ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

2020-10-10 18:44:19 | ら行

じわじわと来る、「あとじわ」系。

 

「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」73点★★★★

 

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サンフランシスコで生まれ育ったジミー(ジミー・フェイルズ)は

祖父が建て、かつて家族と暮らし

しかし、すでに人手に渡ってしまった

思い出の宿る家を愛している。

 

ある日、現在の家主が

その家を手放すと知ったジミーは


友人モント(ジョナサン・メジャース)の助けを借りながら

再びこの家を取り戻すべく

奔走するのだが――?!

 

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祖父が建て、いまは人手に渡った実家に

こだわり続ける青年と、その親友のつながりを描く物語。

 

新しいのに、懐かしく

どこか文学的で、静かなSFのような雰囲気もある

不思議におもしろい作品です。

 

おなじみ気鋭のA24×ブラピ率いるプランB作品だそうで

ああ、なるほど!

 

ハッとさせるカメラワークや音楽、

独特の語り口とリズムをもつ、映画文体。

そこにある空気を味わう・・・という感じなんですよね。

 

いつもどおり、予備知識ナシで観て

「若者が撮ったとしたら、どんだけ渋い、いい趣味なんだ!」と思ったんですが

実際、若者が撮ってた(笑)

 

主人公ジミー演じるジミー・フェイルズと

ジョー・タルボット監督は10代からの友人だそうで

センスよく、いい意味で老成してる感ありあり。

 

ジミーの実家があるサンフランシスコの街は

かつて日系人たちが住み、1941年のパール・ハーバー攻撃で彼らが収容所へ強制移住させられ

その後、ジミーの祖父らの世代の黒人たちが住み、

やがて家賃が高騰し、黒人たちは出て行かざるを得なくなり、

いまはリッチピープルたちが暮らし、

かつての住人はワゴン車で暮らしていたりする――という歴史の変遷と事情がある。

 

いくら、その家を愛していても

しがない暮らしをしているジミーに、手が届くわけないんです。

でも、あきらめられない。

 

そもそも、なんで世の中は、こんな状況になっちまったのか。

そんな叫びも内包していて、

ちゃんと深い。

 

 

なにより

ジミーがこだわっている家が

「プール付き豪邸」とかではなく、

レトロな祖父の家っていうのが、いいんですよね。

 

美しいヴィクトリアン様式の家だけど

いまどきの趣味からいうと、ちょっとテーマパーク風で、キッチュともいえる。

こういう家にこだわる、ってのが、じわじわとツボる。わかる。

 

ワシも子ども時代に行った

渋谷の裏手にあった、おじさんちが忘れられない。

 

レトロな一軒家の

使い込まれた板の間、台所の灯り、雑多な空間――

取り壊される、と聞いて見に行ったときも

アパートになってしまったあとも

ついつい見に行ってしまうんですよ。忘れられないの。

 

もちろん、そんな一等地、手に届くわけもないじゃん!って

ああノスタルジー。

 

そういうのあるある、って感じる方、ぜひ!

 

★10/9(金)から全国で公開。

「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」公式サイト

コメント (4)
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