたいだ――」と、樹王の姿を見ていたサトルが振り返ると、リリが立ち止まって、後ろの様子をうかがっていました。