「そりゃ、そうでしょう」と、スーツを着た子供は言った。「戦争に利用されない時代が来るのを信じて、彼の父親が棺桶に入れたんです」ほら、ここにちゃんと書いてありますよ――。
と、スーツを着た子供が急に黙りこくった。
「すみませんが、今のはすべて聞かなかったことにしてください」
「――なにか、法に触れることでもあったのか」と、伊達は心配そうに言った。
「またやってしまいました」と、スーツを着た子供はため息を漏らして言った。「手帳の下の欄に、関係者以外秘匿の印が書かれていました。――どうして見落としたんだろう」
「秘匿? ヤツも俺のような魂だけの存在ということか」と、伊達は言った。
「いいえ。そうではないんです」と、スーツを着た子供は首を振った。「彼は、“神の杖”の知識を応用して、造られているんです」
と、はっと目を見開いたスーツを着た子供は、ぶるぶると慌てて首を振って打ち消した。
「いえいえ、違いますよ。“神の杖”だなんて、それはこっちの問題ですから。もはや亡くなっているあなたには、なにも関係ないことですから――」
聞かなかったことにしてください――と、スーツを着た子供は深々と頭を下げたが、それまで仰向けになって宙を見上げていた伊達は急に立ち上がると、言った。
「悪いが、“神の杖”と聞いて黙っていられるほど、俺の魂は優しくないんだ」
ジローにとっては、一瞬のできごとだった。しかし、伊達にとっては、たくさんの情報を得る長い一瞬だった。
宝石店を離れようと小走りに駆け出したジローのそばで、息を吹き返した操り人形のように、不気味な動きで立ち上がった伊達が、ジローの後ろ手を取り、抱きかかえるように引き寄せると、自分が冷たい石の床に放り投げられたのと同様に、ジローをいとも易々と持ち上げ、硬い床に叩き落とした。
――ガシャン。
と、大理石の硬い床が蜘蛛の巣のようにひび割れ、仰向けになったジローは、目を白黒させていた。
「立て」と、伊達はジローの胸をつかんで立ち上がらせると、力任せに拳を頬に叩きこんだ。
「ううっ」
と、声を漏らしたジローは、屏風倒しになったドアと並ぶように、だらりと手足を伸ばした格好で倒れ、焦点の定まらない目で天を見上げていた。