ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ハイゼ家 百年

2021-04-24 23:22:28 | は行

ものすごいものを、観た。

 

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「ハイゼ家百年」79点★★★★

 

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1955年、東ドイツ生まれのトーマス・ハイゼ監督が

自身の家族の日記や手紙から

ドイツ100年の歴史を振り返る、というドキュメンタリー。

 

上映時間218分(!)マジかーとちょっとビビったのですが

これが、まるで飽きないんですよ。

そのことが、まずは驚愕だった。

やっぱ古今東西、ファミリーヒストリーっておもしろいんですねえ。

 

加えて、この映画がタダモノじゃないのは

関係者インタビューや過去のニュース映像などが一切出てこないところ。

 

現代ドイツの街や列車などを映した

叙情的なモノクロームの映像や

(雨の市電からの映像とか、ソール・ライターみたい!

家族の写真などに

 

監督自身による祖父母や両親の日記や手紙の朗読が、重なるだけ。

 

なのに、218分飽きないって

スゴクないですか?(笑)

 

映画は5章仕立てで

最初は監督の祖父母、次に監督の両親、そして監督自身の世代の話になっている。

 

ドイツの100年といえば、その波瀾万丈は予想はできるし、

実際、監督の祖父はあの時代にユダヤ人である祖母と恋に落ち、結婚したんですよ。

そんな彼らがナチス時代をどう生き延びたのか?

そうしたことが、手紙や日記などから明らかにされていくんです。

 

が、しかし

この映画がクールなのは

ダイレクトな歴史解説などを回避し

家族の手紙や日記に絞ったこと。

 

誰もが知っているような大事件をことさらに書かず

加えて家族相関図などの説明も一切排除しているので、

恋文のやりとりなどを聞きながら

「え? 結局、誰と誰がくっついたの?」とか

家庭の事情も実にミステリアスで、ハラハラするんです(笑)。

何も知らずに鑑賞すると、よりおもしろいかもしれない。

で、観たあとに

いろいろ反芻し、謎解きすることをオススメします!

 

 

ということで以後はネタバレとかではないですが

映画を観た方に

ちょっとだけ答え合わせを。

 

まず「第1章」で画面に写される名簿は、お察しどおり

強制収容所に連行されていった

ウィーン在住のユダヤ人たちの名前と住所のリストなんですね。

 

監督の祖母とウィーンに残った彼女の家族との手紙のやりとりには

本当に胸が詰まりますが

ふと思えば、その手紙はほとんどが、ウィーンからのもの。

つまり祖母がドイツからウィーンの家族に出した手紙は

もうなにも残ってない、ということなんだな――とかね。

 

そして「第2章」。

終戦後、東西ドイツの間で揺れ動く男女のドラマが

その手紙と日記から立ち上ってきて、ドキドキなのですが

え? この二人って監督の○○じゃないのか!という展開になる。

この衝撃は、ワシには凄かったす(笑)

 

そして

1955年生まれの監督が誕生する第3章、第4章では

東ドイツの進む方向に違和感を持ち

「わきまえなかった」監督の両親が、国に目をつけられて仕事を解任されたり

あの「シュタージ」に監視されていた状況がわかってくる。

 

 

監督の両親が親しかった

著名な劇作家ハイナー・ミュラーが

1992年に書いた「現状を憂う」文章が

いまの世の中とまるっきりリンクしていて、恐ろしいほどです。

 

 

全編を通して

駅や列車の映像が多く登場する理由は

 

試写会後に行われた歴史解説ウェビナーで

柳原伸洋さん(東京女子大学・歴史文化専攻)やほかの方も考察していたけれど

列車が人や時、場所をつなぐメタファーであること

そして

かつて多くのユダヤ人が、列車で収容所に運ばれ

その先が「ガス室」につながっていたことにも

強く結びついているに違いない。

 

いまこのときも、この世界を乗せて、

列車はどこに行き着くのか――。

 

多くを考えさせる、秀逸なドキュメンタリーでした。

 

★4/24(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「ハイゼ家 百年」公式サイト

コメント
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