おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

チョコレートドーナツ

2021-06-05 08:17:31 | 映画
「チョコレートドーナツ」 2012年 アメリカ


監督 トラヴィス・ファイン
出演 アラン・カミング
   ギャレット・ディラハント
   アイザック・レイヴァ
   フランシス・フィッシャー
   グレッグ・ヘンリー
   クリス・マルケイ

ストーリー
1979年、カリフォルニア。
ゲイであることを隠しながら生きる弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)と、シンガーを夢見ながらショーダンサーとして働いているルディ(アラン・カミング)が出会い、二人はすぐに惹かれ合い、恋に落ちた。
ルディが暮らすアパートの隣に、ダウン症の子ども・マルコ(アイザック・レイヴァ)と薬物依存症の母親(ジェイミー・アン・オールマン)が住んでいた。
ある夜、マルコの母親は大音量の音楽をかけたまま男といなくなってしまう。
翌朝、ルディが騒音を注意しに隣に乗り込むと、小さくうずくまって母親の帰りを待つマルコがいた。
ルディは助言を求めてポールが働く検事局に行くが、ポールは家庭局に連絡してマルコを施設に預けろと言い捨てる。
失望したルディがアパートに戻ると、マルコの母親は薬物所持で逮捕され、マルコはお気に入りの人形アシュリーを抱いたまま、強制的に施設に連れて行かれる。
翌日、ポールはルディに昨日の言葉を詫びる。
二人はお互いが歩んできた人生をそれぞれ打ち明け、さらに深い結びつきを確信する。
その帰り道、家に帰ろうと施設を抜け出したマルコが夜の街を一人で歩いていた。
ポールとルディはいとこと関係を偽り、マルコと一緒に暮らし始める。
マルコは初めて学校に通い、ポールはマルコの宿題を手伝い、ルディは毎朝朝食を作り、眠る前にはハッピーエンドの話を聞かせて眠らせる。
二人はまるで本当の親子のようにマルコを愛し、大切に育てた。
ルディは、ポールから贈られたテープレコーダーでデモテープを作り、そのテープがクラブオーナーの目にとまってシンガーの夢を掴む。
三人で暮らし始めて約1年が経ったある日、ポールとルディがゲイのカップルであることが周囲にバレてしまう。
関係を偽ったことが原因でマルコは家庭局に連れて行かれ、ポールは仕事を解雇される。
今こそ法律で世界を変えるチャンスだというルディの言葉と共に、ポールはマルコを取り戻すための裁判に挑む…。


寸評
差別に対する怒りを根底に起きつつも鼻につくような説教臭さはない。
最後になってかなりの悲劇性が描かれ、はじめて「あなた達の差別意識が不幸をもたらした」的なメッセージを出しているが、頭から真正面にそんな告発をしていない点が僕には馴染めた。

当初は三人の孤独な魂が結びついて家族以上に家族らしい関係をを形成する様子が描かれる。
ルディはゲイであるがために過去につらい経験をしているらしい。
ポールは正義を実現するために弁護士になったが、自分がゲイであることを隠して生きるている。
そしてマルコは母親に顧みられない一人ぼっちのダウン症の少年である。
同性愛を完全理解していない僕は違和感を感じながらも引きづられる観ていたのだが、それが彼等三人が寄り添う姿を見ていくうちに徐々に感情移入して行った。
3人の幸せな日々を応援したくなっていく。
ダウン症のマルコが言葉を発するのは極めて少ない。
それでも、人形のアシュリーを可愛がるマルコ、ハッピーエンドのおとぎ話をねだるマルコ、ディスコダンスに興じるマルコ、ドーナツを美味しそうに食べるマルコ、そんなマルコの時折見せる笑顔になぜか救われたような気持ちになる。
主演のアラン・カミングもいいが、少年役のアイザック・レイヴァの独特の風貌も効果的だった。

マルコと引き離されたルディとポールが裁判で彼を取り戻そうとするあたりからは偏見と権謀術数が渦巻いてくる。
そしてじわじわと偏見に対する共闘感が湧いてくる。
それでもポールに思いを寄せているらしかった女性の悲しみもさらりと描いたりして偏見に対する告発性を薄めていたように僕は感じたりしたのだ。
そこに疑似家族ではあるが一つの家族の人間ドラマとして描こうとする監督の意図を感じた次第。
それがむしろ感動を呼び起こしていたのかもしれないなと思ったりした。
やはり、生みの親より育ての親だね。
そして、この裁判はルディに諭されたポールが自信の失われた情熱を取り戻す戦いでもあった。

効果的なのはルディの唄う歌で、それが彼の心情であったり、メッセージであったりしてドラマにピッタリだ。
ラストもボブ・ディランの"アイ・シャル・ビー・リリースト"を歌わせて、偏見からの解放を訴えるような趣で観客に余韻を与えた。