「東京家族」 2012年 日本
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監督 山田洋次
出演 橋爪功 吉行和子 西村雅彦 夏川結衣
中嶋朋子 林家正蔵 妻夫木聡 蒼井優
小林稔侍 風吹ジュン 茅島成美
ストーリー
2012年5月、瀬戸内海の小島に暮らす平山周吉(橋爪功)と妻とみこ(吉行和子)は、子供たちに会うために東京へやって来るが、品川駅に迎えに来るはずの次男の昌次(妻夫木聡)は、間違って東京駅へ行ってしまう。
周吉はタクシーを拾い、郊外で開業医を営む長男の幸一(西村雅彦)の家へと向かった。
長女の滋子(中嶋朋子)は不注意な弟に呆れ、幸一の妻、文子(夏川結衣)は歓迎の支度に忙しい。
やがて周吉ととみこが到着、大きくなった二人の孫・実(柴田龍一郎)と勇(丸山歩夢)に驚く。
そんな中、ようやく昌次も現れ、家族全員が久しぶりに夕食を囲むのだった。
日曜日、幸一は勇を連れて、両親をお台場から横浜見物へと連れて行く予定だったが、患者の容体が悪化、急な往診に出かけることになる。
周吉ととみこは、滋子の家に泊まりに行くが、美容院を経営する滋子は忙しく両親の相手ができず、夫の庫造(林家正蔵)が駅前の温泉へと連れ出す。
滋子に頼まれ、昌次は両親を東京の名所巡りの遊覧バスに乗せるが、自分は疲れて居眠りをしている。
帝釈天参道の鰻屋で、周吉は、舞台美術の仕事をしている昌次に将来の見通しはあるのかと問いただす。
昔から昌次に厳しい周吉、昌次はそんな父が苦手だった。
その頃、滋子は幸一に、お金を出し合って二人に横浜のホテルに泊まってもらおうという提案をする。
寝苦しい夜が明け、周吉ととみこは2泊の予定を切り上げて、帰ってきてしまう。
そんな両親に、商店街の飲み会があるので今夜はいてもらっては困ると言い放つ滋子。
周吉は同郷の友人、沼田(小林稔侍)宅へ、とみこは昌次のアパートへ行くことにする。
その時、母に紹介しようと呼んだ恋人の間宮紀子(蒼井優)が現れる。
寸評
小津安二郎監督の名作「東京物語」を現代に置き換えオマージュ・リメイクしたとあっては、どうしても「東京物語」と比較しながら見ている自分がいることを否定できなかった。
作品の背景にある奥深さは断然「東京物語」の方が勝っていて、期待した分だけ淋しい気持ちも湧いてきた。
少し時間を置いてみて、新しい一本の映画として見た場合にはどうだったのだろうと考えてみると、やはり切り込みの不足感は拭えない。
この感情がどこから来るのかと振り返ってみれば僕は二つのことに行きあたる。
一つは東日本大震災を受けて書き直されたと言う脚本だ。
描かれる話は服部未亡人の母親の遺影と、昌次と紀子が震災ボランティアで出会ったこと。
旧友の葬儀に参列出来なかった周吉が訪ねた服部家では、旧友の隣に未亡人となった夫人の母親の遺影もあって、3.11の津波でさらわれ未だに遺体が発見されていないと言うのだが、話はそれだけで終わってしまう。
一方、昌次と紀子が出会ったと言う震災ボランティアの話もスナップ写真一枚で終わってしまう。
この薄っぺらさは何のために脚本を書き直したのかと思ってしまうのだ。
これでは、僕が以前日本万博に行ったことがあるよと言っているようなもので、後年にこの作品を見た時の年代を知らしめる役割しか果たしていないのではないかと思う。
今ひとつは田舎にいるユキちゃんの存在とその存在意義が不明確な点だ。
どうやらユキちゃんはお隣さんか近所の娘さんらしいのだが、この女学生が田舎で一人暮らしをすることになる周吉の面倒を何かとみることになる。
これは彼女に、地方での独居老人の生活問題は隣近所が解決するのが一番いいと言わせていると解釈すべきなのか、それとも都会でなくなった隣近所の交流が田舎では残っていて、都会の住人も見習いなさいよとでも言わせていると解釈せべきなのだろうか?
遠く離れた田舎から出てきた両親を最初は歓待していた子供たちにとって、長居されるとやがてその存在が厄介となってくる。
そんな時、親身になって世話をしてくれたのは、一番ダメ人間と思っていた末っ子昌次の恋人紀子だったという構図なのだが、赤の他人の親切は紀子とユキちゃんに分散されている。
どうもこの二つが違和感の如く胸につかえてイマイチ乗り切れないでいたのだが、その割には結構涙する自分もいて、理屈を言わないなら十分に楽しめる作品にまとまっている。
このあたりは山田洋次の職人技だ。
しかしながら、横浜の高級ホテルでメイドが年寄りの振舞いの良さを讃える一方で、酒場で偶然居合わす3人組のサラリーマンに年寄りへの不満を語らせている対比の意図がもうひとつしっくりこないなど、そこそこに穴のある作品でもある。
昌次と紀子の話は前作から飛び出してこの映画のオリジナルとなっているが、二人を演じる妻夫木聡、蒼井優の力量もあって新鮮に感じた。
「東京物語」には小津監督の原節子さんへの恋慕の情もあったと思われるが、さすがにこの「東京家族」では山田監督の蒼井優ちゃんへのそれはなさそうだ。
でも、山田先生、説教じみてきて、少し偉くなりすぎてしまいましたかねえ~?
映画ファンとしては周吉、とみ子の観覧車を眺めて交わす「第三の男」談義が嬉しかった。
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監督 山田洋次
出演 橋爪功 吉行和子 西村雅彦 夏川結衣
中嶋朋子 林家正蔵 妻夫木聡 蒼井優
小林稔侍 風吹ジュン 茅島成美
ストーリー
2012年5月、瀬戸内海の小島に暮らす平山周吉(橋爪功)と妻とみこ(吉行和子)は、子供たちに会うために東京へやって来るが、品川駅に迎えに来るはずの次男の昌次(妻夫木聡)は、間違って東京駅へ行ってしまう。
周吉はタクシーを拾い、郊外で開業医を営む長男の幸一(西村雅彦)の家へと向かった。
長女の滋子(中嶋朋子)は不注意な弟に呆れ、幸一の妻、文子(夏川結衣)は歓迎の支度に忙しい。
やがて周吉ととみこが到着、大きくなった二人の孫・実(柴田龍一郎)と勇(丸山歩夢)に驚く。
そんな中、ようやく昌次も現れ、家族全員が久しぶりに夕食を囲むのだった。
日曜日、幸一は勇を連れて、両親をお台場から横浜見物へと連れて行く予定だったが、患者の容体が悪化、急な往診に出かけることになる。
周吉ととみこは、滋子の家に泊まりに行くが、美容院を経営する滋子は忙しく両親の相手ができず、夫の庫造(林家正蔵)が駅前の温泉へと連れ出す。
滋子に頼まれ、昌次は両親を東京の名所巡りの遊覧バスに乗せるが、自分は疲れて居眠りをしている。
帝釈天参道の鰻屋で、周吉は、舞台美術の仕事をしている昌次に将来の見通しはあるのかと問いただす。
昔から昌次に厳しい周吉、昌次はそんな父が苦手だった。
その頃、滋子は幸一に、お金を出し合って二人に横浜のホテルに泊まってもらおうという提案をする。
寝苦しい夜が明け、周吉ととみこは2泊の予定を切り上げて、帰ってきてしまう。
そんな両親に、商店街の飲み会があるので今夜はいてもらっては困ると言い放つ滋子。
周吉は同郷の友人、沼田(小林稔侍)宅へ、とみこは昌次のアパートへ行くことにする。
その時、母に紹介しようと呼んだ恋人の間宮紀子(蒼井優)が現れる。
寸評
小津安二郎監督の名作「東京物語」を現代に置き換えオマージュ・リメイクしたとあっては、どうしても「東京物語」と比較しながら見ている自分がいることを否定できなかった。
作品の背景にある奥深さは断然「東京物語」の方が勝っていて、期待した分だけ淋しい気持ちも湧いてきた。
少し時間を置いてみて、新しい一本の映画として見た場合にはどうだったのだろうと考えてみると、やはり切り込みの不足感は拭えない。
この感情がどこから来るのかと振り返ってみれば僕は二つのことに行きあたる。
一つは東日本大震災を受けて書き直されたと言う脚本だ。
描かれる話は服部未亡人の母親の遺影と、昌次と紀子が震災ボランティアで出会ったこと。
旧友の葬儀に参列出来なかった周吉が訪ねた服部家では、旧友の隣に未亡人となった夫人の母親の遺影もあって、3.11の津波でさらわれ未だに遺体が発見されていないと言うのだが、話はそれだけで終わってしまう。
一方、昌次と紀子が出会ったと言う震災ボランティアの話もスナップ写真一枚で終わってしまう。
この薄っぺらさは何のために脚本を書き直したのかと思ってしまうのだ。
これでは、僕が以前日本万博に行ったことがあるよと言っているようなもので、後年にこの作品を見た時の年代を知らしめる役割しか果たしていないのではないかと思う。
今ひとつは田舎にいるユキちゃんの存在とその存在意義が不明確な点だ。
どうやらユキちゃんはお隣さんか近所の娘さんらしいのだが、この女学生が田舎で一人暮らしをすることになる周吉の面倒を何かとみることになる。
これは彼女に、地方での独居老人の生活問題は隣近所が解決するのが一番いいと言わせていると解釈すべきなのか、それとも都会でなくなった隣近所の交流が田舎では残っていて、都会の住人も見習いなさいよとでも言わせていると解釈せべきなのだろうか?
遠く離れた田舎から出てきた両親を最初は歓待していた子供たちにとって、長居されるとやがてその存在が厄介となってくる。
そんな時、親身になって世話をしてくれたのは、一番ダメ人間と思っていた末っ子昌次の恋人紀子だったという構図なのだが、赤の他人の親切は紀子とユキちゃんに分散されている。
どうもこの二つが違和感の如く胸につかえてイマイチ乗り切れないでいたのだが、その割には結構涙する自分もいて、理屈を言わないなら十分に楽しめる作品にまとまっている。
このあたりは山田洋次の職人技だ。
しかしながら、横浜の高級ホテルでメイドが年寄りの振舞いの良さを讃える一方で、酒場で偶然居合わす3人組のサラリーマンに年寄りへの不満を語らせている対比の意図がもうひとつしっくりこないなど、そこそこに穴のある作品でもある。
昌次と紀子の話は前作から飛び出してこの映画のオリジナルとなっているが、二人を演じる妻夫木聡、蒼井優の力量もあって新鮮に感じた。
「東京物語」には小津監督の原節子さんへの恋慕の情もあったと思われるが、さすがにこの「東京家族」では山田監督の蒼井優ちゃんへのそれはなさそうだ。
でも、山田先生、説教じみてきて、少し偉くなりすぎてしまいましたかねえ~?
映画ファンとしては周吉、とみ子の観覧車を眺めて交わす「第三の男」談義が嬉しかった。