おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

私の男

2020-08-12 08:36:27 | 映画
「私の男」 2013年 日本


監督 熊切和嘉
出演 浅野忠信 二階堂ふみ 高良健吾 藤竜也
   モロ師岡 河井青葉 山田望叶 三浦誠己
   三浦貴大 安藤玉恵 竹原ピストル
   中野太賀 相楽樹 吉村実子

ストーリー
奥尻島を襲った津波によって、花は家族を失い孤児となってしまった。
避難所に身を寄せていた花のところへ、遠い親戚だという腐野淳悟が迎えに来て、花は引き取られる。
ふたりは雪と流氷に閉ざされた北海道紋別の田舎町でひっそりと暮らしていた。
高校生になった花をいつも気にかけてくれるのは、地元の名士で遠縁でもある大塩老人。
淳悟は海上保安官で、1度海に出ると10日ほど家を空けることになる。
大塩の孫・小町は淳悟と交際していたが、花と淳悟の濃密な関係に異様なものを感じ、淳悟と別れて東京に行ってしまう。
淳悟と花は肉体関係にあり、ある日2人が交わっている現場を大塩が目撃する。
大塩はふたりを別れさせようと花を説得するが、思いも寄らぬ事件が起こり、淳悟と花は逃げるように紋別を去って関東に移り、淳悟はタクシー運転手として生活する。
ある日、淳悟の元に田岡が来て、大塩の死体の傍に花の眼鏡があったことを告げる。
そのことで再び事件が起きてしまう。
受付嬢として働き始めた花に好意を寄せた尾崎は淳悟が花の面倒を見る様子に、父と娘の関係以上のものを見てショックを受ける。
花と淳悟の関係は、限界にきていた。
婚約した花は婚約者・大輔を紹介するために、父・淳悟を呼び出した。
3年ぶりの再会であったが、しかし淳悟と花との間に時間は関係なかった・・・。


寸評
禁断の愛を描いたドラマで、親子ではあるが親子ではない男と女の官能的な愛欲シーンは妙にリアルで生々しく、無垢な少女である花の感情表現がそのリアルさを引き出しているのだが、その花を演じた二階堂ふみがすこぶるいい。
二階堂ふみの二階堂ふみによる映画といっても過言でない。

冒頭で真っ暗な画面が明るくなると眩いばかりの真っ白な流氷が映し出され、主人公の花が海面から出てきて微笑むミステリアスなシーンに泥だらけの少女の顔が一瞬インサートされる。
その少女は花の幼い頃の姿で、奥尻島の津波の被害者であった花の姿である。
やがて被災者である花の様子が描かれるが、花はこの時点ですでに一風変わった子であることが想像できる。
一人ぼっちになってしまったのに泣くこともなく気丈な子であるようなのだが、体育館に収容された遺体を蹴飛ばしてその死を確認するような子供でもあり、屈折した心を持つ子だと認識させられる。
やがて淳悟が現れ、「今日からお前のものだと」告げる。
そこに至るまでの淳悟の態度も何かミステリアスで、先行きに対する不安感はどんどん大きくなっていく。
花は高校生になってもミステリアスな女の子で、淳悟と関係のある小町に出会た時に「この世の終わりだ」とつぶやくのだが、言われた小町にも観客にもそれがなんのことだか分からない。
しかし、その後に映しだされた墨絵のような荒れた海の景色を見ると、自分たちの周りを取り巻く環境の崩壊を意味していたのかもしれないなと思う。
二人は純粋に家族を作りたかったのだろうが、様々な思いと不器用さが重なり、どうしようもなく深みにはまっていく様が痛々しい。
そんな二人の心象風景を繊細に切り取るように挿入される冬の北海道の景色がとてつもなく美しい。
描かれるのは冬の北海道紋別の景色である。
それにジム・オルークによる音楽が重なると効果てきめんで、それだけで単純な僕などは感情移入してしまう。
流氷上での花と大塩が対峙するシーンや、血の雨に包まれていく花と淳悟のセックスシーンなど、まるでアートかと思わせる映像が散りばめられている。
そこに至る直前の帰宅シーンから朝食時のシーンへと場面が切り替わるに従って、ふたりの行動はエスカレートし血の雨の中での交わりとなる地獄絵が展開される。
心が欲しかった淳悟だが、感情が人を狂わした場面でもあり、神が許さない行為を花が許した場面でもあった。

淳悟は花の前に現れた男に対して異様さを見せ、尾崎には体の匂いに花を感じ、指の匂いでその行為を見抜くし、婚約者・大輔には「お前には無理だ」とつぶやく。
花を愛せるのは自分だけだとの思いでもあり、花が愛せるのも自分だけだとの思いでもあるのだろう。
ラストは衝撃的。
最後に花は何かを言うが、声は聞こえない。
僕は唇を読み損ねてしまったが、おそらく淳悟を誘う言葉ではなかったか?
淳悟が直前に花の結婚相手に発する「お前には無理だ」の言葉と相まって、ちょっと怖くなってしまうラストだ。
この二人の神に逆らう生活は続いていくことを予感させるが、しかし救われないよなあ・・・。