「華麗なる一族」 1974年 日本
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監督 山本薩夫
出演 佐分利信 月丘夢路 仲代達矢 山本陽子
目黒祐樹 中山麻理 酒井和歌子 田宮二郎
香川京子 京マチ子 志村喬 二谷英明
大空真弓 西村晃 稲葉義男 北大路欣也
神山繁 滝沢修 小沢栄太郎 河津清三郎
中村伸郎 大滝秀治 荒木道子 鈴木瑞穂
ストーリー
関西財界にその名をとどろかせる万俵一族は、子息を次々と政財界の大物と結婚させ、その勢力を広げ、磐石なものとしていた。
阪神銀行の頭取・万俵大介は預金順位全国第十位の阪神銀行を、有利な条件で他行と合併させるべく、長女一子の夫、大蔵省主計局次長美馬中から極秘情報を聞きだした。
そうした工作は、華族出身の世間知らずな妻・寧子ではなく、永らく家庭教師兼執事を務める高須相子の手腕によっていた。
阪神銀行本店の貸付課長である次男銀平を、大阪重工社長安田太左衛門の娘万樹子と結婚させたのも、また、恋人のいる次女二子を、佐橋総理大臣の甥と見合させたのも相子の手腕だった。
しかも、彼女は大介の愛人として、寧子と一日交替で、大介とベッドを共にしていた。
長男の鉄平は、万俵コンツェルンの一翼をになう阪神特殊鋼の専務だが、彼は自社に高炉を建設し、阪神特殊鋼の飛躍的発展を目論み、メインバンクである阪神銀行に融資を頼むが、大介は何故か鉄平に冷淡だった。
大介は、彼の父敬介に容貌も性格も似た鉄平が、嫁いで間もない頃の寧子を敬介が犯した時の子供だと思い続けているのだ。
だが、鉄平に好意を寄せる大同銀行三雲頭取の計らいと、妻早苗の父である自由党の大川一郎の口ききで、遂に念願の高炉建設にとりかかれた。
しかし、完成を間近に、突然高炉が爆発、死傷者多数という大惨事が勃発した。
そして、多額の負債をかかえた阪神特殊鋼は、会社更生法の適用を受けざるを得なかった。
妻子を実家へ帰した鉄平は、愛用の銃を手に雪山で壮烈な自殺を遂げた。
大介の筋書通り、阪神銀行は上位行の大同銀行を吸収合併し、新たに業界ランク第五位の東洋銀行が誕生、大介が新頭取に就任したが、その背後には、さすがの大介の考えも及ばぬ第二幕が静かに暗転していった。
寸評
中々重厚なキャストで、時々その順序がもめ事を起こしたりするクレジットの並び順は登場順となっている。
万俵大介の野望を秘めた嫌味な貫禄は佐分利信ならではのものがあり、的を得たキャスティングだ。
男優が佐分利信なら、女優で彼と互角に渡り合っているのが高須相子役の京マチ子だった。
かつての日本美人的な風貌とはかけ離れ、体格的にも貫録が出てきていて嫌味な女傑を好演していた。
その他、 月丘夢路(大介の妻寧子)、仲代達矢(長男鉄平)、 山本陽子(その妻早苗)、 目黒祐樹(次男銀平)、 香川京子(長女一子)、 田宮二郎(その夫美馬)、 酒井和歌子(次女二子)などの万俵一族以外にも、 二谷英明(大同銀行頭取)、 大空真弓(その娘)、小沢栄太郎(永田大蔵大臣)、 河津清三郎(田渕幹事長)、 西村晃(綿貫常務)、 北大路欣也(二子の恋人)などそうそうたるメンバーで作品の重厚感を出している。
山崎豊子の原作なので、当然モデルがあるわけだがそれを想像するだけでも面白い。
万俵大介の阪神銀行は神戸銀行であることは明白だ。
日銀、大蔵の天下り先となっていることからすれば、大同銀行は協和銀行と思われるが、実際の神戸銀行は太陽銀行と合併し、現在は三井住友となっている。
協和銀行は一時国有化になったりそな銀行と一緒になった。
映画に描かれた通り、金融再編成がすさまじい勢いで起こり、メガバンクを頂点とする合併が行われ三井と住友が一緒になるなどという信じられないことが起きている。
まさに作品の最後で語られたことが実際に起きたわけだ。
阪神特殊製鋼のモデルは山陽特殊製鋼と思われるが、その会社更生法の騒ぎは子供ながらに記憶に残ったのだから、一大事件だったのだろう。
帝国製鉄は八幡製鉄のことだと思うが、その八幡製鉄も富士製鉄と合併し新日鉄となっている。
私も地方銀行の頭取と何度かお会いしたことがあるが、温和な紳士と見えたあの頭取も、それは表の顔で裏の顔はまた違ったのだろうか?
名目貸し、メインとサブのやり取り、資金の引き上げなどは、民間企業にいて実際に経験した私としては生々しいものがあった。
銀行の人事抗争も想像の範囲内だが、誇張のためか西村晃の綿貫常務などは下品なコーヒーの飲み方をする、無能な経営者としていて、大蔵大臣にもそれを言わせていたが、実際にも官僚たちは役員の能力まで把握しているのかもしれないなと思ったりした。
メインのストーリーは金融再編による企業の闇にあたる活動の様子なのだが、その話を膨らませているのが家庭教師であって、今は秘書兼執事のような高須相子の存在と、長男鉄平の出生に係わる親子の確執と、政略結婚の犠牲となっている女たちの姿だ。
特に父親の大介は鉄平が祖父と妻との間に出来た子ではないかと疑っており、「鉄平さんは先代に似てきて立派になってきた」などというほめ言葉を言われると気分を害してしまう。
万俵大介は子供たちを銀行発展のための道具と考えている冷徹な男だが、その彼もやがて…という展開は想像できるとはいえ面白い。野心家の美馬は「白い巨塔」の財前五郎を髣髴させ、田宮二郎のクールさが生きていた。
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監督 山本薩夫
出演 佐分利信 月丘夢路 仲代達矢 山本陽子
目黒祐樹 中山麻理 酒井和歌子 田宮二郎
香川京子 京マチ子 志村喬 二谷英明
大空真弓 西村晃 稲葉義男 北大路欣也
神山繁 滝沢修 小沢栄太郎 河津清三郎
中村伸郎 大滝秀治 荒木道子 鈴木瑞穂
ストーリー
関西財界にその名をとどろかせる万俵一族は、子息を次々と政財界の大物と結婚させ、その勢力を広げ、磐石なものとしていた。
阪神銀行の頭取・万俵大介は預金順位全国第十位の阪神銀行を、有利な条件で他行と合併させるべく、長女一子の夫、大蔵省主計局次長美馬中から極秘情報を聞きだした。
そうした工作は、華族出身の世間知らずな妻・寧子ではなく、永らく家庭教師兼執事を務める高須相子の手腕によっていた。
阪神銀行本店の貸付課長である次男銀平を、大阪重工社長安田太左衛門の娘万樹子と結婚させたのも、また、恋人のいる次女二子を、佐橋総理大臣の甥と見合させたのも相子の手腕だった。
しかも、彼女は大介の愛人として、寧子と一日交替で、大介とベッドを共にしていた。
長男の鉄平は、万俵コンツェルンの一翼をになう阪神特殊鋼の専務だが、彼は自社に高炉を建設し、阪神特殊鋼の飛躍的発展を目論み、メインバンクである阪神銀行に融資を頼むが、大介は何故か鉄平に冷淡だった。
大介は、彼の父敬介に容貌も性格も似た鉄平が、嫁いで間もない頃の寧子を敬介が犯した時の子供だと思い続けているのだ。
だが、鉄平に好意を寄せる大同銀行三雲頭取の計らいと、妻早苗の父である自由党の大川一郎の口ききで、遂に念願の高炉建設にとりかかれた。
しかし、完成を間近に、突然高炉が爆発、死傷者多数という大惨事が勃発した。
そして、多額の負債をかかえた阪神特殊鋼は、会社更生法の適用を受けざるを得なかった。
妻子を実家へ帰した鉄平は、愛用の銃を手に雪山で壮烈な自殺を遂げた。
大介の筋書通り、阪神銀行は上位行の大同銀行を吸収合併し、新たに業界ランク第五位の東洋銀行が誕生、大介が新頭取に就任したが、その背後には、さすがの大介の考えも及ばぬ第二幕が静かに暗転していった。
寸評
中々重厚なキャストで、時々その順序がもめ事を起こしたりするクレジットの並び順は登場順となっている。
万俵大介の野望を秘めた嫌味な貫禄は佐分利信ならではのものがあり、的を得たキャスティングだ。
男優が佐分利信なら、女優で彼と互角に渡り合っているのが高須相子役の京マチ子だった。
かつての日本美人的な風貌とはかけ離れ、体格的にも貫録が出てきていて嫌味な女傑を好演していた。
その他、 月丘夢路(大介の妻寧子)、仲代達矢(長男鉄平)、 山本陽子(その妻早苗)、 目黒祐樹(次男銀平)、 香川京子(長女一子)、 田宮二郎(その夫美馬)、 酒井和歌子(次女二子)などの万俵一族以外にも、 二谷英明(大同銀行頭取)、 大空真弓(その娘)、小沢栄太郎(永田大蔵大臣)、 河津清三郎(田渕幹事長)、 西村晃(綿貫常務)、 北大路欣也(二子の恋人)などそうそうたるメンバーで作品の重厚感を出している。
山崎豊子の原作なので、当然モデルがあるわけだがそれを想像するだけでも面白い。
万俵大介の阪神銀行は神戸銀行であることは明白だ。
日銀、大蔵の天下り先となっていることからすれば、大同銀行は協和銀行と思われるが、実際の神戸銀行は太陽銀行と合併し、現在は三井住友となっている。
協和銀行は一時国有化になったりそな銀行と一緒になった。
映画に描かれた通り、金融再編成がすさまじい勢いで起こり、メガバンクを頂点とする合併が行われ三井と住友が一緒になるなどという信じられないことが起きている。
まさに作品の最後で語られたことが実際に起きたわけだ。
阪神特殊製鋼のモデルは山陽特殊製鋼と思われるが、その会社更生法の騒ぎは子供ながらに記憶に残ったのだから、一大事件だったのだろう。
帝国製鉄は八幡製鉄のことだと思うが、その八幡製鉄も富士製鉄と合併し新日鉄となっている。
私も地方銀行の頭取と何度かお会いしたことがあるが、温和な紳士と見えたあの頭取も、それは表の顔で裏の顔はまた違ったのだろうか?
名目貸し、メインとサブのやり取り、資金の引き上げなどは、民間企業にいて実際に経験した私としては生々しいものがあった。
銀行の人事抗争も想像の範囲内だが、誇張のためか西村晃の綿貫常務などは下品なコーヒーの飲み方をする、無能な経営者としていて、大蔵大臣にもそれを言わせていたが、実際にも官僚たちは役員の能力まで把握しているのかもしれないなと思ったりした。
メインのストーリーは金融再編による企業の闇にあたる活動の様子なのだが、その話を膨らませているのが家庭教師であって、今は秘書兼執事のような高須相子の存在と、長男鉄平の出生に係わる親子の確執と、政略結婚の犠牲となっている女たちの姿だ。
特に父親の大介は鉄平が祖父と妻との間に出来た子ではないかと疑っており、「鉄平さんは先代に似てきて立派になってきた」などというほめ言葉を言われると気分を害してしまう。
万俵大介は子供たちを銀行発展のための道具と考えている冷徹な男だが、その彼もやがて…という展開は想像できるとはいえ面白い。野心家の美馬は「白い巨塔」の財前五郎を髣髴させ、田宮二郎のクールさが生きていた。