冷奴のおいしい季節です。
スーパーの棚にズラリ並んでいるお豆腐の数々、四角にまるに楕円形、大小さまざま数えてみたけど大概途中で分からなくなってあきらめるのがオチです。
そしてそのたび胸をよぎるのが、子どもの頃の楽しい夏休みの思い出を、一点曇らせてしまう切ない思い出。
登校時間の心配もなく、ゆっくりのんびり朝寝を楽しみたいのに、いつも夢路を破るのは母の優しげな声でした。
「○○ちゃん、さぁ起きて。
早くゆかないと今日もオトーフ買えないから」
寝ぼけまなこに小さな鍋とお金をしっかり握って、近くのお豆腐屋さんへ駆けつけましたら、
お店は厚くカーテンを下ろしたまま、そしててんでに容れ物を抱えて10人あまりの行列ができています。
しばらくすると、カーテンが開き戸がガラガラあけられて、
「さ、はいったはいった」と無愛想なおばはんが誘導するのですが、2~3人前のあたりまでくると無常にも「今日はこれまで」と遠慮会釈なしに客を押し出してしまうのです。
食料は厳重に規制されて何もかもが配給の時代でした。
主食のごはんの中は大豆だらけでお米がちょっぴり顔をのぞかせ、かといってお豆腐は大豆がないから毎日わずかの製品を作って売るだけ。
おまけに絶対量が少なくて一日保てるかどうか? いいえ絶対に足りてはいません!
中にはお願いなんとか分けてくださいと粘って頭を下げているいるおかァさんの姿も一度ならず見かけましたが、
お米屋さんもお豆腐屋さんも偉い大将で、客は兵卒扱いです。
しっ、しっ。口には出さないまでも手で追い払われてすごすご帰ると、次の日はより早く起こされて、またもや同じことの繰り返し。
帰ってからもまだ眠りこけている四つ違いの兄きを見ては、何で妹の私ばかりがお使いなの、って幼な心に大きな不満が生まれました。
一足早い男女同権意識の目覚めです。
そもそもお豆腐とは… なんて大げさ
あの、ただただ私の頭の中を占めるのはこんな切ない思い出がすべてなのでございます。(*´◇`*)★☆★☆
今夜も冷たく冷えたお豆腐に、刻んだねぎやシソの葉や茗荷などのせて、ショウガと花かつおをまぶして~
あぁ 申し訳ないほど豊かな時代ですね
豆腐屋のおばさんも米屋のおじさんも、今生きていたらきっと笑顔で楽しく商売に励み、他人からも好かれていたでしょうに
環境が人を変え、そして誰もそれを意識しなくなる、そんな時代を経て平和の尊さを知ったのは、私の大きな財産だったと思いました。