おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

愛と喝采の日々

2020-08-22 10:23:43 | 映画
「愛と喝采の日々」 1977年 アメリカ


監督 ハーバート・ロス
出演 アン・バンクロフト
   シャーリー・マクレーン
   ミハイル・バリシニコフ
   レスリー・ブラウン
   トム・スケリット
   マーサ・スコット

ストーリー
ウェイン・ロジャースと妻のディーディーとの間には長女エミリア、長男イーサン、二女ジャニナがある。
この2人は元アメリカン・バレエ団のダンサーであったが、ディーディーがウェインとの恋愛中に妊娠したために正式に結婚し、バレエ団から身を退いたのだった。
エミリアは容姿も美しく、父母の血をひき、バレリーナになる才能を充分に具えていた。
オクラホマ・シティにアメリカン・バレエ団が2日間の公演を行なうためにやってくることになった。
アデレイドをオーナーとするこのバレエ団の1人エマはディーディーの親友であり、ディーディーがプリマ・バレリーナをやめたのはエマに勧められてエミリアを生んだからであった。
エマはディーディーに代って舞台でアンナ・カレーニナの役をやり、今の地位にのぼることができたのだった。
ロジャース一家は、この公演をこぞって見に行き、ディーディーは久方ぶりのエマの舞台姿に感激するが、内心には複雑な思いが交錯していた。
エミリアがエマに勧められ、アメリカン・バレエ団に入ったのはそれから間もなくであった。
夏のシーズンを控え、エミリアは「ジゼル」で初舞台を踏むことになった。
そして団員の1人で、ソ連生まれのユーリを知り愛するようになるが、キャロリンというバレリーナといい仲になったということを知り失望したところ、エマはそんなエミリアをやさしく慰め、だんだんと2人の仲は深まっていく。
やがてバレエ団が4年毎に行なうギャラ公演の日が近づく。
エマは出演するエミリアに衣裳を贈るが、このことでエミリアとディーディーの間に微妙な亀裂ができてしまう。
ディーディーはエミリアをエマにとられたくない気持でいっぱいだったのだ。


寸評
人生は決断の連続である。
高校、大学受験はどこにするか、自分は何になるか、就職はどこにするか、結婚相手は誰にするか・・・。
あの時ああしていればと思うことは誰にでもあるが、悔いることがあっても引きずって生きては何も生まれてこないし、ましてや人を恨んで生きては幸せはやってこない。
ここに登場するシャーリー・マクレーン演じるディーディーとアン・バンクロフトのエマには確執がある。
ディーディーは、かつてエマとプリマドンナの座を争っていた頃に妊娠し、その時エマが「産まないとウェインとの仲が壊れる」と言って結婚の道を選ばせ、自分は主役を射止めスター街道を駆け上ったと思っているのだが、実際にエマ自身が「あの役を得るためなら、多分、何でも言ったと思うわ」と述べているから、まんざらディーディーの思い過ごしとは言い切れないものがある積年の恨みである。
しかし作中で言われているようにディーディーは結婚を選んだのだ。
それでいながら、手段はともかくとして主役の座を奪われたことを未だに根に持っているということは、ディーディーはウェインとの結婚生活に満足していないということなのか。
結果として自分の夢はとん挫したのかもしれないが、そのことによって3人の子供にも恵まれ新たな幸せを得ることが出来たのではないかと思うのだが、そんなにポジティブでは映画にならないのだろう。

一方は家庭で幸せを得たがプリマドンナとしてのスターの座を失っている。
他方はスターの座を得たが家庭を築くことが出来ず子供に恵まれていない。
はたしてどちらが良かったのか。
エマは持てなかった子供への愛情を名付け親としてエミリアに注ぎ、エミリアもエマのその愛情を受け入れる。
プリマドンナの座を奪われたと思っているディーディーは再び娘を奪われてしまうという気持ちに襲われる。
過去にあった確執に対する感情を大人である二人は抑えている。
それは冒頭の公演が終わったあとの夫婦の会話に現れている。
夫が優しく「大丈夫?楽屋に行くことはないんだよ」と声をかけると、妻は「いいえ、行くわ」と答える。
楽屋では懐かしい顔がティーティーを笑顔で迎え、ディーディーとエマの20年ぶりの再会の時が訪れる場面だ。
お互いに抑えていた感情が爆発するのが、二人が罵り合い、髪を振り乱して取っ組み合う場面であり、この映画の圧巻となっている。
叩きながらわめいているうちに、その声は笑い声に変わり、二人の雪解けを暗示する名場面となっている。
手に入れたものに満足せず、失ってしまったものに思いを馳せるのが人と言うものなのかも知れない。
ディーディーとエマは正しい選択と決断をしていたのだが、それにもかかわらず漠然とした不満をいだいている。
ラストシーンは自分たちの選んだ道を納得するしかないということを悟ったのだと訴えている。
夢と希望と後悔、そして前に歩むのが人生なのだ。

バレーのシーンは美しいし、バレリーナたちの躍動は目を見張るものがあるが、バレーに造詣の深くない僕はそのシーンが少々長いように感じてしまい、逆に母親と同じ道を歩むかもしれないエミリアとユーリの関係をもう少し深く描いて欲しかったなあという気持ちが湧く。
それにしても、シャーリー・マクレーンとアン・バンクロフトは年齢相応の貫録で、いいわあ~。