おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

暗くなるまで待って

2019-05-01 07:36:32 | 映画
「暗くなるまで待って」 1967年 アメリカ


監督 テレンス・ヤング
出演 オードリー・ヘプバーン アラン・アーキン
   リチャード・クレンナ  エフレム・ジンバリスト・Jr
   サマンサ・ジョーンズ  ジャック・ウェストン

ストーリー
カナダからニューヨークに帰る途中に知り合った女から、夫のサム(エフレム・ジンバリスト・Jr)が人形を預かって来たことで、盲目の妻スージー(オードリー・ヘップバーン)は、思いがけない事件にまきこまれていった。サムもスージーも知らないことだったが人形の中には、ヘロインが縫いこまれていたのだ。
そのヘロインをとり戻すべくマイク(リチャード・クレンナ)、カルリーノ(ジャック・ウェストン)、そして犯罪組織のリーダーであるロート(アラン・アーキン)の3人が、スージーのアパートに集まった。
部屋中探しまわったが、人形は見つからなかった。
そこへスージーが帰宅したが、盲目の彼女は、3人がいることに気がつかなかった。
その翌日、妙な予感からスージーが止めるのもきかずに、サムはニュージァージーに仕事に行った。
サムが出ていって間もなく、スージーはサムが煙草の火を消し忘れていったのが煙を出して、見えない彼女は恐怖から大声で叫んだ。
そこへマイクがサムの海兵時代の仲間といつわって入って来て、火を消しとめ、人形のあり場所をと思ったが、スージーの手伝いをしてくれるグローリアという少女が入ってきたので、引き上げざるを得なかった。
しばらくしてグローリアが買物に出たあと今度はロートが初老の男に化けて現れ、自分の息子の妻がよその男と不貞を働いていて、その相手がどうもサムらしいといい、不貞の証拠を探すふりをして部屋中をかきまわしたが、やはり人形はみつからなかった。
そこへ再びマイクが忘れ物をしたという口実で入ってきて、乱暴者を送り出してやろうと警察に電話をした。
だが、呼ばれて入ってきたのは警官をよそおったカルリーノだった…。


寸評
「暗くなるまで待って」というタイトルが中々洒落ていて、それでいて結構中身の雰囲気を出したいい題名だ。
夫でもあったメル・ファーラーが製作者として係わっていることもあって、オードリー・ヘプバーンを美しく撮ろうとしている。
オードリーが演じる盲目の妻スージーがアップとなるシーンでは盛んにソフトフォーカスが用いられ、紗がかかった画面は彼女のソフト感を出しているが少々鼻につくことも…。
これは想像だが、テレンス・ヤングの意図というよりメル・ファラーの希望だったのではないかと思う。

映画は麻薬を横領しようとした女リザからサムが空港で人形を渡される場面から始まる。
その間のやり取りは聞こえず、内容はずっと後で犯人から知らされる。
そして仲睦まじいサムとスージの様子が描かれ、スージーが盲目であることが分かる。
やがて犯人達はスージーの家に現れるが、犯人探しのスリルはない。
当初から犯人は誰であるかが判明しており、興味はスージーがどのようにして犯人であることを見抜き、危機を脱出するかにかかってくる。
犯人の三人は人形の行方を突き止めるために一芝居打つ事になるが、それぞれの担当キャラクターの設定が作品を面白くしている要因の一つになっている。
ロートは一番の悪で、マイクは紳士的なところがあり最後にはスージーに感心してしまっているようだった。
そしてカルリーノはちょっと頭が悪い肉体派といった具合だ。
犯人探しではないので、ラストに向かって伏線がいたるところに張られている。
しかもその伏線は一瞬のこととして描かれているので、うっかり見ていると見逃してしまうくらい微妙だ。
ロートが忍び込んだ家で人形を探すが、洗濯する為に入れてあったのか、スージーの下着の匂いを嗅ぐシーンが挿入される。
これは最後にロートがスージーを襲う場面につながっていて、スージーも事前に少しそのことを漏らしている。
サムが会社に出かける時にスージーに行動について厳しくいい、スージーが「頑張る」と言って見送る場面があるが、ラストではサムが「頑張ったね」とスージーを抱きしめるのは繋がっていると思う。
グローリアという少女との関係などもやがて効果をもたらしてくるように仕組まれている。
犯人が動かして去って行った椅子にぶつかり、グローリアがやったと思い込んで不満を言うシーンなどは、グローリアとの関係と、室内の状況にスージーが慣れ親しんでいて、盲目に係わらず室内をスムーズに移動する違和感をなくすためのシーンと思われるのだが、これも一瞬の会話だ。

スージーが盲目であることから、逆に音が重要なファクターとして描かれる。
盲目の人の過敏な聴力は靴音で同一人物を言い当ててしまう。
ふと吹き鳴らした口笛のメロディにも反応する。
ラストでのグローリアとの連絡のやり取り、グローリアが無事監視を潜り抜けたことを知らせるためにとる行動など、細部にわたり細やかである。
それだけ聴力に優れているスージーなら、彼女が言った番号をマイクが廻さなかったことに気づいてもよさそうには思ったけれど…。
脚本の妙が冴えわたる作品だが、オードリーは平凡主婦より、やはりエレガンスな役の方が良く似合う。