ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

異端の鳥

2020-10-07 20:22:41 | あ行

これは究極のトラウマ映画!

すさまじい強度なので気をつけて。

 

「異端の鳥」72点★★★★

 

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第二次大戦中、東欧のどこか。

ホロコーストを逃れ、一人田舎に逃れた少年は

いつか両親が迎えに来てくれることを夢見ながら

老婆と孤独に暮らしている。

 

周囲の子どもたちはそんな少年を

「異物」として扱い、残酷ないじめを加えていた。

 

が、老婆が亡くなったことで身寄りをなくした彼は

大人たちからも「異物」と見なされ、

袋だたきにされる。

 

そして村から追い出された少年は

なんとか生き延びようと歩き出す。

 

そして、さまざまな人に出会うが――。

 

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ホロコーストから逃れるために

たった一人で田舎に疎開した少年が

想像を絶する差別と迫害を生き抜こうとする物語。

 

原作は、自身もホロコーストを生き延びた

ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した小説で

しかしあまりの内容に

ポーランドで発禁になり作者は自殺――という

ものすごい話なんですが

 

で、そんな話をこれ以上ないほど、陰鬱に黒く暗く

完璧に映像化したのが本作です。

 

モノクロームの映像の容赦ない強度、美しさは

「サタンタンゴ」(94年)「ニーチェの馬」(11年)

タル・ベーラ監督を思わせもするのですが

 

うう・・・これは・・・

観ながら、マジで心が石になっていく感じ。

 

 

あまりにも、いや〜なイジメの連続。

しかも全てに動物が絡んでくる、という

心に傷を塗りたくる、念の入りよう。

 

3時間目を離させないものすごい強度を持ってはいるんですが

陰鬱な気持ちになることは間違いなく、

ぜひおすすめ!とはとても言えません。

 

何の罪もない少年が

ホロコーストを逃れ、田舎に疎開する。

しかし子どもたち、そして大人たちも

彼を「異質」な存在として徹底的にいたぶり、排除する。

 

村を追い出された少年は、それからさまざまな人々と出会ってゆくのですが

ようやく一息つけたり、かすかに巡りあえたにみえる平穏も

監督は容赦なく、あっという間に一切合切奪ってゆく。

 

その繰り返しのなかで、少しの希望が見えても

「どうせ、また・・・」と思ってしまう。

酷い仕打ちに、心が慣れてしまい

だんだん感覚がにぶり、麻痺していく。

それが一番、まずいことなんだと、わかってはいるのだけど・・・

 

すべてのエピソードが強烈に心に残るのですが

「異端の鳥」のタイトルになった

ペンキを塗られた鳥が、仲間たちにいたぶられ、殺されるエピソードが

やはり端的に、核心をついてくる。

 

人間だけでなく、動物も、異質なものを忌み嫌い、排除する。

これもすべて自然の摂理なのか――

ホントに生きていることがいやになってくるぜ!(泣)

 

特にこんなご時世、

とことんダウナーになるので、

むやみに観るのは気をつけていただきたいのですが

 

じゃあ、なぜ、いま、この話がこんなに痛いのか。

そこが壮絶に重要なポイントなわけですよね。

自身の経験を、歴史を、

ワシなどは想像もできないような苦痛を耐えて物語に昇華し、亡くなった

作者の思いを、受け止めなければ

愚かな人間は、何も学ばないのだと。

 

あらゆることが歯がゆすぎて、ニュースを観るのもうんざりして

思考停止に陥りそうな自分に

カンフル剤としては、ものすごく効きました。

 

★10/9(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「異端の鳥」公式サイト

コメント (2)
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