雑にゃん日記<俺ってズレてる?>

いろいろな趣味や語りを書きたいと思いまーす。
私の頭の中、一般的と言うものとはズレているみたいです。

「プラスティック」井上 夢人さん作。この小説に心をつかまれました

2024-11-10 12:51:54 | 読書
もう20年前の小説です。
今回は「プラスティック」井上 夢人さん作の小説を読みました。

本書は2024年の本屋大賞 発掘本となっています。

本との出会いというは、一期一会。
こういうチャンスが無いと、知らないままと言うのは・・・非常に残念ですが、この賞のおかげで手に取ることが出来ました。

さて、感想なのですが・・・。
なぜでしょう?
1ページ目から作品の世界に引きずり込まれました。
もう読みたくて読みたくてたまらない魅力です。
なぜでしょう?
本当にわかりません。
最初は、キャラクターの「日記」から始まります。
そして、全編色々なキャラクターの日記形式で進んでいきます。
この構成は、ちょくちょくある構成です。
ただ、1ページの「日記」は、何の変哲もない、一人の女性のウキウキ話です。
でも、なぜか引き込まれる。不思議です。
そこに、事件?というか、なんだか気持ちの悪い「ズレ」が差し込まれます。

全編、複数のキャラクターの日記で話が進みます。
それぞれのキャラクターが、それぞれ別の道を進みます。
とはいえ、中心に「ある」キャラクターがいる。。。けど、そのキャラクターは出てこない。
という不思議な感覚。
読み進めるごとに
「これは、殺人事件が起こった時に、もう一人になり替わって生活をしている話か?」
とか
「まだ出てこない、裏のキャラクターがいて・・・」
とか、色々想像してしまう。
それくらい、本質の部分は記載されているにもかかわらず「明確な答え」を見にくくする工夫がいたるところにちりばめらています。
それゆえに、本書の2/3ぐらいは、読者の思考をフル回転させて読ませる。
これが、本書にのめりこんで良くプロセスなんだろうと思います。

そして、残りの1/3は、種明かし編。
とはいえ、事件の種明かしではなく、2/3でふんわり書かれていた・・・若干の矛盾をはらみながら・・・部分を1本の線にしていくプロセス。
ネタばれにはなりますが、この話は解離性同一障害・・・つまり「多重人格」の話です。
そう、「多重人格」にすることで、話の筋が見えてきます。
が、前述しましたが、それぞれがそれぞれの物語を作っている中での、多重人格なのです。
それぞれの物語と言うのは、ある出来事に対して「右」のキャラクターと「左」のキャラクターがいて、ストーリーテーラーがいて・・・まだ見ぬ中心人物がいる。
そして、それぞれがそれぞれを知らない。
そんな構成で、1本のストーリーにしている。
すごい話だと思いますし、すごい構成力、プロットの複雑さをまとめる作力。
読み応え満載です。

そして、最後に「この話は、あなたに向けた日記形式の話です」と、まだ見ぬキャラクターに対して、多重人格のキャラクターたちが語ります。
まだ見ぬキャラクター・・・それは、その体の持ち主・・・オリジナルの人格に向けてです。
最後の日記には、オリジナルキャラクターが書くべき「空」の章が付け加えられます。
・・・粋な構成です。
この「オリジナルキャラクター」に問いかける構成。実際は・・・読者なのだろうと思うのです。
読者の中に色々な人物がいる。
そして、それらは独自に協調もなく行動しています。
「あなたなら、どうする?どう感じる?そして、どのような夢を見る?」
と問いかけられます。
最後のページを見て、私は呆然としました。
この先の物語を渡された感じです。
この先を読者自身が感じ取り、構成していくことを託された感じがしました。
そう、物語はまだ終わっていないと。
次は「あなたの番だ」と。

確かに、SFチックな終わり方です。
ただ、これだけの「重荷」を乗せられた終わり方も珍しい。
それゆえに、感慨深い・・・というか、作者の思いが強烈に感じさせられる作品だと感じました。

さて、2周目を読むと「矛盾」と感じていたことが矛盾ではなく、うまくぼやかす書き方をしていることがわかります。
そう、1周目では先を知らない読者を「うまく混乱させる」それでいて「後からは矛盾がない」という状態にしている。
なんとプロット、構成の妙技かと。
人格の一人に「藤本」というキャラクターがいます。
そして「藤本」と協調しているキャラクターの女性がいます。
現実世界には、その女性と結婚していた凶暴な男「藤本」がいます。
そして、女性に好意を持っている男が言うセリフ
「藤本の弟に会ったよ」
と。
これだけを読むと「なんか関係があるのでは?もっと複雑な状況なのか?」と思ってします。
うまく読者を導いて・・・導かれています。
この回答は、本書の中で書かれていますので、ご一読してみると良いのではないでしょうか。

最後に、本書のタイトル「プラスティック」。
最初
「なぜ、プラスチックではないのだろうか?」
と思いました。
そして、本書の中に「プラスチック」なる要素が何もありません。
作者さんは、なぜこの「プラスティック」というタイトルにしたのか?
不思議でなりません。
あくまでも私の想像です。
私のように、ちょっと投資にかかわっていると良く見る
「ティックチャート」
この時点での価格をつないだグラフ。。。
という事は、値の1点です。
つまり
「1つ1つの点が、プラスしていった存在達」
という意味ではないでしょうか。
それであるがゆえの「チック」ではなく「ティック」ではないでしょうか。
そう考えると、このタイトルに込められた作者の思いが熱く感じられます。

この小説は、20年前に書かれた本です。
随所にフロッピーやワープロなどの20年前の文化が出てきます。
しかしながら「ミステリー」としては、現代にも・・・いや、過去から未来ずっと読まれても良い、濃厚なミステリーだと思います。
「昔のもの」
とか
「古い」
とか
「世代」
とか。
そんなことにこだわることが、いかにバカバカしいか。
良いものは良いと声高らかに言える。
そんな良書に出会えたこと、感謝いたします。


コメント
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