ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ラッカは静かに虐殺されている

2018-04-10 23:57:03 | ら行

 

とてもうまいドキュメンタリー。

 

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「ラッカは静かに虐殺されている」74点★★★★

 

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2014年、イスラム国(IS)に占領されたシリア・ラッカで

彼らの蛮行や現地の状況を

スマホを武器に発信し続ける市民ジャーナリスト集団

「ラッカは静かに虐殺されている」=RBSS。

 

その活動を「カルテル・ランド」(15年)のアメリカ人監督が追ったドキュメンタリー。

緊迫の現実とともに、改めてシリア状況が一からわかるようになっていて

非常にうまくまとめられていると感じます。

 

実のところ「シリア・モナムール」(16年)がけっこうなトラウマになり、

背けてはいけないと知りつつも、

爆音やがれきの惨状を直視することにおよび腰になっていたワシ。

 

でも本作は、現地の悲惨な状況も紹介しつつ、

なぜ、ISに占領されたのか?などをきちんと一から学べる感じで

ちょっと「わたしはマララ」(15年)的なところもあり

緊迫と緊張は感じつつも、見やすかった。

 

 

ラッカは割と牧歌的で平和な場所だったそうで

2011年にアサド政権の独裁に市民が立ち上がり、打倒し

せっかく“アラブの春”がきたのに

その後、すぐに全体を引っ張れる存在がなかった。

 

そこにできた、政治の一瞬の空白を、ISにつけ込まれ、

文字通り乗っ取られたんだと

この映画で改めて、よく理解できました。

 

そのなかでRBSSが発足し、

現地の状況をスマホを駆使して世界に発信するようになるんですが

しかし、その活動はISに目をつけられ、

自身にも、そして両親や兄弟、仲間にも危険が及んでしまう。

メンバーのなかには

自分の父親がISに射殺される映像をネットで見ることになってしまう人もいて

本当に、厳しく、キツい状況です。

 

そんななかで何が彼らに、行動を起こさせているのか。

その勇気はどこからきているのか。

 

映画を見ても、それはよくわかります。

 

さらに

今回、おなじみ「AERA」の特集用に

監督やISメンバーにSkype取材もさせていただいて、やはり確信しました。

 

彼らは

例えISを空爆で破壊しても、彼らの精神はなくならない、と、世界に警鐘を鳴らしている。

 

いつ、どこで、同じような“悪”が立ち上がってもおかしくない。

ゆえに、この出来事は

現代を生きる誰にとても他人事でなく

全ての世界に、関わる問題なのだ!と感じ入りました。

 

映画中で、

身の危険が大きくなりドイツに逃れたRBSSのメンバーたちに、

ドイツ国内の国粋主義者による“ヘイトデモ”が容赦無く襲いかかる現実も

また、身近な日本の状況を思い、

重くのしかかる。

 

 

なによりも、現実を知らないこと、知らないふりをすることは罪。

そして知ったのであれば、それを少しでも多くの人に伝えること。

 

これが、我々の精一杯できる処し方であると

この映画は教えてくれていると感じます。

 

★4/14(土)からアップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開。

 

「ラッカは静かに虐殺されている」公式サイト

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