おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

忠臣蔵

2021-06-03 08:33:24 | 映画
「忠臣蔵」 1958年 日本


監督 渡辺邦男
出演 長谷川一夫 勝新太郎 鶴田浩二 市川雷蔵
   京マチ子 山本富士子 木暮実千代 淡島千景
   若尾文子 滝沢修 黒川弥太郎 船越英二
   川崎敬三 小沢栄太郎 志村喬 中村鴈治郎
   東山千栄子 中村玉緒 品川隆二 梅若正二

ストーリー
元禄十四年三月、江戸城松の廊下で、浅野内匠頭(市川雷蔵)は度重なる侮辱にたえかね、勅使接待役指南の吉良上野介(滝沢修)へ刃傷に及んだ。
幕府では上野介派の老中柳沢出羽守(志摩靖彦)が目付役多門(根上淳)らの反対を押しきり、上野介は咎めなし、内匠頭は即日切腹という処分を裁決した。
赤穂で、悲報を受けた大石内蔵助(長谷川一夫)は、家中の意見を篭城から殉死へ導き、その後始めて仇討の意図を打ち明けた。
上野介の実子上杉綱憲(船越英二)は家老千坂兵部(小沢栄太郎)に上野介の警戒にあたらせ、各方面に間者を放った。
内蔵助は赤穂退去の後は京都山科に住み、再興嘆願の件で江戸へ下って瑶泉院(山本富士子)を訪れた帰途、吉良方の刺客に襲われたが、それを救ったのは目付役多門だった。
堀部安兵衛(林成年)は小人数でも早く仇討をと急進的だったが、内蔵助からさとされ、思い止る。
半年後、内蔵助は祇園の茶屋で太夫の浮橋(木暮実千代)らと毎夜遊びほうけるが、茶屋の仲居は千坂の放った間者るい(京マチ子)だった。
家再興の望みが断たれると、彼は太夫を身請けして山科へ帰り、主税(川口浩)のみを残して妻子を離別したのだが、妻りく(淡島千景)は仏壇の位牌から彼の本心を悟った。
機は熟し、内蔵助らは江戸へ向う途中、近衛家用人垣見五郎兵衛(中村鴈治郎)の暖かい援助を受けた。
千坂は上野介が旅に出るという噂を立たせ、それを襲うだろう赤穂浪士を一挙に倒そうとしたが、内蔵助はそれを看破し逸る同志を抑えた。
大工の娘お鈴(若尾文子)が恋人の岡野金右衛門(鶴田浩二)は、彼女に吉良屋敷の絵図面の入手を頼むのは、真実の恋がその方便だと受け取られそうでいやだったのだが、彼女は判ってくれて絵図面は手に入った。

寸評
「忠臣蔵」あるいは「赤穂浪士」と名のつく作品は、ある時期においては年末恒例のオールスター映画であった。
東映なども配役を変えて度々映画化していた題材である。
赤穂浪士の討ち入りが12月14日で、それに合わせるように年末年始のかき入れ時に公開できたという興行上の理由もあっただろうし、討ち入りメンバーが47人と大勢いるし、悲劇の浅野内匠頭やら、敵役の吉良上野介側など登場人物が多士済々なこともオールスター映画にふさわしかったのだろう。
NHKの大河ドラマも含めて当たり役となった長谷川一夫の大石蔵之助を初め、市川雷蔵、勝新太郎に加えて、後に東映移籍した鶴田浩二も出ていて、その顔ぶれを見るだけでも楽しい。
そして東映と比べると大映は女優陣が充実していたのだなあと思わせるキャスティングである。
京マチ子、山本富士子、若尾文子、淡島千景、木暮美千代と並べば、中村玉緒などはどこに出ていたのか分からないくらいだ。

赤穂浪士の討ち入り物としては、ダイジェスト的に上手くまとめられており、主だったエピソードでは人物の内面に対して切り込み不足とは言え要領よく描かれているし、泣かせどころも心得た演出だ。
先ずは吉良上野介の浅野内匠頭への嫌がらせが描かれるのだが、ここでは敵役としての吉良上野介にどれだけ観客が嫌悪感を持つかが重要となってくる。
当然、浅野内匠頭は一見ひ弱そうな二枚目でなければならない。
図式的とはいえ、市川雷蔵、滝沢修は無難に演じている。

大石は敵の目を欺くために山科で放蕩三昧を繰り返し、そこに吉良側の間者として京マチ子が登場する。
このるいという女性は面白い存在なのだが、もう少し揺れ動く女心が欲しかった。
この段で大石は妻のりくを離縁するのだが、いわゆる山科の別れは案外とあっさりしている。
浮橋大夫や妻りくが悲しみをこらえて去っていくのはもう少し盛り上げられたのではないかと思う。
ダイジェスト化されているので深く掘り下げられないのは、岡野金右衛門とお鈴の恋物語にも見受けられる。
吉良邸の屋敷を改築した大工の娘である若尾文子から、鶴田浩二が絵図面を手に入れようとするのだが、お鈴に近づく過程もないし、好き合っているという場面も少ないので鶴田浩二のジレンマがもう一つ伝わってこない。
そのように欠点をあげればいくらでもある作品なのだが、それらを感じさせずに物語を進行させていることに渡辺邦男の監督としての職人芸を感じさせる。

大石たちが吉良邸討ち入りの日を決定するくだりを、一般的なお茶の師匠からではなく京マチ子のるいを使って処理しているのは独自解釈だ。
反面、勝新太郎の赤垣源蔵が兄と別れる場面はオーソドックスな演出となっている。
もっとも、兄塩山の下女お杉が「のん兵衛の源蔵様が・・・」と叫んでくるシーンは欲しかったところである。
人気キャラクターである堀部安兵衛の登場シーンは意外と少ないが、上映時間を考えるといたしかたなしか。
ラストシーンは上手く撮られていたと思うし、この頃美人女優の代表であった山本富士子は適役だと思わせた。
どこかに重点を置いているわけではないが、忠臣蔵を知るうえでは格好の作品となっていると思う。