樹王は、話を途切ると、ちらっとリリを見やりました。どうやらサトルにはよくても、リリには聞かれたくないらしく、目を覚ましやしないか、と気にしているようでした。サトルは、そうっとリリを揺すって、確かめました。リリは、ぐっすりと寝入っているようでした。
「……このリリもな、おまえが落ちてきた世界から、この砂漠へやって来たのだ。今でこそこのような姿になっておるが、やって来た時は、それはきれいな娘じゃった。背格好も、サトルと変わらんじゃろう……しかし、この娘は……ドリーブランドが生まれる前から生きてきたワシも感心するほど……とっても優しい心を持っておる。……サトルがここに落ちて来たように、この娘は……真っ直ぐに落ちてきたわけではないのだ。話によると……いくつもの世界を渡り歩いておったらしい。その中には……いまだワシも踏み入れておらん異世界も含まれていたようじゃ……」
「異世界……?」と、サトルが身を乗り出して聞きました。もしかして、帰る方法がわかるかもしれない、と思ったのでした。
「まあ待て……そう慌てなさんな。このリリはな……歌が得意なんじゃ。しかし、ただの歌ではない。聞いた者の心を、夢中にさせてしまうのだ。……一度聞いてしまえば、いつまでも聞いていたくなってしまう歌だ。……つい心地がよくなって歌に聞き入ってしまうと、知らず知らずのうちに、時間が過ぎていくのも忘れ、ついには自分を見失い、挙げ句の果てに、死の砂漠に落ちてしまうのだ。……だからリリは、そんな自分の歌を恐れて、逃げるように旅を続けていたのだ……決して果てなどない、気の遠くなるような旅のすえ……終焉の地として、とうとう自らが、死の砂漠に落ちてきたのだ……。
しかし、この砂漠も、リリが安心していられる場所ではなかった。人は……たとえ死の砂漠に落ちてもなお……リリの歌を耳にすると……リリを追いかけて、死の砂漠をやって来たのだ。
リリは、自分の歌が……人々を砂に変えてしまう罪の意識にさいなまれ……逃げるように死の砂漠をさまよい歩き……とうとうこのワシの所まで、やって来たのだ……ワシは、なんとかこの世界から、リリを脱出させようと試みた。しかしな……この娘はあまりにも多くの世界を見過ぎたのだ……やって来てから三日……ついに口を失ってしまった」
「――自分の歌が嫌いになったから、かな」と、サトルは言いました。
ちらり、とサトルの様子をうかがった樹王は、小さくうなずきました。
「サトルにはわからんだろうが……この砂漠がなぜ死の砂漠と呼ばれるのかというとな……この世界に落ちてきた者は……すみやかに上の世界へ戻らぬ限り……だんだんと疑問や悲しみが深まって行くにつれ……落ちてきた者の姿を異形のものに変え……しまいには黄色い砂にしてしまうのだ……。
ワシにたどり着いた者は……ワシの力でなんとかしてやることができるのだが……この娘は……けれどわしの手には負えず……ワシの見守る中……次第にその姿を変えていったのだ……。おまえも……あの娘の顔についている目が気になったであろう……」
「あの……閉じない目、ですか」と、サトルが自分の目を指差しながら言いました。
「ウム……あの目はな……ワシがあの娘の眠っている間に、顔に彫ったものなのだ……」
「……顔に、彫る……」と、サトルは眉をひそめて言いました。
「……このリリもな、おまえが落ちてきた世界から、この砂漠へやって来たのだ。今でこそこのような姿になっておるが、やって来た時は、それはきれいな娘じゃった。背格好も、サトルと変わらんじゃろう……しかし、この娘は……ドリーブランドが生まれる前から生きてきたワシも感心するほど……とっても優しい心を持っておる。……サトルがここに落ちて来たように、この娘は……真っ直ぐに落ちてきたわけではないのだ。話によると……いくつもの世界を渡り歩いておったらしい。その中には……いまだワシも踏み入れておらん異世界も含まれていたようじゃ……」
「異世界……?」と、サトルが身を乗り出して聞きました。もしかして、帰る方法がわかるかもしれない、と思ったのでした。
「まあ待て……そう慌てなさんな。このリリはな……歌が得意なんじゃ。しかし、ただの歌ではない。聞いた者の心を、夢中にさせてしまうのだ。……一度聞いてしまえば、いつまでも聞いていたくなってしまう歌だ。……つい心地がよくなって歌に聞き入ってしまうと、知らず知らずのうちに、時間が過ぎていくのも忘れ、ついには自分を見失い、挙げ句の果てに、死の砂漠に落ちてしまうのだ。……だからリリは、そんな自分の歌を恐れて、逃げるように旅を続けていたのだ……決して果てなどない、気の遠くなるような旅のすえ……終焉の地として、とうとう自らが、死の砂漠に落ちてきたのだ……。
しかし、この砂漠も、リリが安心していられる場所ではなかった。人は……たとえ死の砂漠に落ちてもなお……リリの歌を耳にすると……リリを追いかけて、死の砂漠をやって来たのだ。
リリは、自分の歌が……人々を砂に変えてしまう罪の意識にさいなまれ……逃げるように死の砂漠をさまよい歩き……とうとうこのワシの所まで、やって来たのだ……ワシは、なんとかこの世界から、リリを脱出させようと試みた。しかしな……この娘はあまりにも多くの世界を見過ぎたのだ……やって来てから三日……ついに口を失ってしまった」
「――自分の歌が嫌いになったから、かな」と、サトルは言いました。
ちらり、とサトルの様子をうかがった樹王は、小さくうなずきました。
「サトルにはわからんだろうが……この砂漠がなぜ死の砂漠と呼ばれるのかというとな……この世界に落ちてきた者は……すみやかに上の世界へ戻らぬ限り……だんだんと疑問や悲しみが深まって行くにつれ……落ちてきた者の姿を異形のものに変え……しまいには黄色い砂にしてしまうのだ……。
ワシにたどり着いた者は……ワシの力でなんとかしてやることができるのだが……この娘は……けれどわしの手には負えず……ワシの見守る中……次第にその姿を変えていったのだ……。おまえも……あの娘の顔についている目が気になったであろう……」
「あの……閉じない目、ですか」と、サトルが自分の目を指差しながら言いました。
「ウム……あの目はな……ワシがあの娘の眠っている間に、顔に彫ったものなのだ……」
「……顔に、彫る……」と、サトルは眉をひそめて言いました。