習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『碁盤斬り』

2024-05-17 13:50:00 | 映画
清廉潔白を貫くことは正しいことだと信じてきた。小さな不正も見逃さないで告発する。断罪する。しかし、そのことによってたくさんの人が苦しみ、藩を追われていった。彼の正義は仲間を裏切り、自分もまた追われていく。だけど、彼は愚鈍なまでに正しさを貫いていく。もちろん間違ってはいない。だけど、世の中や体制が間違っていたなら彼の正義も正しいことにはならない。

このタイトルだが、これは囲碁を描く映画ではない。草彅剛主演で贈る白石和彌監督初の時代劇である。時代劇なのに派手な立ち回りはほとんどなく、囲碁のシーンばかり。落語(古典落語の演目「柳田格之進」)が原作らしいけど、落語らしい展開には見えない。わけのわからない映画なのだ。だけどものすごく丁寧に作られている。細部まで手を抜かない。だから凄い緊張感が持続する。草彅演じる格之進がわけのわからない人物で、その不気味なまでもの人柄に引き込まれてしまう。何で?と何度となく思う。もう少し違う対応してもいいじゃないか、と。だけど、彼はしない。

主人公の草彅同様寡黙で愚直な映画だ。ラスト近くまで来て、ようやく自分は間違っていたかもしれないと言う。自らの「正しい」を貫いて腹を切ろうとする愚かさ。そんなバカな父親についていく娘。話はあまりにバカバカしい。身の潔白を晴らすならちゃんとそれを言えばいいのに嫌疑を晴らそうとはしない。見ていてもどかしい。イライラする。

クライマックスの敵役の齋藤工との果たし合いシーンが囲碁対決というのには笑える。さらには娘を助けるために大晦日までに吉原の大門まで50両を持って行かなくてはならないのに、タラタラしていて間に合わないって何? 間抜けすぎる。國村隼の首を刎ねるシーンも、なんでそこまで、って思う。(もちろん刎ねない)

草彅剛はカッコいいけど、なんかいまいち乗り切れない映画だった。いろんなところがあまりにもどかしいからイライラしてしまう。だけど、だから映画は凄く心に残る。単純な映画ではない。不条理劇スレスレだ。この危険な綱渡りに魅了された。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 碧野圭『レイアウトは期限ま... | トップ | 『湖の女たち』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。