ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

石の上にも三年半

2022-11-04 13:36:11 | 大人の童話
週一回のブログ更新を励みにし、自分の趣味と願望を、書きなぐってはや三年と数ヶ月。
自分を再確認することが出来ました。
今までにお読み下さった方がいらっしゃいましたら、心からの感謝を捧げます。
有難うございました。

楽園-Eの物語-エピローグ

2022-10-28 12:35:27 | 大人の童話
 翌年、ルージュサンは男の子を産んだ。
 あの不思議な空間で、授かったとしか思えない子だ。
 産婆が開かせられなかった拳は、セランが触れるとふわりと開いた。
 そして五つづつ小さな種が、セランの掌にこぼれ落ちた。
「なんだろう。この種」
 セランは首をかしげたが、すぐに嬉しそうに叫んだ。
「あの時僕、他の実も食べてみたいと思ってた!!」
「じゃあ『神』からのプレゼントですね」
 ルージュサンが笑いながら言う。
「うん。僕、これ庭に植えるよ。実ったら皆でたべようね」
「楽しみです。それにしてもこの子には、大変な運命がまっていそうですね」
「うん」
 セランが赤ん坊を覗き込む。
 その額には、見事な宝石の輝きが見えた。





楽園-Eの物語-お帰りなさい

2022-10-21 12:22:24 | 大人の童話
 フィオーレが突然立ち上がった。
フィオーレの長い毛の間に、花を挿して遊んでいたトパーズとオパールがのけぞる。
 フィオーレはかまわずドアまで走り、振り向いて吠えた。
「どうしたの?」
 いぶかりながら、ドラがドアを開ける。
 フィオーレは門に向かって駆け出した。
 そして、人の背丈よりずっと高い門を、軽々と飛び越える。
「フィオーレ!?」
 庭にいたナザルとユリアが後を追う。
「「きっとそうよ」」
 トパーズとオパールも、同時に叫んで飛び出した。
「うわっ!」
「なんだっ?」
 通りを歩く人々が驚いて、走る金の波を見る。 
 少し遅れて偉丈夫な男、大分遅れてうら若き女、そのずっと後に、初老の女と幼い双子だ。
「えっ?フィオーレ!?一体なんだ!?」
 店の前でロイが叫ぶ。
「もしかしてっ?」
 ロイとロッドも走り出した。
「えっ!なんなの?!」
「多分、そうだっ!」
 人が次々と加わって、大通りに犬が先頭の走る行列が出来る。
 やがて向かって来た一台の馬車が止まって、走り出た女に金の塊が飛び付いた。
 女が犬の受け止めながら、後ろに倒れる。
「フィオーレ!心配させましたね」
 そう言ってわさわさとフィオーレを撫でる。
 ルージュサンの顔はフィオーレの涎でべとべとだ。
 フィオーレは次に、馬車から下りてきた男に飛び付いた。
 ふさふさの尻尾は、千切れんばかりに振られている。
 そこにやっと、人間達が追い付いた。
「ルージュサン!セラン!」
「お帰りっ!」
「生きてたのねっ!!」
「なんだその頭は?」
 行列が賑やかな輪に変わる。
 キャロはこっそりフィオーレに飛び移り、首毛の隙間から、その様子を面白そうに見物していた。


楽園-Eの物語-小龍のキャロ

2022-10-14 12:22:00 | 大人の童話
《腕の良い船頭を乗り継いで夜通し急げば、四日とかからん》
 ムンはそう言って、船を手配してくれた。
 帰路を急ぐセランとルージュサンには、有難い話だった。
 ムンの言葉通りに三日めの朝、二人は船を下り、馬車を頼んだ。
 ルージュサンが切り揃えた、セラン銀髪が肩辺りでさらさらと揺れる。
 一方、ルージュサンの癖毛は、四方八方、好き放題に跳び跳ねていた。
「花火に頭から落っこちた、入道雲みたいに可愛らしい!!」
 と、セランは誉めちぎり、ルージュサンを複雑な気持ちにさせた。
「また、行こうね。今度は二人であの広場に入れるかな?」
 右肩に頭を預けるルージュサンに、セランが聞いた。
「『神』次第なのでしょうね。ですが招いたのは『神』なのですから、歓待してくれるかもしれません」
 黄金の龍が消えていく時、二人には『神』の声が聞こえたのだ。
『有難う。また、歌を聞かせてくれ』
と。
「伸びた髪も置いてこようね。切る練習もしとかなきゃ」
 セランがルージュサンの頭を撫でると、髪の間から赤い物体が、ぴょこりと飛び出した。
 真っ赤で掌より小さいそれは、細長く四本足で、尻尾と羽が生えている。
 大きな目と口がついたその姿は、新種の蜥蜴に見えなくもないが、空を飛ぶ。
 洞窟からムンの家に戻って、ベルトを外そうとした時、懐ですやすやと眠る龍を見て、ルージュサンは驚いた。
 そして何度も山に帰そうとしたが、ルージュサンから離れなかったのだ。
 なので二人は『キャロ』と名付けて、家族に迎えることにしたのだ。 
「家族以外の人の前では、隠れていてくださいね」
 ルージュサンに言われて、キャロは胸元から、彼女の懐に飛び込んだ。
「龍とはいえど、そこから入られるのは、少し気になります」
 セランが注文をつけると、キャロは胸元から頭だけを出し、火を吹いた。
 ルージュサンが頭を起こし、愉快そうに笑う。
 そしてふいに、真顔になった。




楽園-Eの物語-龍のいる洞窟

2022-10-07 12:57:25 | 大人の童話
 二日後、ルージュサンとセランは、洞窟へと向かっていた。
 食べては寝る、を繰り返し、驚異の速度で体力を回復したものの、いつもよりずっと、歩みは遅い。
 セランの懐には《始めの娘》が持っていたという、石のナイフだ。
 ルージュサンのストールから、こぼれ落ちそうになった三つ編みの先を直しながら、セランが聞いた。
「あの実はなんで、オグにあげたんですか?」
「ごめんなさい。オグならあの実を増やして、村の特産物に出来ると思ったからです」
「じゃあその時、沢山食べてね。すっごく美味しかったから、ルージュに食べて欲しいんだ」
「ありがとう、セラン」
 ルージュサンが発する『セラン』の響きは、独特だ。
 セランはいつものように、その甘さを全身で味わう。
「そういえば、暖かくて湿った薄暗い場所なら増やせる筈だってオグに言ってたけど、なんで知ってたの?」
「一瞬、神の記憶に触れたんです」
 ルージュサンの目が宙を見た。
「あの広場でのんびりと暮らすいろんな人。祭壇横の裂け目。特殊な力を嫌われ、山に捨てられた最初の子、それが山の気と混ざりあったものが、あの『神』でした。次は歌の上手な女の子。『神』はその娘を愛しく思い、共に過ごす為に自分の一部を分け与えてしまった。そんなことが、瞬きより短い間に、垣間見えました」
「素敵な場所だよね。今度はルージュと一緒に行きたいな」
「そうですね。ところでセラン」
 ルージュサンの顔から、微笑みが消えた。
「知らない物を採って食べてはいけないと言ったでしょう?以前旅先からおむつをあてて帰って来たのを忘れましたか?唇を三倍に腫らしたことは?半日ケタケタ笑っていたことは?」
「あ・・・」
 セランが間抜け顔になった。
 それでも美しいのは流石だ。
 話しながら笑いながら、ゆっくりと歩く。
 一気に進んだ季節に、少し強い風も気持ちが良い。
草も花も木の葉も生き生きと、瑞々しく揺れている。
洞窟の入り口に着くと、横にある扉岩を二人で押してみたが、びくともしない。
蝋燭を灯して洞窟を進むと、間もなく祭壇の前に着いた。
―なぜここにいたのだろう―
ルージュサンは不思議な気持ちで辺りを見回す。
祭壇の前に重なる毛織物の上には、セランの着ていた物も重なっている。
不思議と一枚も傷んでいない。
ルージュサンが石のナイフを取り出して、セランの髪を引き切った。
首の辺りでばっさりと。
その髪を左手に持ち、ルージュサンがセランに石のナイフを渡す。
 セランは不器用に、何度もナイフを引いて、ルージュサンの髪を切り終えた。
 ナイフを祭壇の端に置き、二人で左手を開くと、三つ編みにされた髪の束はするすると、手をすり抜け、宙に浮いた。
 そしてうねるように絡まり合い、白い光を放って、二人の視界を奪った。
光の衝撃から視力を取り戻すと、金色の龍が、洞窟の隅々まで照らしていた。
そして二人に何度も何度と体を擦り付け、岩の裂け目の辺りに、消えていった。