ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

Rの物語ー子守唄ー

2020-02-28 22:00:00 | 大人の童話
それから十三年。
ルージュサンは健全な事業者との、共存共栄を目指した。
結果、悪辣な事業者は淘汰され、事業を手放す者はルージュサンを頼って、事業は大きく育っていった。
子爵は生来頑健だったか、病を得、息子に爵位が似合う年まで、届きそうになかった。


子爵の顔の浮腫みは、昨日一気に引いて、肌は蝋のように透き通っていた。
秋の陽が薄く黄ばんで、寝床を半分照らす。
ルージュサンは日を背負って、右横の椅子に座っていた。
「ルージュサン」
看護人は部屋の外だ。
「はい。父上」
「私の命はもう尽きる」
ルージュサンは否定しない。
「お前は期待以上に事業を伸ばしたが、私は、トラムが大人になるまで育てきれない。約束を果たせなかったな」
「代わりに私が後見人を務めます」
「宜しく頼む」
差し出された手を、ルージュサンが握る。
握り返した子爵の手は骨ばっていて、思いの外、力強かった。
「私は一時助けて、中を継ぐ者。ご安心下さい」
「覚えているか?出会った次の日、私と分かって助けたのか、と、聞いたのを」
「はい」
子爵が小さく笑う。
「あの時もお前は『はい』と、答えた。もし『いいえ』だったら、お前を跡取りにはしなかった。揉め事に不必要に手を出したか、腹を割って話そうとしている相手に、嘘をついたかだからな」
「そうでしたか」
ルージュサンの話すペースはゆっくりだ。
「私と出会った日、スリにお金を払わないでいてくれたことを、覚えていますか?」
「もちろん」
「あの時父上は、子供の自負を尊重してくれました。もし払っていたなら、父としては、信頼しなかったでしょう」
子爵が小さく声をたてて笑った。ルージュサンもつられて笑う。
二人の笑い声は次第に大きくなり、子爵の咳き込む音で途絶えた。
「久しぶりに、笑った」
握った手は、離さないままだ。
「歌ってくれないか」
「何の歌を?」
「子守唄を。トラムが今でも大好きな、船乗りの歌を」
「承知しました」
穏やかに微笑み合って、歌の船は滑り出した。
子爵は目を閉じ、深い、深い、眠りについた。

…………………………………………………………………………
子爵の最初の奥様は『仕事が終われば、使用人も同じ家の住人』と、色や柄違いの寝巻きを、全員分縫いました。
『住み込みの使用人は一日中仕事中』が、常識だった中、異色だったその考え方は、徐々に広まり、やがて来る民主化を受け入れる精神的土壌の一つとなりました。
夫人亡き後、寝巻きは子爵のポケットマネーで、仕立て屋に注文するようになりました。

ルージュサンの寝巻きをイメージしたワンピース




『大人のかんたんソーイング』2019~2020秋冬号 21番をアレンジして作りました。

材料
布(メイン) 160cm×150cm
布(別布A) 32cm×110cm
布(別布B) 5cm×18cm 
布(別布C) 5cm×12cm
布(別布D) 5cm×8cm


道具
裁縫道具一式
ミシン一式

1 の番の前身ごろ中央を8cmカットし、縫い代1cmを別布Aの縫い代2cmでくるむように縫い付ける。
2 別布Aが10cm幅で出るように、左右同じ幅でタックを取る。
3 別布B、別布Cは縫い代1cmで夫々リボンを作り、別布Dで中央を縫い止め、前身ごろ中央わ上から20cmの所に縫い付ける。



Rの物語ー対峙ー

2020-02-21 22:00:00 | 大人の童話
本文を「お呼びですか?父上」
「ああ、ルージュサン。そこに座ってくれ」
子爵が指したのは、座面に緑の布を張った一見簡素な木の椅子だ。
けれどもそれは絶妙なカーブで背に馴染み、長時間の書類仕事でも、あまり疲れない。
壁の色によく合うその椅子は、ルージュサンの成長に合わせて、毎年作り替えられている。
「又、トラムの所かね」
「はい。子守唄を」
「本当にあれは、ひどくぐずるとお前でなければ寝付かない」
「姉冥利に尽きます」
再婚して直ぐの妊娠の兆しに、最初に気付いたのは、マルだった。
当人達も驚いて、大いに戸惑ったが、ルージュサンだけは手放しで喜んだ。
そして家族に溺愛され、トラタルムは元気に育っている。
「私ももう、六十だ。お前が十八になるのを機に代を譲って、相談役になろうと思う」
そして妻と一緒にトラタルムをあやしたり、川遊びをしたりして、少しのんびり過ごしたい。
子爵の気持ちに、ルージュサンはとうに気付いていた。
「承知しました」
覚悟は出来ている。
「同時に爵位も譲るから、そのつもりでいて欲しい」
「それは出来ません」
みるみるうちに、子爵の太い眉が吊り上がる。
「私は跡取りとしてお前を引き取った。お前もそれを受けたではないか!。血筋なんぞを気にしてるのなら、トラタルムは里子に出すぞっ!!」
顔を赤くしてルージュサンを怒鳴り付けた。初めて目にする子爵の剣幕に、ルージュサンは一瞬身を引いたが、直ぐに肩を戻した。
「最初から予測していました。心無い噂がたって、父上が再婚するかもしれない、そして子供が生まれるかもしれない、と。私は一時助け、中を継ぐ者。赤ん坊の時は助けそこなったようですが、私はそういう者。それで良いのです」
「お前はあの時、まだ十二だった」
「船乗りの中には、下世話な話が好きな者もいるものです。私は事業を伸ばして、トラムが大人になったら渡します。父上はトラムを一人前に育て上げ、爵位をお渡し下さい」
「いいや、全てをお前が継ぐのだ」
「爵位は本来、血統とは切り離せないもの。重々分かっているでしょう」
「お前が子を生んで、新しい血筋を作れば良い」
「父上、父上の心にお変わりが無いことも、その言葉に嘘が無いことも、私はよく分かっています。ですからここはお引き下さい。でなければ私は子も生めません」
視線が合った。
お互い本気だった。
数秒の後、若い一途さに、父が譲った。
「分かった。爵位の件は了承しよう。だが事業は別だ」
「爵位の体裁を保つには、事業が必要です」
「・・・・半分もあれば十分だ。半分はお前が継げ」
「では、出資額の半分を私のものとして、配当を頂くのはどうでしょう」
「それも、ずっと考えていたのか?」
「いえ、父上が再婚なさってからです」
「・・・そうか・・・」
子爵は目を伏せて、小さく笑った。
「かなわんな」
ルージュサンは、子爵が律儀な質であることを知っていた。自分が愛されていることも。そして、本気で対峙したときは、より愛している方が負けるということも。

…………………………………………………………………………

ルージュサンはトラタルムに玩具を、時々作ってあげていました。
猫は、魔を見張ってくれるお守りとして、贈り物に好まれていました。

ルージュサンの作った起き上がり小法師をイメージして。


材料

粘土
アクリル絵の具
ニス

道具

絵の具筆
パレット
ニス用筆

1 石を底にし、卵型に粘土を付ける。
2 乾かす。
3 アクリル絵の具で柄を描く。
4 乾かす。
5 ニスを塗る。
6 乾かす。

絵の具とニスは夫々2回に分けて塗りました。








入力

Rの物語ー利害の一致ー

2020-02-14 22:00:00 | 大人の童話
一年後、隣の屋敷の花の庭に、子爵はいた。
新しい噴水を御披露目する、小さなパーティーに招待されたのだ。
同じ年の当主とは反りが会わないが、その七つ下の妹はいわゆるお転婆で、小さい頃はたまに遊んであげてもいた。
その妹が出戻ってきたと聞いて、気になっていたのだ。
昔より少し肉が付いた背中に、子爵は声を掛けた。
「調子はいかがですか?」
さりげなさを装っても、気遣いが滲む。
「ああ、噂がお耳に入ったのですね?」
婦人は振り向いて明るく笑った。
「もうずっと不仲だったのです。子供が出来ないなんて、ただの口実。せいせい致しました」
「失礼した。噂というのは、たてる方の品位が現れるものでした」
「私は構いませんが、そちらこそ大変でしょう。お嬢様はもう、十五、六でしたわね?」
「ああ」
子爵が苦笑した。
「私が娘を妻にするという、馬鹿らしい話かね。娘は一笑に付していたが、親としては娘の名誉を考えてしまう。私が再婚でもすれば、少しはましかもしれないが」
婦人が悪戯っぽく横目で見た。
「あら、本気で再婚なされば良いのに」
「理由がこれでは相手に悪いだろう。その上、子供も望まぬし」
婦人が真顔になった。
「全てがお嬢様の為なのですね・・・。実は私、少々肩身の狭い思いをしておりますの」
子爵はまじまじと婦人を見つめ、両手でがしっと、その手を取った。

…………………………………………………………………………
再婚するに当たって、子爵は先妻の部屋を片付けようとしましたが、婦人は『かえって気を遣ってしまう』と、そのままにするようお願いしました。
そして婦人が結婚後、子爵に贈った最初のプレゼントは、つぎはぎのベッドカバーでした。
『先妻が、端布で子爵のベッドカバーを作っていた』と、小耳に挟んだのです。
後で、先妻はパッチワークが趣味だったと知り、頭を抱えるのですが、子爵はそんな婦人を愛しく思いました。
こうして婦人は、初恋を実らせたのです。


子爵のベッドカバーをイメージして





材料
大きめの端布(カーテン用)数枚


道具
ミシン一式
裁縫道具一式


1 端布の大きさとベッドの大きさを測り、合うように組み合わせを考える。 
2 片方の縫い代を1、7cmもう片方の縫い代を1cmにし、ミシンで継ぎ合わせて、狭い方の縫い代を広い方の縫い代で包んでミシンで押さえ、始末する。






Rの物語ー仕切り直しー

2020-02-07 22:00:00 | 大人の童話
次の日、子爵とルージュサンは布問屋にいた。
顔馴染みの支配人に案内されて、種類別に置いてある色とりどりの布を、珍し気に見て回っている。
「それにしてもお珍しい。子爵様自ら布選びとは」
支配人はにこやかだ。
「面倒をかけて申し訳ない。仕立て屋が型で悩んでいるので、先に布を決めてしまおうと思ってね」
「どのようなお召し物が、お望みなのですか?」
子爵はルージュサンの腰に手を添えた。
「もっとずっと動き易く、けれど品を損なわず、この娘の可愛さを引き立てる。そんなドレスにしたいのです」
「ドレスには流行や基本形がございますからねえ」
支配人が頷くと、通路の向こう側から声をかけられた。
『旦那様、突然ですがよろしゅうございましょうか?』
三人が一斉にそちらを向いた。
女と一緒にいたお得意様係の男が慌てて紹介する。
「こちら仕立て屋の奥様で、今後取り引きをと、遠路お運びくださっました」
「初めまして。ローシェンヌと申します。今お話が聞こえまして、お役に立てれば、と」
「私はガーラントと申します。それは是非、お聞かせ願いたい」
「ありがとうございます。二つの案がございます。両方とも丈は踝が出るほど。肩回りからから袖にかけては、動き易いようゆとりをもたせます。そして一つは張りのある生地を一番上に使い、左右に楽に開くように。膨らみを抑える分、大きな飾り布で可愛らしく。もう一つは胸の下で切り替えて、僅かな膨らみで、ストンと下まで落とします」
「よくまあ直ぐさま、考えつくものだ」
皆の驚きを子爵が代弁した。
「恐縮です。よろしければ絵に致しましょうか」
「それは有難い。最初の方を着せたいのだが」
子爵の言葉にルージュサンが口を挟んだ。
「私は一度、両方着てみたいです」
子爵は苦笑した。
「そうか。そうだな・・・・・」
そして晴れ晴れと言った。
「お前はお前のやり方を、見つければいい」


七日後、子爵に従うルージュサンは、赤に金のストライプが入った、珍しい形のドレスを着ていた。
満面の笑顔で帳場に入る。
「おはようございます」
帳場長が言った。
「おはようございます。我らがルー」

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ローシェンヌが愛用しているメジャーは、巻き貝を象っています。

ローシェンヌのメジャーをイメージして。





材料
巻き取り式のメジャー
粘土
水彩絵の具
和紙
ニス

材料
水入れ

作業台

1 メジャーに粘土を付ける。
2 乾燥させる。
3 絵の具で色を塗るZ
4 乾燥させる。
5 和紙を貼る。
6 乾燥させる。
7 ニスを塗る。
8 乾燥させる。

材料はダイソーで揃います。
最初はベージュ~茶に塗るつもりだったのですが、某排泄物に似てしまったので、塗り直しました( ;∀;)。