おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

クラッシュ

2019-05-02 09:46:58 | 映画
「クラッシュ」 2004年 アメリカ


監督 ポール・ハギス
出演 サンドラ・ブロック ドン・チードル マット・ディロン
   ジェニファー・エスポジート ウィリアム・フィクトナー
   ブレンダン・フレイザー テレンス・ハワード
   クリス・“リュダクリス”・ブリッジス タンディ・ニュートン
   ライアン・フィリップ ラレンズ・テイト ノーナ・ゲイ

ストーリー
クリスマス間近のロスで黒人二人組・アンソニーとピーターは地方検事のリック夫妻の車を盗んだ。
白人警官のライアンは、黒人のTVディレクター・キャメロン夫妻が乗った車を強制的に停め、権力を使って屈辱を味あわせ、妻のクリスティンはライアンを憎悪し、夫との間には溝が出来た。
一方ライアンの相棒で若いハンセンはライアンに嫌悪感を覚えた。
ペルシャ人の雑貨店主ファハドは、黒人ダニエルに鍵を直させるが口論になった。
パトロール中のライアンが交通事故現場に駆けつけると、被害者はクリスティンだった。
別の場所で車がパトカーに停止させられ、乗っていたのはキャメロンだ。
警察への憎悪に駆られたキャメロンはあわや射殺されそうになるが、それを助けたのはハンセンだった。
ファハドは再び強盗の被害にあうが、保険会社は保険金を払えないといった。
ダニエルを逆恨みしたファハドは射殺しようとするが、間に入ったダニエルの娘を撃ってしまう。
しかしファハドの娘が拳銃に空砲を入れていたので娘は無事だった。
ピーターがヒッチハイクすると運転手はハンセンで、行き違いからハンセンはピーターを射殺してしまう。
黒人刑事グラハムが事故に巻き込まれ、偶然近くで発見された死体は探していた弟・ピーターだった。
アンソニーが盗んだ車の荷台に大勢のアジア人が身を潜めていたが彼は一同を街中に開放した。
その横では今日も異なる人種の人々が車をクラッシュさせ、怒鳴りあっていた。


寸評
すばらしく練り上げられた脚本の群像劇だ。
群像劇というと、登場人物が入り乱れてゴチャゴチャしたり、一つ一つのエピソードが薄っぺらくなりがちだが、これはかなり完成度の高い作品となっている。
登場人物が微妙に絡んでいるのだが、それが劇的に交わるでもなく微妙に絡むのがいい。
底辺に流れているのが人種差別と偏見である。
日本人である僕はアメリカ社会にはびこる個人差別を体感しているわけではないが、白人社会にある黒人差別と黒人を初めとするマイノリティーたちの被害者意識は、部外者である僕が見ていても伝わってきた。

登場するのは、地方検事夫妻、TV番組のディレクター夫妻、車を奪った犯人とそれを追う警察官たち、鍵屋の男、移民の雑貨屋店主とその家族などだが、どれもが暗くて重い内容である。
検事のリック夫妻は黒人二人に車を奪われ、妻のジーンは防犯に過敏となりドアのカギを付け替えるが、その作業者が黒人なので合鍵を強盗に渡すのではないかとさえ言い出す始末で、夫との関係もおかしくなる。
ディレクターのキャメロンは警官に呼び止められ、妻のクリスティンは警官のライアンにセクハラを受ける。
それをどうすることもできなかった夫を軽蔑し、夫婦関係にひびが入ってしまう。
鍵屋の男は家族思いで娘におとぎ話を聞かせて可愛がっているのだが、訪問した雑貨店主から暴言を浴びせられ、その腹いせに店を無茶苦茶にしてしまうが、もしかすると濡れ衣だったかもしれない。
雑貨店主はペルシャ人で、アラブ人と間違えられたりしてうんざりし銃砲店で護身用の拳銃を買う。
かなり被害者意識が高くなっていそうだが、何とか娘がとりなしている。
それにもかかわらず、店主は財産を失った恨みから鍵屋を殺そうとする。
黒人刑事のグラハムは白人警官が黒人警官を射殺した事件で、窃盗犯として逮捕状が出た弟の釈放と引き換えに不本意な決定を強いられる。
登場人物はどこかに欠点を持つ、いや非常に悪感情を抱かせる者たちばかりだ。
しかし善と悪を併せ持つのが人間の本来の姿なのだとでも言いたいのか、それまで悪行を重ねてきた登場人物がわずかな善意を見せていく。

クリスティンは自動車事故に巻き込まれ、横転した車に閉じ込められている。
救出にきた警官がセクハラをしたライアンだと判り、かたくなに接触を拒否するがガソリンに引火しそうなことを知って身を任せたところ、ライアンは死を前にしながら決死の救出を行い、助け出したところで車は大爆発を起こす。
クリスティンはライアンに複雑な表情を見せる。
ジーンはある日階段から落ちて身動きできなくなるのだが、親友と思っていた白人女性は助けてくれない。
助けてくれたのは普段見下していた黒人のメイドで、ジーンは彼女にあなたは親友だと告げる。
ライアンのセクハラを見たトムは相棒の解消を願い出て一人でパトロールしているのだが、ある日その時の被害者であるキャメロンが警官に射殺されそうなところを救ってやる。
しかし、その彼も…という複雑なものだが、全体としては複雑に絡み合っていくが難解なものではない。
人持つの善と悪の側面が巧妙に描かれていき、ペルシャ人店主が放つ銃弾の結末、ライアンのとった行動は人間の善の部分の光明を感じさせた。