今年も林檎の季節が巡ってきました。
店頭に溢れる艶やかな色と芳香はひとを不思議な魅力で捕らえます。
そして見ると必ず反射的に浮かぶ島崎藤村の詩があります。
戦後のひび割れた人心を暖かく潤してくれた「リンゴの唄」も有名ですが
初恋の心情を詠いあげたこの詩は、リンゴではなく林檎です。
まだあげそめし前髪の 林檎のもとに見えしとき
前に挿したる花櫛の 花ある君と思いけり
優しく白き手をのべて 林檎を我に与えしは
薄くれないの秋の実に 人恋いそめし始めなり
古き良き時代、この境界に身を置いた少年が見た「花ある君」
そのときの心の震えと驚き、初恋の心情を歌ってこれ以上のものを知りませんが
はて、現代の若者には通じるかしら?
案外次郎なら、うん、わかる!と輝いた目で反応してくるかもしれません。
でも太郎は…ちよっと当惑気味の笑いを浮かべて首をかしげそうな気がします。
へっ、と笑い飛ばすに違いない息子だったら
あとでこっそり書棚の奥の詩集など探している姿がくっきりと。((^┰^))ゞ
知人から一箱林檎を頂きました。
わが心なき溜息の その髪の毛にかかるとき
たのしき恋の盃を 君が情に酌みしかな
林檎畠の樹の下に 自ずからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと 問いたもうこそ恋しけれ
芳醇な果実を含みながら、四連の詩がすらすらと滞りなく口を衝いて出てきます。
光景までもが絵を見るように鮮やかに浮かびます。
私のシナプスはいまだ健在で、初恋の情感を繋いでくれていたのでした。 (*^^)vイエイ♪