おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

クレイマー、クレイマー

2019-05-10 07:36:48 | 映画
「クレイマー、クレイマー」 1979年 アメリカ


監督 ロバート・ベントン
出演 ダスティン・ホフマン   メリル・ストリープ
   ジャスティン・ヘンリー  ジョージ・コー
   ジェーン・アレクサンダー ハワード・ダフ
   ジョベス・ウィリアムズ

ストーリー
ジョアンナ・クレイマーは結婚して8年、今日も夜通し帰らぬ夫を持ってついに夜明けを迎えていた。
最初は幸せだった結婚生活も、今ではもう無意味なものに感じられていた。
夫テッドは仕事第一主義で帰宅はいつも午前様だ。
7歳になる子供ビリーのことを気にしながらも、ジョアンナは自分をとり戻すために家を出る決心をした。
上機嫌で帰って来たテッドは、妻のこうした変化には気がつかず、妻の別れの言葉も耳に入らない。
テッドの生活はその日から一変し、これまでノータッチだった家庭の仕事をまずやらなくてはならなくなった。
上役の心配は的中し、テッドは家の中にまで仕事を持ち込むはめになり、しかもその場もビリーに邪魔された。
父子2人の生活はうまくかみ合わず、まるで憎み合っている関係のように感じられることもあったが、そんなことを繰り返しながらも、少しずつ互いになくてはならない存在になっていった。
ところが、テッドに思いもかけない出来事が待っていた。
公園のジャングルジムから落ちて、ビリーが10針も縫う大ケガをしたうえ、1年以上も音沙汰なかったジョアンナが突如現われて、ビリーを取り戻したいと言ってきたのだ。
失業中のテッドは東奔西走してやっと職はみつかったものの、裁判は予想通りテッドには不利に運び、結局ビリーはジョアンナの手に渡ることになった。
ビリーなしの生活は考えられなくなっていたテッドは狂乱状態に陥った。
2人が最後の朝食であるフレンチ・トーストを手ぎわよく作りはじめたころは、ビリーの目は涙であふれていた。
そんなビリーを見て、テッドも悲しみをこらえることはできなかった。


寸評
離婚とその後に起こる子供の親権問題が抑えた演出で切々と迫ってくる秀作だ。
離婚に関しては、妻の悩みを仕事にかこつけて全く理解していない夫に愛想を突かせる形でケリがつく。
テッドは仕事に没頭して家庭を顧みないような所があるものの、暴力をふるうわけでもないし、酒乱でもない。
浮気をしていることもないし、子供への虐待も行っていない。
テッドは妻を家庭に縛り付けていることを除いてはごく普通の夫である。
子供を残してまで妻は自分らしさを求めて出ていってしまう。
サービス残業に追い詰められている日本のサラリーマンから見ると、これで離婚されたらたまらんという状況だ。
シングルファーザーとなったテッドにはたちまち困難が降り注ぐ。
幼いビリーの世話と仕事の両立という問題だ。
テッドは優秀なので重要な仕事を任されているのだが、このような状況になると優秀な人間ほど大変になるという教訓でもある。

先ずは子育ての大変さが描かれるが、やんちゃぶりを見せるビリーのジャスティン・ヘンリー が、ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープという芸達者に一歩も引けを取らない演技を見せる。
大人びた発言や行動がたまらなく可愛い。
仕草の可愛さも手伝って、テッド、ジョアンナの元夫婦がビリーを欲しがるのも無理はないというものだ。
ギクシャクしていた父子だったが、よきパパぶりを見せていくダスティン・ホフマンの奮闘ぶりが微笑ましい。
フレンチ・トースト作りでは家事の大変さを象徴的に見せる。
雑貨の買い出しでは母親の子供への影響力をこれまた象徴的に見せている。
僕も孫と食料品の買い出しに行くと「いつもママはこの牛乳を買っている」とか、「こっちの方が安くて美味しい」などとアドバイスされ、母親べったりな関係を微笑ましく感じたものだ。
テッドはそんな気分には浸っていられない切羽詰まった状況に置かれていることを上手く表現しているシーンだ。

テッドの奮闘ぶりが描かれることで妻のジョアンナの登場シーンはなくなっていたのだが、再び登場した時のメリル・ストリープの表情は天下一品だ。
ビリーが通う学校の向かいの店からビリーの姿を眺めているのだが、ビリーを手放してしまった後悔が無言のうちに伝わってくるものだ。
裁判劇でもメリル・ストリープは微妙な心の内を戸惑いの表情を見せながらジョアンナを演じている。
ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープは上手い!
マーガレットのジェーン・アレクサンダーもいい役をもらっていて、ジョアンナの友人というだけでなく、彼女もシングル・マザーとなっていて元夫婦を気遣う良心的な女性である。
彼女の顛末も省くことなく付け加えているのも心温まる。
親権問題で決着がつき物語も最後を迎えるが、ここからの展開とクレイマー一家三人が見せる表情は感動的。
ビリーに会いに行くジョアンナがビリーに告げる言葉を想像しながら、マーガレットが出来たなら、クレイマー夫婦だってできるだろうにと思った。
離婚と親権問題を描いた作品の中では出色の出来だ。