おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

お母さんが一緒

2024-08-17 08:12:50 | 映画
「お母さんが一緒」 (2024) 日本


監督 橋口亮輔
出演 江口のりこ / 内田慈 / 古川琴音 / 青山フォール勝ち

ストーリー
親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三姉妹。
長女の弥生(江口のりこ)は美人姉妹と言われる妹たちにコンプレックスを抱き、次女の愛美(内田慈)は優等生の長女と比べられてきたことを心の底で恨んでいる。
そして三女の清美(古川琴音)は姉2人を冷めた目で見ていた。
そんな三姉妹は“母親のような人生を送りたくない”という思いを持っており、宿で母親への愚痴は徐々にエスカレート。
やがて互いを罵倒する修羅場に発展するが、清美がサプライズで呼んだ彼氏のタカヒロ(青山フォール勝ち)が現れたのを機に、事態は思わぬ方向へ向かう。


寸評
橋口亮輔もこのような喜劇を撮れるのかと感心する、ユーモアにあふれた作品だ。
三姉妹がそれぞれの存在感を示す罵詈雑言、口喧嘩がメインで、そのアンサンブルが素晴らしい。
タイトルが「お母さんと一緒」ではなく、「お母さんが一緒」となっているのが意味深である。
お母さんと一緒なら親孝行な姉妹の話になるのだろうが、お母さんが一緒だと母親に端を発して三姉妹の口喧嘩が起きる話になったのだと思う。

三姉妹は母親の誕生日祝いとして温泉に招待しているのだが、その母親は彼女たちの会話に出てくるだけで一度も登場しない。
三姉妹は“母親のような人生を送りたくない”という共通の思いを持っているのだが、それでも登場しない母親の影響をもろに受けていることが感じ取れるし、彼女たちにとって母親の存在は極めて大きいものなのだと感じさせる。
一回も登場しないことで、なおさらその思いを強くさせている。
一瞬、母親化と思わせるシーンが用意されているのも心憎い。

母親はネガティブな性格のようで、長女のプレゼントに素直に喜べない。
母親は40歳にして独身の長女に「こんなものを貰うより、はやく結婚して孫の顔を見せてほしい」と言ってしまう。
母親の好きな色のショールを必死で探してきたと思うのだが、多分母親はその気持ちを十分に分かっているのだが素直になれないのだ。
長女だからと特別扱いで厳しく接してきた母親にしてみれば、照れ臭いのか気持ちとは反対の態度に出てしまっているのだろう。
この関係は映画の世界だけでなく、現実社会でも目にする関係であり、僕にも似たような経験がある。
長女を演じた江口のりこの怪演が抜群だ。
敗けず劣らず、次女の内田慈(うちだ ちか)、三女の古川琴音(ふるかわ ことね)もそれぞれ性格の違う姉妹を存分に演じている。
三人が発する罵詈雑言、口喧嘩に思わず笑ってしまう。
僕は一人っ子なので兄弟姉妹に横たわる微妙な感情が分からないのだが、誇張はされているがありそうな感情だと思った。

言い争いだけが続く内容に癒し系として登場してくるのが、清美が結婚を考えているタカヒロである。
タカヒロは旅館の従業員から関係を聞かれ、「家族です」と答える。
常識人のタカヒロは全く異質なこの姉妹と義兄弟になろうとしているのだ。
それでも、さらに一ひねり用意しているのも笑わせる。
家族は切って切れない仲で良いものだと思わせ、ラストシーンがそのことを決定づけている。
三姉妹はあれほど嫌っていた母親のポジティブな発言を聞き、嬉々として母親の元へ駆けつけるのだ。
だから家族や親せきの悪口に他人が同調してはいけないのだ。
あっという間に元に戻るのも血縁なのだ。
僕には新たな橋口亮輔の発見であった。