ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園-Eの物語-旅の使者

2022-01-28 21:24:33 | 大人の童話
 使者は埃にまみれていた。
 長いマントはフード部分と腰の周りを、幅広の紐で何重にも巻いてある。
 ぐるぐると脛を縛り上げているのも、同じ紐だ。
 肌色だったとおぼしきそれらは、染み込んだ汚れと貼り付いた砂で、灰色がかった土色に見えた。
 二人とも酷く疲れた心と体を、使命感で支えているのが見てとれた。
 初老の男は訛りの強いサス語しか話せないからと、若い方の男が通訳をしながら話を進めた。
 ローシェンナは彼等に聞かれるままに、コラット家の家系、そしてセランとその子供達について詳しく答え、その家に案内した。
 彼等が『全ての村』の使いだと、名乗ったからだ。

「こちらがルージュサン=コラッド、金髪の方がトパーズで銀髪の子がオパール、二人とも四歳です。ルージュサン、こちらは『全ての村』の使者で、ムンさんとオグさん」
 紹介を簡単に済ませると、ローシェンナが提案した。
「二度手間になるから、セランが戻ってきてからお話ししましょう」
「そうですね」
 ルージュサンが同意した。
《セランは間もなく戻る頃です。それまでどうぞ、お寛ぎ下さい》
 ルージュサンがサス語でソファを勧めると、ムンは複雑な表情で腰を掛けた。
 そして遠慮のない視線で双子を観察し、ルージュサンに尋ねた。
《子供達に、何か変わった所はなかろうか》
《目立った特徴はありません》
《では、セラン=コラッドは》
 ムンが続けて聞こうとすると、玄関から陽気な声が響いて来た。
「ただいま!ルージュ!トパーズ!オパール!今日はお出迎えは無いのかな?」
 続いて居間の扉を明け閉めする音、そして勢いよく客間の扉が開かれた。
 ルージュサンの姿を捉えたセランが、髪を後ろに流した両手を高く掲げる。寸分の狂いもない完璧な造形だ。光輝くその美しさに、使者達は五感を吸い寄せられた。
「びっくりしたよ。寮でエクリュ風邪が流行っちゃって、明日から一月、臨時休暇だ」
 『エクリュ風邪』の言葉に、ルージュサンが使者達を見る。
 ムンが不機嫌そうに言った。
《我々は子供の頃に済ませている。罹った者の鼻水の付いた布を持って来たとしても、村を出たのはかなり前だ。とっくにうつす力は無くなっている》
《失礼しました。では『呼ばれてる』ということでしょうか》
 ルージュサンの疑問に、ムンが疑わしげな目を向ける。
《多分・・・でも、お前は何を知っているのか?子供達はとても美しいが、本当に女か?本当に変わった所は無いのか?》
《ルージュと僕の子ですよ?飛び抜けて美しいのは当たり前じゃないですか。ただ、他に変わった所はありません。父である僕が保証します。僕はセラン=コラッド。この美しい双子の父で、この美女の夫です》
 ルージュサンの代わりに、セランが胸を張って答える。
「この方はムン様、隣はオグ様、『全ての村』の使いの方です。セラン、こちらに座って下さい。大切な話があるそうです」
 ルージュサンはそう言って、オパールを膝に乗せた。
 セランもトパーズを膝に抱き上げて、二人の隣に座る。
 話を始めたのはローシェンナだった。
「夫は亡くなる前、私に言い遺しました。『全ての村』の使者が来たら、コラッド家の男系男子とその家族は従わなければならない。このことは代々遺言として、必ず伝えるように、と。だから私は九年前、ルージュサンにセランのことを尋ねられた時にも、このことは話せませんでした」
 オグに訳され、ムンが眉根を寄せる。
《では何故だ。我々の村が普通『エクリュ村』と呼ばれていることも、サス語を話すことも、知っていたろう?》
《セランが並外れていることが気になったので、民話や伝承について学びました》
「えっ?!じゃあ僕のためにあんなに頑張って学校に行ったの?九年前って、プロポーズの返事をくれる前じゃないか。そんなのおくびにも出さないで、ずっと愛してくれてたんだね!!」
 目を潤ませてセランが伸ばし両腕を、ルージュサンがするりとかわした。
「トパーズを落とさないで下さいね」
「大丈夫。私たちなれてるから。パパは時々世の中から、ママしかいなくなるんだって」
 澄まし顔でトパーズが言う。
「ごめんね、ルージュはパパの女神だから。でもトパーズもオパールも、僕はとっても愛してるよ」
 セランがトパーズとオパールの頬にキスをすると、二人とも嬉しそうに小さく笑う。
 美神と天使の戯れのようだ。
 その光景の美しさに、ローシェンナと使者は思わず見惚れ、ルージュサンは目を細めた。
《あっ、あと『女の子か』って何ですか?ルージュに似た神々しいまでのこの可愛さ。女の子じゃなくて何だというんでしょう。若干の変動はあるけれど、睫毛の本数も一緒なんですよ。足指の形どころか、小爪も指紋もそっくり同じ愛くるしさです》
 ローシェンナが首を傾げて、ルージュサンに、通訳を求める。
「戯言です」
 ルージュサンが切って捨てた。
「ああ、いつもの」
 ローシェンナが了解してオグを見る。
「何故来たか、話を進めて下さい」 


楽園-Eの物語-エダンの樹

2022-01-21 21:36:26 | 大人の童話
「いやあ、お陰で儲かりました。こんなに投げ銭が入ったのは久しぶりです」
 座長が揉み手をしてルージュサンに近寄った。
「エダンの代役は果たせましたか?」
 ルージュサンが尋ねる。
「十二分に」
 座長が相好を崩す。
「それなら結構」
 ルージュサンはそう言うと、フレイアに目線を送った。
「と、いうことで座長」
 フレイアが腕組みをし、話の続きを引き取った。
「怪我をしたエダンを咎める前に、座長として父親として、息子達が何をどう感じ、考え、何をしたのか、よく見ておくべきでしょう」
「えっ?」
 座長の顔が険しくなる。
「そして、お前達」
 フレイアと座長が同時に兄弟を見た。
 兄弟は、半ば睨み付けるように、フレイアを見返す。
「己の力がどれ程のものか、よく分かりましたね?練習では無いことが、実地では起こるのです。不意を突かれる度に乱れていては、出し物になりません。エダンは単なる脱臼で済んだようでも、癖になる場合もあるのです。思いがけず、もっと酷いことになっていたかもしれない。他人を羨む前に、まず、自分自身を知りなさい」
 兄は赤い顔をして俯いた。
 弟は半ば、兄の陰に隠れている。
 フレイアが再び座長に向き直った姿には、王女として生まれ育った者の持つ怖いほどの威厳が、滲み出ていた。
「後は座長の力量というものでしょう。私はエダンを働かせるという、そなた達のお取り決めに、口を出す気はありません。けれど私の名付け子を軽んじるのは、私への、ひいてはカナライへの侮辱。このようなことが再び起きぬよう、宜しく頼みましたよ」
「・・・畏まりました」
 座長が目を伏せて膝を折り、礼を取った。

 見送りに出たエダンに、フレイアが問いかけた。
《本当に彼らと行くのですか?》
 エダンの丸い目が、更に丸くなった。
《今朝の話は本気だったんですか?親の無い子をいちいち引き取っていたら、キリがないですよ》
《それでもエダン、私は貴方が心配なのです》
 フレイアが困り顔になる。
《大丈夫です。王女様》
 エダンが誇らしげに言った。
《砂漠を通った時、僕らはエダンの木の下で休みました。大きな葉っぱは日よけになって涼しかったし、根っこはがっしりと張って安心できた。おまけに実はとってもおいしいんです。生まれた時に母さんが死んだ僕のことを考えて、王女様が『エダン』って付けてくれたんだって思って、凄く嬉しかった。それになんだか誇らしかった。十八になれば僕は自由になります。色んなことが出来るようにもなってるはずです。この脚があればどこにでも行けるし、お金があれば馬車にも船にも乗れる。僕はどこででも、何でも出来るんですよ》
 エダンが太陽のように笑った。

「一体なんてことしてるんですかっ!!僕が仕事をしてた間に!!」
 翌日学院から帰るなり、セランがルージュサンに詰め寄った。
「私は何をしたんですか?」
 ルージュサンが冷静に聞き返す。
「市場で毬を三つも呑み込んだり、鳥のようにナイフで刺されたりですっ!。僕じゃないんですからね?無茶をするにも程がある。なのに涼しい顔をしてるなんて。傷は何処ですか?!」
 そう言いながら、セランはルージュサンの袖を捲った。
 滑らかな肌にはアザ一つ無い。
「じゃあ胴体ですかっ?!」
 襟に掛けられたセランの両手を、ルージュサンがしっかりと握る。
「針小棒大が捻じ曲がってます。一日でそこまで変わるんですね。いくら大食いでも毬は食べませんし、体を傷付けたりもしません。曲芸の真似事をしただけですよ」
「本当?どこも怪我してないの?」
 疑わしげに首を傾け、セランがルージュサンの目を覗き込む。
「本当です。気になるのなら見せますが、場所は変えましょう」
 ルージュサンの目配せに、セランが慌てて部屋を見渡した。
 ソファーではオパールとトパーズが、平然と座っている。
 その横でフレイアは面白そうに成り行きを見守り、ナザルは止めるか部屋を出るか迷っていた。
「ああっ」
 セランが真っ青になる。
「ダメですダメです。ルージュの肌は誰にも見せませんっ!!代わりに僕が脱ぎましょう!。筋骨隆々とはいきませんが、これでも需要はあるんですよ?神話に出てくる美青年の像を作るとか、伝説の美神のモデルになってくれとか」
 セランがバッ、と上着とシャツを同時に脱ぐ。
 真珠の肌を銀の清流が滑り落ちた。
 左右対称の引き締まった体は、ただただ完璧な美だ。
 勢いよくズボンに掛けられたセランの手を、ルージュサンが押さえた。
「だれも私を見たがってませんし、貴方に脱げとも言ってません。今から詳しく話しますから、先ずは部屋着に着替えましょう」
 ルージュサンが服を拾ってセランに掛け、その背中を押す。
 二階に上がる二人を見送り、ナザルが遠慮して例えた。
「月と太陽、ですね」
「赤ん坊に子守り」
 フレイアが代わりに本音を言った。 



楽園-Eの物語-show time

2022-01-14 21:31:01 | 大人の童話
 大通りの端にある小さな空き地には、人だかりが出来ていた。
 旅の一座が、大道芸を披露しているのだ。
 市や祭りに合わせて各地を回り、この街はこれが最後だった。
 二人組のアクロバットと、動く紙人形、大きなサイコロを使った芸が拍手で終わる。
 西側に立てられた大きな板の陰に中年の男女が下がり、代わりに脚付きの篭を両手に持った女性が二人、中央に歩み出ると、今までとは異なるどよめきが起こった。
 その内の一人が、街では知られたルージュサンだったからだ。
 もう一人は、色違いの服を着た同年輩の美女だ。
 二人はよく似ていた。
 女性が板の横に戻ると、ルージュサンは両脇に篭を立て、中から掌に乗るほどの毬を取り出した。
 赤地に金色を施した毬は、ルージュサンの赤毛に綺麗に馴染んでいた。
 最初は二つ、直ぐにもう一つ、更に一つと、次々に増やしながら空中で回していく。
 そして不意に、その中の一つを女性の横に投げた。
 板の陰から少年が出て来て、反射的に受けとる。
 戸惑う少年に女性が微笑み、篭から緑色の毬を取り出した。
 少年が目を見開いて、女性から毬を受けとる。
 そして唇を引き結び、鼻から息を吸い込むと、笑顔を作って両腕を広げた。
 ビラ配りをしていた三人の中で、一番年嵩だった少年だった。
 見物人から拍手が起こる。
 少年が女性から次々と毬を受け取り、空中で輪を描かせる。
 六個目になった時、客の一人が高く口笛を鳴らした。
 少年の集中が僅かに乱れる。
 毬が一つ落ちた。
 女性がにこにこと緑色の毬を拾い上げ、ルージュサンに投げる。
 ルージュサンはその毬を受け取って、自分の毬の輪に加えた。
 そのまま暫く操って、毬を女性に投げ返す。
 それは赤い毬に変わっていた。
 いつの間にか、緑の毬は消えている。
 女性が毬を差し出すと、少年は五つ操っていた中に、それを加えた。
 少年の顔からは笑みが消え、額に汗が滲んでいる。
 北側に立てられた板の横から、ルージュサンの足下に大きな玉が転がって来た。
ルージュサンは毬を操りながら、笑顔でその玉に乗る。
観客から歓声が上がった。
少年の手からまた、緑の毬が落ちる。
 女性が毬を拾って放ると、ルージュサンは再びそれを加えて毬を回し、投げ返す。
 それはやはり赤い毬で、緑色の毬はいつの間にか消えていた。
 少年は毬を受け取り数回廻したが、今度は赤い毬を落とした。
小さな溜め息を吐くと全ての毬を女性に返し、少年は板の陰に姿を消した。
 女性は少年の毬を篭に納めると、懐から大きな目隠しを出した。
女性が横に来るとルージュサンが玉から下り、背中を向ける。
目隠しをしてもらうとルージュサンは又玉に乗り、今度は足も使って自在に毬を遊ばせ始めた。
 大盛り上がりの中、毬を連ねる様に篭に入れると、ルージュサンは西側の板の前に立った。
 同時に北側に立てられた板の陰から、偉丈夫がするりと出てくる。
 南の端まで歩くと男は振り向き、北側に立てられた板に立て続けにナイフを放った。 
 不審に思った見物人達も、次第にその意図に気付いていく。
 男はナイフで、ここの国旗に描かれている、恵みの果実を形作っていたのだ。
 十五本の赤いナイフでその作業を終えると、男はゆっくりと東側に移り、茶色いナイフを二本取り出した。
-カチャン-
 男がナイフを高く掲げ、刃を打ち鳴らすと、ルージュサンがスラリと剣を抜く。
 男がルージュサン目掛けてナイフを投げると、見物人が一斉に息を呑む。
 ルージュサンがそれを剣で払うと、見物人がほっと力を抜く。
-ガッ ガッ ガッ-
 二本目からはテンポよくナイフが投げられ、観客は息つく間もなく、その光景を見守っている。
 十七回目に飛んで来た青いナイフを空高く弾くと、ルージュサンは素早く剣を鞘に納め、ナイフに持ち替える。
 次に来た青いナイフに勢いよく投げつけると、二本一緒に左に跳ねた。
 その先にある板に全員の視線が注がれる。
 そこには国旗そのままに、茶色い知恵の鳥が、青い勇気の双眸を光らせ、赤い恵みの果実を抱いていた。
 観客から歓声が上がり口笛が響く。
 この事は人伝で都中に広がり、昼の興業は更に、午後にはそれ以上に、観客が詰め掛けた。   


楽園-Eの物語-テントの中では

2022-01-07 20:58:43 | 大人の童話
 次の日フレイアは、エダンの大道芸を観に、市へと向かった。
 乳母車に乗ったオパールとトパーズ、それを押すルージュサンと、ナザル、ユリアも一緒だ。
 ユリアは差し入れ用の飴とフルーツケーキの入った、大きな箱を抱えている。
 大通りに近づくと、脇道に二人の少年が駆け込んできた。
「怪我させたって、駄目だったじゃないか。兄さんの言うことなんか聞かなきゃよかった」
「父さんはやっぱり、お前を的にするのは心配なんだな」
「毬は危なくないのに。父さんはいっつもだ」
「俺の方が酷いだろ。年上なんだから」
 そこまで言って六人に気付き、少年達は口をつぐむ。
 一行は何にも気付かない様子で通り過ぎ、市場の端へと近付いた。
「そんな怪我じゃ毬どころか的にもなれんだろう!」
 赤と緑のテントから、男の声が聞こえて来た。
 フレイアの顔が引き締まり、その背筋もすうっと伸びる。
「こんにちは」
 いつもより少し低い声だ。 
「はい」
 すぐに返事があった。
 入り口の布を寄せたのは、丸顔の女だ。
 フレイアのス姿を認め、目を丸くする。
 息を吸い込んだまま暫く固まり、上体を後ろに捻った。
「あんた!やっ、座長!フレイア様だよ!?」
 教えてもらう迄もなく、座長の視線はフレイア達に釘付けだ。
「・・・一体何のご用で?」
 座長がやっと言葉を絞り出す。
「エダンに会いに来ました。こちらは差し入れです」
 フレイアの横から、ユリアが手土産を差し出す。
「これはこれは。有難く頂戴致します。エダンから名付け親だと聞いてましたが、本当だったんですね」
「その通りです。ところで外まで声が聞こえましたが、何事ですか?」
 問い掛けながらもフレイアは、テント隅にエダンの姿を捉えていた。
 エダンは笑顔を作っていたが、奥歯を噛みしめ、右肩を押さえている。
「エダンが怪我しましてね。ナイフ投げの的役とジャグリングをさせる筈だったんで困ってるんです」
「手当てはしたのですか?」
「これからです。医者代も馬鹿にならないのに、全く」
 忌々しげに座長が吐き捨てる。
「少し私に診させて下さい」
 ルージュサンがナザルに乳母車を渡し、エダンの元へ行った。
 ルージュサンはエダンの右肩辺りを触りながら、小声で暫く話した後、体勢を変えた。
《ヴエッ!》
 悲鳴にならない痛みの波動がテントを揺らす。
「ちょっとあんた!」
  怒鳴った座長にルージュサンが笑顔を向ける。
「大丈夫です。骨接ぎの届出は出してないのて、お金はとれません。後は膏薬を塗って暫く動かさずにいれば、大丈夫でしょう」
「私、買いに行く」
 ユリアが言った。
「有難う」
 ルージュサンがエダンの腕を吊るす手を止める。
「家にあります。ドラに言って貰って来て下さい」
「はい」
 ユリアは急いで家へと戻った。
 板の陰に二人の若者を認め、フレイアが座長に聞く。
「代役はいないのですか?」
「刃は丸めてありますが、当たれば無傷では済みませんからね。慣れてないと危ないんです。若いのはアクロバット専門で、後は子供しかいません」
「毬を貸して頂けますか?」
 布を縛り終えたルージュサンが聞く。
「どうぞ?」
 座長の妻が、近くにあった篭をルージュサンに差し出した。
「有難う」
 ルージュサンが赤地に金の縫い取りを入れた毬を、一つ手に取る。
左右の手で四回パスすると、右手の人差し指に乗せてくるくると回す。
 左手でもう一つ毬を取ると、それは左半分の人差し指で回す。
 二つ同時に高く投げ上げ、落ちる前に他の毬でお手玉を始める。
 落ちて来た二つも加えると軌道を立体的に変え、毬を更に増やしていく。
 素人では毬の数も分からなくなると、座長が呟いた。
「同業者か?」
「いいえ。元船乗りのたしなみです。この位で良いですか?」
「・・・二倍の長さで頼む」
「これで毬は大丈夫ですね」
 ルージュサンが一気に毬を篭に落とした。
「ナイフでもジャグリングをするのですか?」
「いや、しないよ。それも出来るのか?」
「出来るとは思いますが、止めておきます。的当ての道具も貸して頂けますか?」
 ルージュサンが事務的に聞いた。