「鍵」 1959年 日本
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監督 市川崑
出演 中村鴈治郎 京マチ子 仲代達矢 叶順子
北林谷栄 菅井一郎 倉田マユミ 潮万太郎
浜村純 山茶花究 星ひかる 中条静夫
ストーリー
古美術鑑定家の剣持(中村鴈治郎)は近頃精力が衰え、妻の郁子(京マチ子)に内緒で京都市内の大学病院に通い、ある注射をしている。
同病院のインターンの木村(仲代達矢)を娘の敏子(叶順子)の婿にしたいと考えている。
妻の郁子は、夫を嫌っていた。
ある夜、木村が剣持の家を訪問し、大いに飲んで楽しんだ。
酔って浴室で眠ってしまった裸体の郁子を、木村に手伝わせて寝室に運ぶ剣持。
妻の診療を頼む、と言って剣持は姿を消す。
そんなことが繰り返されるなか、敏子は現場を目撃し、母と木村が関係を持っていること、それを父も知っていることを知ることになるが、敏子もすでに木村と関係を持っていたのであった。
敏子は家を出て、下宿することにした。
剣持は、木村と敏子を呼び出し、婚約の段取りを整えようとする。
深夜、剣持は倒れた。
郁子は木村を呼び出して女中部屋で抱き合い、郁子は木村に、敏子と結婚して、ここで開業すればいいと言う。
間もなく剣持は死んだ。
剣持の葬儀が終わり、預かっていただけの骨董品の数々は古美術商のものとなり、木村は家もすでに抵当に入っていたことを知る。
敏子は郁子の殺害を図り、農薬を郁子の紅茶に入れたが効かない。
お手伝いのはな(北林谷栄)が色盲のため、中身を入れ替えてしまっていたのだった。
はなは主人に不実な母子および木村を毒殺するべくサラダへ農薬をかけ、三人はバタバタと死んでいった。
事後、はなは自首するが、刑事たちは老人ボケと思い込んで彼女の自白に取り合わなかった。
寸評
市川崑の特異な演出が目に付く。
冒頭では剣持一家が帰宅する様子がストップモーションになる。
何の意図があってのことか分からないが、この作品の変わった雰囲気を冒頭で示すことには成功している。
続いて目に留まるのが京マチ子のメイクで、必要以上に細く吊り上がった眉がインパクトのあるものとして目に飛び込んでくる。
それに反するように娘の叶順子の眉は太くて野暮ったいものである。
母娘の眉の違いがとても印象的で、その後の二人を際立させていく。
一度娘の敏子が真っ赤な口紅で登場する場面があるが、母への挑戦を決意したことを物語っていたのだろうか。
仲代達也の話し方も芝居じみていて違和感のあるものだが、見ていくうちに内容と非常にマッチしたものであることを理解させられる。
この様な設定は才気をあからさまに表す市川崑らしい。
ただ生きているだけになっても、男は異性に対して興味を持ち続けると言うのは原作者谷崎潤一郎のモチーフなのだろうが、それを抑制的に描いていて面白い作品だ。
木村と郁子が関係を持っていることを暗示するが、それを直接的には描かず想像に任せている。
二人が抱き合うのは剣持が倒れた後の一度だけで、それも立ったままで抱擁するだけのシーンになっていて、消灯することでその後を物語る演出だ。
木村は郁子と敏子の間を渡り歩いているが、二人の関係においても木村のベッドシーンはない。
若い木村の性欲などはどうでもいいのだろう。
反面、京マチ子の妖艶な裸体を見せながら中村鴈治郎の異常な行動を描いている(さすがに京マチ子の裸体を示すものではなく、体の一部を写して想像させるものとなっている)。
郁子は度々意識を失うが、剣持はその時の郁子の裸体をカメラに収めて喜んでいる倒錯ぶりを見せる。
彼は精力的には衰えているが性欲は盛んで、自分の若さと活力の維持を嫉妬に求めている。
木村と郁子が関係を持つことへの嫉妬である。
剣持、郁子、敏子はそれぞれの行動を分かっていながら知らない振りをし続ける。
何でもないような振りをして郁子と別れた剣持が、郁子の後姿を盗み見する。
郁子は手鏡でのぞき見している剣持の姿を確認する。
竹藪、汽車の連結などのショットを含め、この様なシャープなシーンが随所にある。
敏子が分かっているような態度を取りながらも郁子に嫉妬する場面などでは、激しい怒りを表すものではなくちょっとした行動でそれを表現していく。
そうすることで、この家族の心の奥底に潜む見苦しいものを描き出していた。
看護婦とはなの会話で木村を含めたこの家族への嫌悪感を示し、はなの行動とはなの「私が殺しました」という自白を後押しするが、はなは罰せられることはない。
剣持家の中でまともだったのはお手伝いの婆さんだけだったということなのだろう。
中村鴈治郎、京マチ子が際立った映画だった。
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監督 市川崑
出演 中村鴈治郎 京マチ子 仲代達矢 叶順子
北林谷栄 菅井一郎 倉田マユミ 潮万太郎
浜村純 山茶花究 星ひかる 中条静夫
ストーリー
古美術鑑定家の剣持(中村鴈治郎)は近頃精力が衰え、妻の郁子(京マチ子)に内緒で京都市内の大学病院に通い、ある注射をしている。
同病院のインターンの木村(仲代達矢)を娘の敏子(叶順子)の婿にしたいと考えている。
妻の郁子は、夫を嫌っていた。
ある夜、木村が剣持の家を訪問し、大いに飲んで楽しんだ。
酔って浴室で眠ってしまった裸体の郁子を、木村に手伝わせて寝室に運ぶ剣持。
妻の診療を頼む、と言って剣持は姿を消す。
そんなことが繰り返されるなか、敏子は現場を目撃し、母と木村が関係を持っていること、それを父も知っていることを知ることになるが、敏子もすでに木村と関係を持っていたのであった。
敏子は家を出て、下宿することにした。
剣持は、木村と敏子を呼び出し、婚約の段取りを整えようとする。
深夜、剣持は倒れた。
郁子は木村を呼び出して女中部屋で抱き合い、郁子は木村に、敏子と結婚して、ここで開業すればいいと言う。
間もなく剣持は死んだ。
剣持の葬儀が終わり、預かっていただけの骨董品の数々は古美術商のものとなり、木村は家もすでに抵当に入っていたことを知る。
敏子は郁子の殺害を図り、農薬を郁子の紅茶に入れたが効かない。
お手伝いのはな(北林谷栄)が色盲のため、中身を入れ替えてしまっていたのだった。
はなは主人に不実な母子および木村を毒殺するべくサラダへ農薬をかけ、三人はバタバタと死んでいった。
事後、はなは自首するが、刑事たちは老人ボケと思い込んで彼女の自白に取り合わなかった。
寸評
市川崑の特異な演出が目に付く。
冒頭では剣持一家が帰宅する様子がストップモーションになる。
何の意図があってのことか分からないが、この作品の変わった雰囲気を冒頭で示すことには成功している。
続いて目に留まるのが京マチ子のメイクで、必要以上に細く吊り上がった眉がインパクトのあるものとして目に飛び込んでくる。
それに反するように娘の叶順子の眉は太くて野暮ったいものである。
母娘の眉の違いがとても印象的で、その後の二人を際立させていく。
一度娘の敏子が真っ赤な口紅で登場する場面があるが、母への挑戦を決意したことを物語っていたのだろうか。
仲代達也の話し方も芝居じみていて違和感のあるものだが、見ていくうちに内容と非常にマッチしたものであることを理解させられる。
この様な設定は才気をあからさまに表す市川崑らしい。
ただ生きているだけになっても、男は異性に対して興味を持ち続けると言うのは原作者谷崎潤一郎のモチーフなのだろうが、それを抑制的に描いていて面白い作品だ。
木村と郁子が関係を持っていることを暗示するが、それを直接的には描かず想像に任せている。
二人が抱き合うのは剣持が倒れた後の一度だけで、それも立ったままで抱擁するだけのシーンになっていて、消灯することでその後を物語る演出だ。
木村は郁子と敏子の間を渡り歩いているが、二人の関係においても木村のベッドシーンはない。
若い木村の性欲などはどうでもいいのだろう。
反面、京マチ子の妖艶な裸体を見せながら中村鴈治郎の異常な行動を描いている(さすがに京マチ子の裸体を示すものではなく、体の一部を写して想像させるものとなっている)。
郁子は度々意識を失うが、剣持はその時の郁子の裸体をカメラに収めて喜んでいる倒錯ぶりを見せる。
彼は精力的には衰えているが性欲は盛んで、自分の若さと活力の維持を嫉妬に求めている。
木村と郁子が関係を持つことへの嫉妬である。
剣持、郁子、敏子はそれぞれの行動を分かっていながら知らない振りをし続ける。
何でもないような振りをして郁子と別れた剣持が、郁子の後姿を盗み見する。
郁子は手鏡でのぞき見している剣持の姿を確認する。
竹藪、汽車の連結などのショットを含め、この様なシャープなシーンが随所にある。
敏子が分かっているような態度を取りながらも郁子に嫉妬する場面などでは、激しい怒りを表すものではなくちょっとした行動でそれを表現していく。
そうすることで、この家族の心の奥底に潜む見苦しいものを描き出していた。
看護婦とはなの会話で木村を含めたこの家族への嫌悪感を示し、はなの行動とはなの「私が殺しました」という自白を後押しするが、はなは罰せられることはない。
剣持家の中でまともだったのはお手伝いの婆さんだけだったということなのだろう。
中村鴈治郎、京マチ子が際立った映画だった。