「人生劇場 飛車角と吉良常」 1968年 日本
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監督 内田吐夢
出演 鶴田浩二 高倉健 藤純子
辰巳柳太郎 若山富三郎
中村竹弥 大木実 信欣三
天津敏 山本麟一 村井国夫
山城新伍 遠藤辰雄 名和宏
八名信夫 松方弘樹 左幸子
ストーリー
大正十四年。八年ぶりに上海から故郷に戻った吉良常は、文士になるため東京で勉強している亡き主人青成瓢太郎の子瓢吉を尋ね、瓢吉の家に腰をおろすことになった。
その頃、砂村の小金一家と貸元大横田の間にひと悶着が起った。
飛車角が大横田がやっているチャブ女おとよをさせ、小金一家に匿ったからである。
飛車角は宮川や小金らと殴り込みに加わり、大横田の身内丈徳を斬って勝利を収めた。
しかし、飛車角は兄弟分の奈良平が裏切っておとよを連れ出したことから、奈良平を斬った。
そのため飛車角は巡査に追われ、瓢吉の家に逃げ込んだのだった。
詮索せずに酒を勧める吉良常に飛車角は感謝し自首することを決意するのだった。
小金の計らいでおとよに会える算段が整えられていたが飛車角は会わずに自首する。
しかし、おとよはそのまま行方をくらまし、四年の歳月が流れた。
宮川は玉ノ井の女に惚れ毎日通っていたのだが、知らないこととは言え、それはおとよだった。
小金一家にとって飛車角は大恩人なので、仲間はそれと知って忠告した。
しかし、おとよに惚れ込んだ宮川は二人で逃げようとしていた。
一方、吉良常はおとよに、飛車角に面会に行くよう勧めたが、おとよの心はもう飛車角にはなかった。
苦悩するおとよは、瓢吉の青春の想い出となったお袖と共に姿をくらました。
やがて飛車角が特赦で出所した。
吉良常は、瓢吉が男として名を上げるまで墓は建てるな、と遺言して自殺した瓢太郎のために、今こそ墓を建てる時だと思って飛車角と共に吉良港に発ったが、飛車角はそこの旅館でおとよと再会する・・・。
寸評
任侠映画の部類に入るが、ヤクザ組織の縄張り争いをメインにしていなくて、タイトルにもあるように主人公、飛車角と彼を助ける老人、吉良常との関係にスポットを当てている。
しかし、これで男同士の人情劇として背骨を一本通したような筋立てとなっている。
文字通り彩を添えるのが藤純子のおとよなのだが、このおとよが軟弱と言うか、あっちへ行ったりこっちへ行ったりする女で、自分でも目の前に居る男に親切にされるとだめなのだと言っている。
悪く言えば気の多い尻軽女なのだが、藤純子が演じているだけでそのイメージは湧いてこない。
愛する女性に別れも告げずに刑務所に入る飛車角。
自らの力で生きて行く道を選び、再び女郎となるおとよ。
飛車角の女と知らずに客として彼女を真剣に想うようになる宮川。
飛車角、宮川、おとよの三角関係なのだが、その原因を作っているのはおとよだと言わざるを得ない。
おとよは宮川と示し合わせて足抜けしようとしたときに、お袖から「あんたが本当に惚れているのは宮川ではない」と言われ気持ちが揺らぐ。
さらに「あんたは二人とも捨てなくてはいけない。いっそ二人で足抜けしよう」と誘われ宮川を置き去りにしてお袖にしたがっているのである。
おとよは自分の意志はないのかと言いたくなるぐらいフラフラする女性である。
そこにいくと男たちはストイックで、人生の何もかもを心得ているような吉良常が男たちの間を取り持っていく。
飛車角が主人公なのだろうが、むしろ内田吐夢は吉良常を描きたかったのではないかと思わせるほどだ。
飛車角をかばい、宮川との仲を取り持ち、小金親分にも筋を通す。
お袖やおとよに見せる心使いも心得たものである。
この映画における吉良常は魅力的だ。
人なつこい笑顔と、立ち廻りの時に見せる凄みのある表情にシビレるのだが、主役を食ってしまうような名演技をみせた辰巳柳太郎にとっても代表作になったといってもよいのではないか。
作品に絵画的な映像と情感を生み出しているのが仲沢半次郎のカメラだ。
雨の河川敷の橋の上で自首をしようとする飛車角と小金一家の寺兼が話し合っているはるか向こうに土手を走る人力車がかすかに写り込む。
そこには、何も知らないおとよが乗っているのだが、次第に近づいて来る人力車が雨に煙って何とも言えない詩情溢れる映像を生み出している。
二人の元を離れたおとよが、再び吉良港の旅館で吉良常と飛車角に偶然再会するというシーンでは、画面いっぱいに収まる三人の構図の完璧さは絵画を見るようである。
そして、飛車角が宮川の遺体を引き取りに言った場面で、宮川に掛けられたムシロをめくったところから画面は急にもノートンとなるびっくり演出を見た後の出入りの乱闘場面はずっとモノトーンのままである。
出入りを終えた飛車角のところへおとよが駆けつけたところから再びカラー画面となるのだが、飛車角が去っていくラストシーンでは奥に青いライトが照射され手前に赤い煙幕が湧きたってくる。
う~ん、内田吐夢が撮る任侠映画はこうなるのかと思わせるラストだ。
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監督 内田吐夢
出演 鶴田浩二 高倉健 藤純子
辰巳柳太郎 若山富三郎
中村竹弥 大木実 信欣三
天津敏 山本麟一 村井国夫
山城新伍 遠藤辰雄 名和宏
八名信夫 松方弘樹 左幸子
ストーリー
大正十四年。八年ぶりに上海から故郷に戻った吉良常は、文士になるため東京で勉強している亡き主人青成瓢太郎の子瓢吉を尋ね、瓢吉の家に腰をおろすことになった。
その頃、砂村の小金一家と貸元大横田の間にひと悶着が起った。
飛車角が大横田がやっているチャブ女おとよをさせ、小金一家に匿ったからである。
飛車角は宮川や小金らと殴り込みに加わり、大横田の身内丈徳を斬って勝利を収めた。
しかし、飛車角は兄弟分の奈良平が裏切っておとよを連れ出したことから、奈良平を斬った。
そのため飛車角は巡査に追われ、瓢吉の家に逃げ込んだのだった。
詮索せずに酒を勧める吉良常に飛車角は感謝し自首することを決意するのだった。
小金の計らいでおとよに会える算段が整えられていたが飛車角は会わずに自首する。
しかし、おとよはそのまま行方をくらまし、四年の歳月が流れた。
宮川は玉ノ井の女に惚れ毎日通っていたのだが、知らないこととは言え、それはおとよだった。
小金一家にとって飛車角は大恩人なので、仲間はそれと知って忠告した。
しかし、おとよに惚れ込んだ宮川は二人で逃げようとしていた。
一方、吉良常はおとよに、飛車角に面会に行くよう勧めたが、おとよの心はもう飛車角にはなかった。
苦悩するおとよは、瓢吉の青春の想い出となったお袖と共に姿をくらました。
やがて飛車角が特赦で出所した。
吉良常は、瓢吉が男として名を上げるまで墓は建てるな、と遺言して自殺した瓢太郎のために、今こそ墓を建てる時だと思って飛車角と共に吉良港に発ったが、飛車角はそこの旅館でおとよと再会する・・・。
寸評
任侠映画の部類に入るが、ヤクザ組織の縄張り争いをメインにしていなくて、タイトルにもあるように主人公、飛車角と彼を助ける老人、吉良常との関係にスポットを当てている。
しかし、これで男同士の人情劇として背骨を一本通したような筋立てとなっている。
文字通り彩を添えるのが藤純子のおとよなのだが、このおとよが軟弱と言うか、あっちへ行ったりこっちへ行ったりする女で、自分でも目の前に居る男に親切にされるとだめなのだと言っている。
悪く言えば気の多い尻軽女なのだが、藤純子が演じているだけでそのイメージは湧いてこない。
愛する女性に別れも告げずに刑務所に入る飛車角。
自らの力で生きて行く道を選び、再び女郎となるおとよ。
飛車角の女と知らずに客として彼女を真剣に想うようになる宮川。
飛車角、宮川、おとよの三角関係なのだが、その原因を作っているのはおとよだと言わざるを得ない。
おとよは宮川と示し合わせて足抜けしようとしたときに、お袖から「あんたが本当に惚れているのは宮川ではない」と言われ気持ちが揺らぐ。
さらに「あんたは二人とも捨てなくてはいけない。いっそ二人で足抜けしよう」と誘われ宮川を置き去りにしてお袖にしたがっているのである。
おとよは自分の意志はないのかと言いたくなるぐらいフラフラする女性である。
そこにいくと男たちはストイックで、人生の何もかもを心得ているような吉良常が男たちの間を取り持っていく。
飛車角が主人公なのだろうが、むしろ内田吐夢は吉良常を描きたかったのではないかと思わせるほどだ。
飛車角をかばい、宮川との仲を取り持ち、小金親分にも筋を通す。
お袖やおとよに見せる心使いも心得たものである。
この映画における吉良常は魅力的だ。
人なつこい笑顔と、立ち廻りの時に見せる凄みのある表情にシビレるのだが、主役を食ってしまうような名演技をみせた辰巳柳太郎にとっても代表作になったといってもよいのではないか。
作品に絵画的な映像と情感を生み出しているのが仲沢半次郎のカメラだ。
雨の河川敷の橋の上で自首をしようとする飛車角と小金一家の寺兼が話し合っているはるか向こうに土手を走る人力車がかすかに写り込む。
そこには、何も知らないおとよが乗っているのだが、次第に近づいて来る人力車が雨に煙って何とも言えない詩情溢れる映像を生み出している。
二人の元を離れたおとよが、再び吉良港の旅館で吉良常と飛車角に偶然再会するというシーンでは、画面いっぱいに収まる三人の構図の完璧さは絵画を見るようである。
そして、飛車角が宮川の遺体を引き取りに言った場面で、宮川に掛けられたムシロをめくったところから画面は急にもノートンとなるびっくり演出を見た後の出入りの乱闘場面はずっとモノトーンのままである。
出入りを終えた飛車角のところへおとよが駆けつけたところから再びカラー画面となるのだが、飛車角が去っていくラストシーンでは奥に青いライトが照射され手前に赤い煙幕が湧きたってくる。
う~ん、内田吐夢が撮る任侠映画はこうなるのかと思わせるラストだ。