ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

本気のしるし 劇場版

2020-10-06 23:20:57 | は行

やられた!えぐられた!

間違いなく今年No.1の「泥沼映画」です!(笑)

 

「本気のしるし 劇場版」90点★★★★

 

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おもちゃを販売する中小企業に勤める辻(森崎ウィン)は

誠実で、社内の評判もよい青年。

 

お人好しで、NOといえない性格ゆえか

はたまた「考えなし」なのか

実は社内で人気の社員・美奈子(福永朱梨)や

お局様扱いされている細川先輩(石橋けい)と

関係を持っている。

 

そんなある夜、彼はコンビニで

不思議な女性・浮世(土村芳)を助ける。

 

トラブルメーカーの浮世を、なぜか放っておけない辻は

彼女と関わったばかりに

次々とトラブルに巻き込まれてゆき――?!

 

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「淵に立つ」(16年)そして最近では「よこがお」(18年)も素晴らしかった

深田晃司監督の新作。

 

最初は19年10月からドラマとして放送されたもので

大反響を受けて、ディレクターズカット版として映画化。

そして今年、カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション2020に選ばれた、という

まあ期待度満点な作品です。

 

ドラマは未見で

上映時間が4時間?!と思ったけれど、そんなものものともせず。

えぐられた! ぶちのめされました。

間違いなく、今年No.1の泥沼映画。

 

善とは?人の本質とは?――を考えつつ

予測不能の悲喜劇の渦に巻き込まれる。

深田監督は本気で天才だと思います(マジで。笑)

 

 

まず冒頭、主人公・辻(森崎ウィン)を一瞬の描写で

「この人は誠実な人だな」と思わせておいて、

実は、深い考えもなく、テキトーに会社の女を喰ってることを明らかにし

あっさり裏切る(笑)

いや、たしかに、悪いヤツではなく

とことんお人好し。

 

 

そんな彼が、謎でヘンな女(土村芳)に出会い、

おかしな状況に、巻き込まれていく。

 

「なんで、こんな女を?」「もう、放っておきなよ!」とイライラしつつも

目が離せない(苦笑)

 

めくるめくミステリーでありサスペンスであり、

善意とは何か? 人がいいとはなにか?――と、人間の根源を問うてくるんですよ。

 

ヘンな女・浮世は

ゆらゆらとフラフラとしていて、スキだらけの

一番たちの悪いタイプの女なのですが

しかし「ああ!いる!○○に似てる!」と、友人を思い浮かべさせる苦いリアルさ(笑)

 

そして、浮世の数少ない友人である女性の言葉がハッとさせる。

「スキがあることはそんなに悪いことなんですか。

そこを突いてくる人がいるから、こういうことになってしまうのではないですか」

 

――ぐっ。・・・・・・そのとおりですよね、世間!男子!

 

そのほか

ヤクザ者の脇田(北村有起哉)、

頼れそうで実は繊細な細川先輩(石橋けい)など、

脇役含め、4時間のなかで

「え、この人、こういう人だったんだ」と

人間の多面性を自然に、鮮やかに切り取る。

 

ちっちゃな街の、ちっちゃな世界で起こるそれは

「世紀の大事件!」ではないかもしれないけれど

しかし日常のなかでは相当な事件である恋愛や転職――などが劇的に展開して

その壮絶なアップダウンに見入ってしまうんです。

 

 

そこで起こる、復讐や因果応報の皮肉。

エンディングも一筋縄ではいかない。

 

どんだけ人間観察力と洞察力あるのか?

 

人と人が関わり生きるこの世は

それだけでホラーで奇跡だ!と思わされるのでありました。

 

監督が掘っているものは

それこそシェイクスピアや O・ヘンリ、バルザックなど

人間の行いを見つめ、業や皮肉を描いてきた古典につながると思う。

 

人の営みが続く限り、深田監督は

己が吸収してきたものを、消化し、

まだまだやり続けてくれるだろうな。

AERA「現代の肖像」で深田監督を取材させていただいたのが2018年。

 

いやあ、本当に

光栄だったなあと、いま思うのです。

 

★10/9(金)からシネ・リーブル池袋ほか全国順次公開。

「本気のしるし 劇場版」公式サイト

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