「ルート・アイリッシュ」 2010年 イギリス / フランス / ベルギー / イタリア / スペイン
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監督 ケン・ローチ
出演 マーク・ウォーマック アンドレア・ロウ ジョン・ビショップ
トレヴァー・ウィリアムズ ジェフ・ベル タリブ・ラスール
クレイグ・ランドバーグ ジャック・フォーチュン
ストーリー
2007年、リバプールの教会。
イラクで戦死した兵士フランキーの葬儀が行われていた。
参列したファーガスは、戦死した当日、電話に“大事な話がある”という親友フランキーからのメッセージを受けながら、それに答えることができなかった。
彼らを雇っていた会社側の説明は、世界一危険な道路として知られる“ルート・アイリッシュ”で運悪く敵の襲撃に遭い死亡したというものだった。
しかし、その説明に納得できないファーガスとともに、残されたフランキーの妻、レイチェルも衝撃を受けていた。
葬儀の場で、知人のマリソルから、フランキーの残した手紙と携帯電話を受け取ったファーガスは、携帯電話に保存されていた画像の言語の翻訳を、イラク出身のミュージシャン、ハリムに依頼。
そこに映っていたのは、罪のない2人の少年が銃殺される様子で、撃ったのはイラクにいる兵士ネルソン。
そして、その場にいたフランキーは激怒していた。
それを見たファーガスはフランキーの死に対して不信を強めていく。
フランキーをイラク戦争に誘ったのは彼だったが、身分は国家の軍隊が派遣した兵士ではなく、戦争をビジネスにする企業が大金と引き換えに派遣したコントラクター(民間兵)だった。
しかし、タフなファーガスとは違い、性格の優しいフランキーは、戦場で精神を崩壊させていったのだった。
協力して事件の真相を追ううちに、次第に惹かれ合うようになるファーガスとレイチェルだったが、しかしファーガスは彼女との関係には背を向け、ひたすらに事件の真相を追い続ける。
そして軍事企業の秘密が見えてきた頃、事件の証拠となる携帯電話を狙ってレイチェルの家に何者かが押し入り、ハリムは暴行を受ける。
やがて、フランキーの死の真相が明らかになってゆく…。
寸評
イラク戦争を素材にした社会派的作品であると同時に戦争サスペンスとしての側面も持ち合わせている。
僕は謎解きのサスペンスと同時に描かれる、イラクでの軍人や民間兵たちによる非道な行いにむしろ衝撃を受けた。
戦争をビジネスにする民間警備会社と、そこに雇われた民間兵たちの所業をドキュメンタリータッチの映像なども交えて非道性を告発しているかのようでもあった。
後半に進むにつれて緊迫感が高まり、そこでファーガスがかつて彼らがイラクで行ったのと同じ行為を行うが、この構図によって戦争の狂気がくっきりと浮かび上がってきた。
主人公のファーガスは狂人のごとく事件を追うが、その背景としてファーガスとフランキーが兄弟同様に育ったこと、冒頭で電話に出られなかったことにたいする後悔と、自分がフランキーをイラクに誘った張本人であるという自責の念などが背景にあることが、その狂人性を説明補佐していたと思う。
戦争をとりまいている悪夢の一面を強烈に描いているけれど、戦争の恐怖を置いてきぼりにしている僕は、この事件を傍観者的に眺めていたことを気づいて少し怖かった。
最後にハリウッド映画的なシーンを登場させるが、このシーンは違和感があったなあ。
全体の雰囲気を引き継いだ違った描き方が有ったのではないかと感じた次第。