省エネのため今年扇風機を寝室に置きました。
これならちょっと現代風に見えるかもとタワー型の黒い扇風機を買ったのですが、吹いてくる風は生暖かい昭和の風です。
眠苦しい夏の夜、単調な微風の音に、さっき見たテレビからいつか想いを遡っていました。
今扇風機さえ飛び越えて、蚊帳が見直されているんですって。
ある保育所でお昼寝の時間大型の蚊帳をつってから、子どもたちがすぐにすやすや眠りこんでしまったそうです。
ヘーぇ、蚊帳・・・
確かに、あの水色のグラデーションで織られた麻布は見るからに涼しげで、
中に横たわって見上げれば外界はおぼろに霞み、あらゆる敵から守ってくれる砦になって見えたものでした。
一日の緊張から解放されて安らかに眠れる最高の憩いの場所なのでした。
保母さんの言葉を借りると、お母さんの胎内にいるような安らぎを、こどもは感じるのでしょう、と。
蚊帳・・・・、ホタル、うちわ・・・浴衣・・・スイカ ・・・
昭和前半を回想すると苦しくなる方が多いのですが、反面楽しいこともまた沢山隠れているようでした。
子どもの頃の平和な思い出ほど、心をうるおしてくれるものはありません。
蚊帳の中で聞いた空襲警報、光りも音も漏らさぬようひっそりと息さえ殺した夜毎の灯火管制、
国難といわれる今を100としたら、あの頃はどれくらいの数字がふさわしいのか、そんなことは考えたくありません。
ベッドにも案外蚊帳は似合いそう
でも、扇風機さえなかったあの頃のように、戸を開け放して夜風で冷せる時代ではないし
蚊帳に放したホタルも今は宝石のように貴重に見えるし、やっぱり蚊帳はおもいでのなかにこそ。
30年くらいも昔、段ボールの箱にしまいこまれたまま、そっくりゴミ捨て場へ直行したのは宿命とはいえ
化学が幅を利かす現代、魔法のように息を吹き返したのですからその生命力はあっぱれです。
そしていうなれば母の胎内にいたときの安らぎとは、
きっとこのようなものだろうとの自覚もないままいつか眠りについていたのでした。