くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(82)

2020-06-24 18:30:01 | 「地図にない場所」
 樹王は、話を途切ると、ちらっとリリを見やりました。どうやらサトルにはよくても、リリには聞かれたくないらしく、目を覚ましやしないか、と気にしているようでした。サトルは、そうっとリリを揺すって、確かめました。リリは、ぐっすりと寝入っているようでした。
「……このリリもな、おまえが落ちてきた世界から、この砂漠へやって来たのだ。今でこそこのような姿になっておるが、やって来た時は、それはきれいな娘じゃった。背格好も、サトルと変わらんじゃろう……しかし、この娘は……ドリーブランドが生まれる前から生きてきたワシも感心するほど……とっても優しい心を持っておる。……サトルがここに落ちて来たように、この娘は……真っ直ぐに落ちてきたわけではないのだ。話によると……いくつもの世界を渡り歩いておったらしい。その中には……いまだワシも踏み入れておらん異世界も含まれていたようじゃ……」
「異世界……?」と、サトルが身を乗り出して聞きました。もしかして、帰る方法がわかるかもしれない、と思ったのでした。
「まあ待て……そう慌てなさんな。このリリはな……歌が得意なんじゃ。しかし、ただの歌ではない。聞いた者の心を、夢中にさせてしまうのだ。……一度聞いてしまえば、いつまでも聞いていたくなってしまう歌だ。……つい心地がよくなって歌に聞き入ってしまうと、知らず知らずのうちに、時間が過ぎていくのも忘れ、ついには自分を見失い、挙げ句の果てに、死の砂漠に落ちてしまうのだ。……だからリリは、そんな自分の歌を恐れて、逃げるように旅を続けていたのだ……決して果てなどない、気の遠くなるような旅のすえ……終焉の地として、とうとう自らが、死の砂漠に落ちてきたのだ……。
 しかし、この砂漠も、リリが安心していられる場所ではなかった。人は……たとえ死の砂漠に落ちてもなお……リリの歌を耳にすると……リリを追いかけて、死の砂漠をやって来たのだ。
 リリは、自分の歌が……人々を砂に変えてしまう罪の意識にさいなまれ……逃げるように死の砂漠をさまよい歩き……とうとうこのワシの所まで、やって来たのだ……ワシは、なんとかこの世界から、リリを脱出させようと試みた。しかしな……この娘はあまりにも多くの世界を見過ぎたのだ……やって来てから三日……ついに口を失ってしまった」
「――自分の歌が嫌いになったから、かな」と、サトルは言いました。
 ちらり、とサトルの様子をうかがった樹王は、小さくうなずきました。
「サトルにはわからんだろうが……この砂漠がなぜ死の砂漠と呼ばれるのかというとな……この世界に落ちてきた者は……すみやかに上の世界へ戻らぬ限り……だんだんと疑問や悲しみが深まって行くにつれ……落ちてきた者の姿を異形のものに変え……しまいには黄色い砂にしてしまうのだ……。
 ワシにたどり着いた者は……ワシの力でなんとかしてやることができるのだが……この娘は……けれどわしの手には負えず……ワシの見守る中……次第にその姿を変えていったのだ……。おまえも……あの娘の顔についている目が気になったであろう……」
「あの……閉じない目、ですか」と、サトルが自分の目を指差しながら言いました。
「ウム……あの目はな……ワシがあの娘の眠っている間に、顔に彫ったものなのだ……」
「……顔に、彫る……」と、サトルは眉をひそめて言いました。
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よもよも

2020-06-24 06:07:28 | Weblog
いやはや。

北海道もフェーズが変わって、

事務所も机の配置変えたりしてたんだけど、

とうとう今週中に移動しろって指示が出て、

いよいよ元に戻ることになった。

だけど、

今までいた大きな会議室。

殺伐としてて嫌だったけどさ、

一人当たりの空間が広くって、

不便ではあったけど、環境的には良かったわ。

今週中に引っ越ししろって指示が出て、

あーあ、ってため息着いてた奴の気持ちがわかるよ。。

でも皆口をそろえて、

「また戻ってこないだろうな」

それが一番怖いXXX
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地図にない場所(81)

2020-06-23 19:17:56 | 「地図にない場所」
「ホッホッホッ……大丈夫だよ。君も臆病だな……ホッホッホッ……」と、樹王がサトルをからかうように笑いました。サトルは、そういえばなにも怖いことなんかないな、と考え直すと、急に恥ずかしくなって、顔を赤くしました。
「おう、リリや……こちらはサトル君……おまえと同じく……上の世界から落ちてきたのだ……挨拶しなさい……」
 樹王が言うと、ひとつ目の人形はぺこり、と頭をひとつ下げました。サトルもどきっとして、戸惑いながら立ち上がると、頭を下げました。
「ホッホッホッ……二人ともなんとかうまく行きそうじゃのう……」と、樹王は言うと、天まで届きそうなくらい大声で笑いました。「ホッホッホッ……これでわかったわい……二人を元に戻す方法が……」
 ――――
 サトルは、樹王の太い根っこを枕がわりに、パチパチとはぜる火を見ながら、横になっていました。死の砂漠に来てから、初めての夜でした。どういう訳か、サトル一人の時は、まったくお日様が沈む気配もなかったのに、樹王に出会ったとたん、お日様が生き返ったように動き出しました。まるで、死の砂漠が生命の砂漠に変わったようでした。
 ここに来てから、なにも口にしていなかったサトルは、樹王の実を腹一杯食べると、リリという名の人形と二人で、小さな火をおこし、すぐにころんと横になったのでした。
 静かな寝息を立て始めて間もなく、サトルは何度も見たガッチやねむり王の夢を見て、汗をぐっしょりかきながら、パチッと目を開きました。
(ぼくは、本当にガッチやねむり王のいる世界へ帰れるんだろうか……。樹王は、帰す方法が見つかったとかって言ってたけど、ぼくにはぜんぜん話してくれない……。ぼくは、一体どうしたらいいんだろう……)
 サトルは、そっと体を起こすと、樹王とリリが眠っているのを確かめました。
 樹王は目をつぶって、まるで息をしていないかのように、静かに眠っていました。リリは、かわいそうに、ひとつしかない目を閉じられないまま、宙に目をさまよわせて、規則的な息を繰り返していました。
「はぁ……」と、サトルはため息をつくと、力が抜けたように、またころんと横になりました。
(ぼくもこのままここにいたら、リリのような木の人形のようになってしまうんだろうか……。目を閉じたくても、閉じられない木の人形に……。あーあ、本当にぼく、どうしたらいいんだろう……)
 サトルがぼんやりと赤い火を見ていると、樹王の囁くような声がしました。
「フッ……眠れないのか……サトル」
「えっ?」サトルが見ると、樹王はうっすらと目を開き、かすかに微笑んでいました。
「心配してるんだろう……本当に自分が帰れるかどうか」樹王が言うと、サトルが「うん」とうなずきました。
「しかたあるまい……ワシがサトルを元に戻してやると言った以上、黙ってばかりいるわけにもいかんだろう……」
 樹王は、ちょっとの間目をつぶると、「よし」と体をひと揺すりして、話し始めました。
「サトル……おまえが落ちてきた世界に戻すのは、たやすいことだ……しかし、おまえが住んでいた世界へ戻すのは、ワシにはどうしてやることもできん……。黙っていたのは、そのためだ……。ワシは、お前のような境遇に陥った者を何人も助けてきた。そこにいるリリもその一人だ……」
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よもよも

2020-06-23 06:07:29 | Weblog
いやはや。

寒かった。

寝床に入る前に我慢できなくて、

ひさびさストーブのスイッチ入れた。。

1時間もしないうちに暑くて消したんだけど、

暖房入れてなかったら手足出してらんなくって、

何にも手に着かなかった。

で、深夜に携帯に天気予報の速報流れて、

今日は一転夏日になるってさ・・・。

体もたんわXXX
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地図にない場所(80)

2020-06-22 18:56:49 | 「地図にない場所」
「知ってるんですか、無幻さんのこと……」
「ああ、知ってるとも……ワシの下で修業しておったんじゃよ……」と、木は思い出すように言いました。「ワシはな、樹王と呼ばれている……このドリーブランドを隅から隅まで知っている者だ……」
「隅から隅まで……」
「そう……隅から隅まで……ワシはな……このドリーブランドが、ドリーブランドになる前から……ここにこうやって立っておったのじゃ……その間には、いろんな事を見てきた……ワシの見てきたそのすべてが……ドリーブランドの歴史そのものなのだ……」
「でも、どうしてこんな砂漠の真ん中で……」
「ホッホッホッ……本当のワシはここにはおらんのだ……いや、ここにいるのもワシだが、本当のワシは、この世界より遙かに遠い世界に立っておる……そう……つまりワシは、一度にたくさんの場所に生きておるのだ……君が落ちてきたという世界も、ワシの生えておるどこかの世界じゃろう……」
 サトルは樹王の話を聞いて、これまで見たり体験してきたことを、思い出し思い出し、ひとつずつ話していきました。
「オー……あそこか……おまえはそこに戻りたいという訳か……」と、樹王がわかったというように、体を前後に揺らしながら言いました。
「はい、そうです。でも、ぼくは戻れるでしょうか――」と、サトルはたずねました。
 樹王は、しばらく黙っていましたが、ゆっくりと口を開いて言いました。
「おまえは、様々なことにとらわれすぎている……おまえが落ちてきた世界へ帰るには……よほど勉強せねばならないようだ……しかし……」
 樹王は「しかし……」と言ったきり、また目を閉じて、すっかり黙りこくってしまいました。サトルは、どきどきしながら樹王が口を開くのを待っていましたが、しばらくしてもまったく目を開ける様子がないので、また急に恐くなり、死ぬまでここにいなければならないんだ、とその場に座りこみ、手で顔を覆ってしまいました。
「……」サトルは、誰か人がそばにいるような気がして、手の間から真っ赤になった目をそっと開きました。
 と、樹王の陰から、誰かが顔を出してサトルをのぞいているのが見えました。
「あっ!」と、サトルは短く声を上げました。サトルをのぞいていた顔には、鼻も口もなく、ただひとつの目だけが、パッチリと大きく開いていたのでした。
 ひとつ目の顔は、サトルが驚いて声を上げると、さっと樹王の陰に隠れました。
「ほらほら……リリ……出てきてごらん……なにも怖がることはないよ……」と、目をつぶっていた樹王が、すっと目を開き、やさしい声で言いました。
 樹王が言うと、幹の陰から、背中まである長い髪をした木の人形が、恐る恐るうつむきながら姿を見せました。骨のように太い木の枝を、何本もつなぎ合わせたような人形でした。どうしてかはわかりませんが、人形はサトルと同じように、命があるようでした。しかしその顔には、まばたきをしない目が、大きくひとつついているきりでした。
 サトルは、またなにかの化け物かと思って、樹王と木の人形の顔を交互に見ながら、ずるずると後ろに下がりました。
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よもよも

2020-06-22 06:08:30 | Weblog
いやはや。

まじ寒い。。

それにしても、

都道府県間の行き来が解除になったせいか、

街の中急に車の量が増えたわ。。

良いのか悪いのか、

行き来が解除になったって、

別段ウィルスが消えたわけじゃないんだよね・・・。

油断大敵って言うけど、

なんかまずい気がするけどなぁ。。

って、このまま体育館も一般開放制限無くしてくれれば

いいんだけどなぁ。

あーあ。
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地図にない場所(79)

2020-06-21 18:20:57 | 「地図にない場所」
「わっ!」と、サトルはいきなり頭の上で声がしたのに驚いて、後ろに倒れました。天馬もびっくりしたらしく、今までサトルのそばでおとなしくしていましたが、声が聞こえたとたん、ヒヒーンと嘶き、空に舞い上がったまま、どこかに逃げていってしまいました。
「こらっ、ぼくを置いていくなよ――」と、サトルは言いましたが、臆病な天馬は、ぐんぐん離れていき、とうとう戻って来ませんでした。

「なーに……心配することはない……。そのうち落ち着いたら……戻ってくるさ……ホッホッホッ……」

 サトルは、ゆっくりと声のする方を見上げました。すると、大きな目玉が二つ、サトルを見下ろしていました。
「――うわっ」と、サトルは顔を引きつらせながら、後ずさりました。
「おおい……そんなに驚くことはないだろう……。ワシはただの木だよ……ホッホッホッ……」
 しかしサトルは、木のお化けが自分を騙そうとしていると思い、しばらくじっと様子をうかがっていました。しかし、ニコニコとした木の顔を見ていると、なぜだか気持ちがほんわかするような感じがしてきました。
「――あの、すみません。くすぐったわけじゃないんですが、砂漠の真ん中に立っていたんで、ちょっとめずらしいな、と思って」と、サトルは言いながら、ぺこりと頭を下げました。
「ほほう……おまえも上の世界から落ちてきたんだね……。まさか……悪いことでもしたのかい……」
「ぼくは、なにも悪いことなんかしてません。ただ、ただ無幻さんに言わせると、夢を見られなくなってしまったから、なんです――」
「ふうーん……」サトルが言うと、木は大きな息をひとつ吐いて、じっと考えこんでいました。
「君の名前は……」木は目を開けると、微笑みながら言いました。
「サトルです……」
「おお。君は異人だね……。もしかすると……君は私の知らないところから……落ちてきたのかい……」
 サトルは聞かれましたが、なんと答えてよいか、よくわからなったので、
「確か、ぼくの落ちてきた世界では、ドリーブランドとかって言ってましたけど……」
 と、言いました。
「ホッホッホッ……」
 サトルが答えると、木が体を揺らしながら、大きな口を開けて笑いました。サトルは、むっとした顔で言いました。
「――なにがおかしいんですか」
「いや、これは失礼……」と、木は笑いを押し殺すように言いました。「ここはな、どこもドリーブランドだよ……私が質問を間違えたようだな……無幻はなんと言っておった……」
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地図にない場所(78)

2020-06-20 17:46:52 | 「地図にない場所」
         8
 天馬に変身した馬は、自分の翼でどこまでも高く飛ぶことができましたが、やはり無幻道士の言ったとおり、ガッチ達のいる世界に行くことはできませんでした。
 自由自在に空を飛ぶ天馬も、見えない出口を探してさまよううち、だんだんと高度が低くなり、飛ぶ速さもだんだんと遅くなっていきました。
 サトルも、なんとかしてこの世界から抜け出そうと、思いを強く持ちましたが、自分の分身だった青騎士がいなくなった今でも、なにかほかに足りない物があるらしく、違う世界の入り口は、目の前に現れませんでした。
 元の世界にサトルを連れて行こうとして、必死になって空を舞う天馬でしたが、違う世界につながる扉が見つけられないサトルは、どこまでも透き通った空に目をこらしながら、天馬が苦しんでいるのをひしひしと感じていました。
「――あっ、木だ? それに、人もいるみたいだ」と、サトルはまぶしいお日様を手でさえぎりながら言いました「馬さん。あそこに下りよう」
 サトルが言うと、天馬はサトルが見つけた木に向かって、空を下りていきました。砂漠の真ん中にぽつんと生えた木は、遠く離れた所からもわかるほど大きく、青々とした葉を茂らせていました。
 死の砂漠に迷いこんでから、初めて見た生き物でした。天馬に跨がって空から見た世界は、どこも黄色い砂ばかりで、サトル以外の人や生き物は、まったく見あたりませんでした。
 やっとの事で休めそうな場所を見つけたサトルは、多少ならずとも、ほっとしていました。
 だんだんと近づいてくる木は、空から見下ろしていた時よりも遙かに大きく、まるで山のようでした。水も何もない死の砂漠の中で、ポツンと立っている姿は、もしかしたらただの幻ではないかと思うほどでしたが、風に吹かれてさらさらと揺れる梢は、間違いなく本物の木でした。

「うわー、でっかいなぁ……」

 と、木のそばで天馬を下りたサトルは、遙かに高い木を見上げながら言いました。
「――なんて名前の木なんだろう」
 サトルはぽんぽん、と木を手で軽く叩きました。
 すると、木の幹がボヨヨン、と手の平を跳ね返すようにうねった気がして、まるで動物の体を触っているようでした。そういえば、木のそばに立っていると、ドックン、ドックン……と、心臓の鼓動のような音が聞こえてきました。
 サトルは、もうねむり王はいないのだから、この木がねむり王が夢の中で作った怪物のはずがない、とわかっていましたが、心のどこかでは、いつ襲いかかってくるんだろう、とびくびくしていました。

「だれだ……ワシの体をくすぐるのは……」

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地図にない場所(77)

2020-06-19 22:53:21 | 「地図にない場所」
 ――ザザ、ドドッン、ババーン……

 サトルが川岸にたどり着くと、サトルの後を追うようにして、すぐに青騎士が姿を現しました。身につけた青い鎧は、川の水で真っ赤に塗りつぶされ、青白かったその顔は、血気せまる形相をしていました。そしてなぜか、青騎士の全身から白煙が立ち上り、酸っぱい匂いが、辺り一面に漂っていました。
「フッフッフッ……ザドル!」と、青騎士は震える声で叫びながら、とうとうと流れる赤の川を、のしのしと、一歩一歩踏みしめるように、サトルに近づいてきました。
「――チッ」
 と、サトルは舌打ちをしました。もはや、川岸から這い上がる力もないほど、疲れ果てていました。それでも迫り来る青騎士を、キッとした目で見据えていました。
(ぼくは、ぼくだ……ぼくは青騎士なんかじゃない……こんなやつに、ぼくを取られてたまるか……あれは、本物のぼくじゃない!)

「サトルは、ぼくダーッ!」

 と、サトルが叫ぶと、青騎士は放心したようにピタッと立ち止まりました。すると、みるみるうちに、青騎士の頭からドボドボと、黒い液体が流れ出し、赤の川に溶けて流れ出しました。
 黒い液体は、青騎士の鼻といわず耳といわず、目といわず口といわず、ありとあらゆる所から流れ出し、しまいには青騎士の体全体が、真っ黒の液体に変わって、ドボンッと赤の川に横倒しになりました。青騎士は、川を流れていくひと筋の黒い帯になってしまいました。
 サトルは、なぜか自分が勝ったとは、思えませんでした。青騎士は、赤の川に溶けてしまったかもしれません。けれど、サトルの心の中では、まだ青騎士が叫ぶ「サトルー!」という声が、どこかで聞こえてくるように感じていたのです……。

 ヒヒヒーン――……。

 と、馬の甲高い嘶きが、サトルのすぐそばで聞こえました。青騎士がまた川から現れるのではないか、と心配していたサトルは、やっぱりまた出たか、と振り返りました。
 しかし、そこには青騎士が乗っていた馬ではなく、なぜか真っ白くたくましい馬に変身した馬が、立っていました。白い馬は、サトルがびっくりして見ていると、
「さあ、早く上がってこい!」
 と、言わんばかりに何度も足踏みし、サトルが岸から這い上がれないのだとわかると、ボロボロになってしまったサトルの服を噛み、ズルズルと引っ張り上げました。
「あ、ありがとう……」と、サトルはちょっと困ったように言いました。
 白い馬は、上下に首を振り、サトルの目の前で飛び上がったり、グルグル回ったりして、なにやらサトルに話しかけているようでした。
「えっ……もしかして、ぼくに乗れって言ってるの――」と、サトルがおずおずと聞くと、白い馬はヒヒーン、とひとつ嘶きました。
「うん」
 サトルは、白い馬に手伝ってもらいながら、やっとの事で馬に跨がると、白い馬は待ってましたとばかり、赤の川を飛び越え、いっさんに砂を蹴立てながら、真っ直ぐに死の砂漠を駆けていきました。
「うわーっ、早いや」と、サトルは言いました。そのくらい、馬の背は気持ちがよかったのでした。頭上に輝くお日様が、いくら激しく照りつけても、馬の背に揺られている間は、苦しい熱気も、馬が作った風に吹き飛ばされてしまいそうでした。
 馬は、生きているものの力をすべて吸い取ってしまいそうな死の砂漠を、だんだんと加速をつけて走りました。その疲れを知らない走りが、やがて頂点を迎えると、白い馬はフワッ、と宙に浮かび上がりました。
 サトルが気づかないうちに、馬の額には螺旋を描いた鋭い一本角が生え、たくましい胸の辺りには、大鷲のような翼が伸びていました。サトルは、突然のことにギョッとしましたが、空を駆ける天馬にしっかりつかまると、大空高く舞い上がっていきました。



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よもよも

2020-06-19 06:11:11 | Weblog
いやはや。

寒い。。

もう少し寒くなったら、

ストーブ点灯させなきゃ風邪引くわ・・・。

雪は降ること無いと思うけど、

ここんところの気温は高低が激しすぎてつらい。

ようやく知事が会見して、札幌との行き来が解除になったけど、

東京もそうだけど、

正直このタイミングでか? って感じ。。

雪まつりも根性出して大雪像作らないけど開催するって決めたらしいし、

でも今年そこからこの感染症騒ぎが始まったのに、

ホントにそれでいいのかよって、首かしげるばかりだよね。。

ステージ何チャラってどんどん制限が緩くなってくけど、

なんか理屈後付けでなんか見切り発車的な感じもするのは

不安が先に立つからなんだろうか??

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