ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

おもかげ

2020-10-22 23:08:49 | あ行

これは特大ヒット!

 

「おもかげ」82点★★★★

 

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スペイン・マドリードに暮らす

エレナ(マルタ・ニエト)には

離婚した元夫とのあいだに、6歳の息子イバンがいる。

息子はいま、元夫とフランスの海岸方面にバカンスに行っている――はずだった。

 

が、エレナの携帯に、イバンから電話が入る。

 

「パパが戻ってこないし、自分がどこにいるかわからない」――

 

泣きじゃくるイバンに動転しつつも

「ママが迎えにいく。そこから何が見える?」と聞くエレナ。

しかし、電話は切れてしまう。

そして、それがエレナが息子と最後に交わした会話となった――。

 

10年後。

エレナはいまだ行方不明のイバンを心に留めながら

海岸のレストランで働いていた。

 

そんなある日、エレナはビーチで少年ジャン(ジュエール・ポリエ)を見かける。

彼にどこか息子イバンのおもかげを見たエレナは

彼の後をつけるのだが――?!

 

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別れた元夫と旅行中のはずの6歳の息子から、

若き母親エレナにかかってきた1本の電話。

「パパが戻ってこない」――

 

「どこにいるの?」

「わかんない。でも、知らない男の人がこっちに来るよ――」

「逃げて!はやく!」

――そんなやりとりの後、息子は消えた。

 

という、なんとも恐ろしい導入で始まる本作。

 

その成り立ちを説明しますと、

もともとは2017年に、15分の短編映画「Madre(=母)」という名で製作され

アカデミー賞短篇実写映画賞にもノミネートされた作品なんです。

で、本作はその短編の

「その後」を描いたもの。

 

本作の冒頭にある、1シーン1カットの超・緊迫する15分の短編は

その作品をそのまま使っているんです。

で、

登場人物の「その後」が描かれていく。

 

 

で、事件の発端、で始まれば

フツーは子どもの失踪→犯人捜しのサスペンス、となりそうなものですが

この映画は、そういう方向へはいかない。

事件の解決や、息子との再会――など予定調和とは、まったく別の方向へ進み、

母親であるエレナのその後の心の旅、を描いている点が、

意外でもあり、おもしろいんです。

 

事件から10年後。

エレナは息子の残り香を追うように、海辺のレストランで働いている。

 

「息子を亡くして、イカれた女」と陰口をたたく人もいるけれど

まだまだ美しいエレナには恋人もいて

未来へ、踏み出すこともできる。

 

しかし、そんなある日、

エレナはどこか息子のおもかげを宿した少年ジャンと出会うんです。

親子ほどの年齢差ながら、なにか通じるものがあるのか

急速に親しくなっていく二人を

しかし、周囲はビミョーな目で見つめる。

 

二人の間にある想いはどんなものなのか?

二人はどうなっていくのか――?

 

 

そこにあるのは、どうしようもない、哀しみとつらさと、執着。

でも救いのないはずの物語は、

常に淡い色調のやさしく美しい海辺とともにあって

重苦しくなく、どこか気持ちいい。

 

さらに

監督は「こうだ」という正解を提示せず

さまざまな解釈を、観る人に委ねているんです。

 

ゆえに、ワシはこのラストに

ものすごく残酷さを感じてしまった。

 

未見の方はここまでにしていただきたいのですが

 

ワシはジャンとエレナは、結ばれたと思うんですよ。

でも、母子ほどの年の差な二人に、やっぱり確実な未来はない。

彼氏とも別れ、ジャンを選び、一人になることを選んだエレナは

すがすがしいけれど

この先、「完全にイカれた女」として

孤独に、歳をとっていく可能性もある――と思うですよ。

 

で、その疑問を

おなじみ「AERA」の「いま観るシネマ」で機会をいただいた

監督インタビューで、本人にぶつけてみたところ

へええ、おお、という答えが返ってきた。

 

記事には書いていませんが、

監督は、そういうエレナの結末は考えていなかったみたい。

あくまでも、エレナはここから、進んでいく、と監督は言っていた。

 

「結局、私がエレナに感情移入しすぎて、ジャンを愛しすぎたのかもしれませんね」と言ったら

「アハハ、それはとても嬉しいね!ありがとう!」って(笑)

 

観る人によって、さまざまな意見をもらう、と監督もおっしゃっていました。

ぜひ、どう感じるか、

お試しいただきたいと思います!

 

AERA記事はAERAdotのこちらから読むこともできます~

 

★10/23(金)からシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「おもかげ」公式サイト

コメント (2)
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