夜の帳がおりかける頃、薄闇の部屋の中へ淡く差し込む一条の光がありました。
西日を防いで閉じてあったカーテンの隙間から、漏れてくる落日の赤です。
気がつけばいつの間にか夜の一歩手前、
窓を開けたら自然色の壮麗が視野いっぱい広がっています。
いそいでカメラを取りに行くうちにも、地球は回り続けて
みるみる濃い墨色に染まってゆきました。
ごくんとツバを飲みこんで、ふ~と出たため息、どちらが先だったでしょう
朝夕見慣れた周辺の風景が、ここまで鮮やかに彩られるいっときのあるのを忘れていました
夢でなく現実の世界を、自分が今生きているとはっきり自覚したのはいつの頃からだったでしょう
惜しげもなく朝夕繰り広げられるパノラマの、その時々の微妙な色合い
色を扱いながら、絵とも写真とも違う自然の深い色をいつか置き去りにしていたような。
天然岩緋を幾重にも塗り重ねたら…、それでもこの消失の前の一瞬の輝きとは、どこかが違う。
ちまちまと描くことに熱中して、季節の移ろいやときの流れが完全に消えていることもよくあります。
そのときは人間も忘れて、小さな獣のように目を光らせながら喘いでいるようにも思われます。
あれも、これも。足りないものばかり増えつつある自分をまるで別人みたいに眺めました。
…いつか不思議な朱の色は跡かたもなく消えていました。
夜空に遠く家々の明かりが瞬いて、平凡な一日の終わりが始まろうとしています。
心に憂いが残っていないことを確かめて、次の段階、夕食の支度に頭を切り替えました。
訳の分からない歌詞をつけてハミングしながら。