忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)。
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映画「真実」生涯女優のプライド

2019年10月15日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼映画「真実」生涯女優のプライド


2020年05月15日発売■Blu-ray:真実 スタンダード・エディション
前作「万引き家族」がカンヌ国際映画祭で
パルムドールを獲得した是枝裕和監督の最新作は
フランスを代表する名女優カトリーヌ・ドヌーヴを主演に迎えたドラマ。
フランスの映画祭で最高栄誉を獲得した日本人監督が
ドヌーヴを主演にした映画を撮るだけでも大変な栄誉。
共演はジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ。

国民的大女優として長く一線で活躍してきたファビエンヌ(ドヌーヴ)は
スクリーンに身を捧げた人生を振り返った自伝本を出版する。
しかし、その中に親友でありライバルでもあったサラが一切出てこないことを
不審に思った娘のリュミエール(ビノシュ)は、母にそのことを問い正す。
初めは固辞していたファビエンヌだったが、
渋々マネージャー代行を務めているリュミエールに次第に心の内を明かすようになる。

フランソワ・オゾンの傑作「8人の女たち」あたりからのドヌーヴは
まさにファビエンヌのように勝ち気で大御所然とした女性を多く演じてきたため
大女優役の本作はドヌーヴの自伝的映画のように見えてしまう方も多いだろう。
それが狙いなのかはさておき、ドキュメンタリーっぽい手法でドラマを紡ぐ
是枝監督の作風は舞台をフランスに移しても健在。
映画一筋に人生を捧げてきた女優と、
芝居のために後回しにされてきた(と思っている)娘との確執が
膝を突き合わせて話しているうちに少しずつ溶けてゆくあたりは
この手の作品のド定番なので安心して観ていられる。

相手が誰であろうと変えない傲慢で不遜な態度は、
ファビエンヌにとって老いてなお衰えぬ女優魂をたぎらせるための必要な燃料。
自儘を貫く大女優の糧なり支えてきた元亭主や現マネージャーなどは
全てを理解した上で”影”となれても、娘だけはそうはいかない。
しかし、幼少期からの不満をぶつけて見えてくるのは
女優という仮面の下に隠された、不器用な女性なりの母性だった。
「チャリティや政治に興味を示す女優はスクリーンから逃げているだけ」と
斬り捨てるファビエンヌなりの矜持が、押しも押されもせぬ大女優を作り上げた。
繊細な人は生き残れないと言われる芸能界で
長年トップに立ち続ける過酷さは、頂点からの眺めを知る者にしかわからない。
第一線で活躍し続けるため、人としての平均的な幸せのいくらかを
諦めざるを得なかったファビエンヌが、
老境に差し掛かってほんの少し見せる寂しさと弱音。
しかし、弱音を吐いて得られた人間的な丸みが、
円熟となって女優ファビエンヌをさらに輝かせる。
まさにドヌーヴにしか出せない、ドヌーヴの映画である。


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是枝監督の持ち味は、その場の空気を切り取ること。
家族の何気ない会話の中に、誰しもが自身の家族像や人生観を重ねることができる。
舞台が日本からフランスに移されても、そこは努めて変わらないよう配慮されていたが
監督の狙いを汲み取ったであろうイーサン・ホークやジュリエット・ビジョシュの芝居を
ドヌーヴの圧倒的な存在感が呑み込んでしまい、「歩いても 歩いても」や
「海街Diary」のような家族ドラマにはなれなかったように思う。
つまらなかったわけではなく、本作で得られる充足感は
シャーリー・マクレーン主演の「あなたの旅立ち、綴ります」や
メリル・ストレープ主演の「8月の家族たち」に近く、
やはりこれは是枝監督が撮った『洋画』なのだと思う。


10月20日発売■雑誌:SWITCH Vol.37 No.11 特集 是枝裕和
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もうひとつ、私が鑑賞したのは吹き替え版だったのだが
できれば吹き替えの演出も是枝監督にやって欲しかった。
声のイメージだけで言えば宮本信子はぴったりだったのに
芝居が作り物っぽすぎて違和感がある。
アドリブを許容し、子役からも自然体を引き出す是枝演出の魅力が
吹き替えで相当削がれてしまっている。
にも関わらず劇場の上映スケジュールは7〜8割が吹き替えに割り振られていて
字幕はなかなか時間を合わせ辛い。
ドヌーヴ主演のフランス映画が天下の東宝で上映され、
吹き替えまで用意されていることは喜ばしいことだが
今回はその厚遇がかえって作品の魅力を落としている気がする。
本作は昔の是枝監督の作品のように、
単館で細々と上映する方が向いているのではないだろうか。
下手に大きな劇場でかけて、「万引き家族」の余波を受けて
足を運んだ観客の多くはピンと来ないのではと、余計な心配をしてしまう。

「しあわせの雨傘」や「ルージュの手紙」のドヌーヴがお好きなら観て損なし。
あまり是枝監督の作品と構えずに、字幕でさらっと観るのがお勧め。

映画「真実」は現在公開中。


発売中■Blu-ray:8人の女たち
発売中■Blu-ray:しあわせの雨傘
発売中■DVD:ルージュの手紙

ここ15年ぐらいに公開されたカトリーヌ・ドヌーヴの私的ベスト3。
徹底した美意識で作られたミステリー歌劇の「8人の女たち」は共演者も多彩。
「しあわせの雨傘」は、美しさと可愛らしさを引き出したアルモドバルの良作。
「ルージュの手紙」は「真実」にも近い母娘の物語。

コメント
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