二日後、ルージュサンとセランは、洞窟へと向かっていた。
食べては寝る、を繰り返し、驚異の速度で体力を回復したものの、いつもよりずっと、歩みは遅い。
セランの懐には《始めの娘》が持っていたという、石のナイフだ。
ルージュサンのストールから、こぼれ落ちそうになった三つ編みの先を直しながら、セランが聞いた。
「あの実はなんで、オグにあげたんですか?」
「ごめんなさい。オグならあの実を増やして、村の特産物に出来ると思ったからです」
「じゃあその時、沢山食べてね。すっごく美味しかったから、ルージュに食べて欲しいんだ」
「ありがとう、セラン」
ルージュサンが発する『セラン』の響きは、独特だ。
セランはいつものように、その甘さを全身で味わう。
「そういえば、暖かくて湿った薄暗い場所なら増やせる筈だってオグに言ってたけど、なんで知ってたの?」
「一瞬、神の記憶に触れたんです」
ルージュサンの目が宙を見た。
「あの広場でのんびりと暮らすいろんな人。祭壇横の裂け目。特殊な力を嫌われ、山に捨てられた最初の子、それが山の気と混ざりあったものが、あの『神』でした。次は歌の上手な女の子。『神』はその娘を愛しく思い、共に過ごす為に自分の一部を分け与えてしまった。そんなことが、瞬きより短い間に、垣間見えました」
「素敵な場所だよね。今度はルージュと一緒に行きたいな」
「そうですね。ところでセラン」
ルージュサンの顔から、微笑みが消えた。
「知らない物を採って食べてはいけないと言ったでしょう?以前旅先からおむつをあてて帰って来たのを忘れましたか?唇を三倍に腫らしたことは?半日ケタケタ笑っていたことは?」
「あ・・・」
セランが間抜け顔になった。
それでも美しいのは流石だ。
話しながら笑いながら、ゆっくりと歩く。
一気に進んだ季節に、少し強い風も気持ちが良い。
草も花も木の葉も生き生きと、瑞々しく揺れている。
洞窟の入り口に着くと、横にある扉岩を二人で押してみたが、びくともしない。
蝋燭を灯して洞窟を進むと、間もなく祭壇の前に着いた。
―なぜここにいたのだろう―
ルージュサンは不思議な気持ちで辺りを見回す。
祭壇の前に重なる毛織物の上には、セランの着ていた物も重なっている。
不思議と一枚も傷んでいない。
ルージュサンが石のナイフを取り出して、セランの髪を引き切った。
首の辺りでばっさりと。
その髪を左手に持ち、ルージュサンがセランに石のナイフを渡す。
セランは不器用に、何度もナイフを引いて、ルージュサンの髪を切り終えた。
ナイフを祭壇の端に置き、二人で左手を開くと、三つ編みにされた髪の束はするすると、手をすり抜け、宙に浮いた。
そしてうねるように絡まり合い、白い光を放って、二人の視界を奪った。
光の衝撃から視力を取り戻すと、金色の龍が、洞窟の隅々まで照らしていた。
そして二人に何度も何度と体を擦り付け、岩の裂け目の辺りに、消えていった。