「あれは俺の夢で、お主はその夢を俺と一夜共有したのだ。せっかくの麗しい夢、醜い現実の剣で切り裂く等、愚かしい。お主さえ納得すれば夢は思い出となって、より甘美を増し、お主の人生を艶やかに彩ろうものを。しかし、私めが不思議でならなぬのは世の女性達がいかに『王子』という言葉に弱いかでございます」怒り心頭で他の侍女に抑えられる騙された侍女。冷然とギーヴの講釈を聞いているタハミーネ。「まこと浮薄なる女には浮薄なる夢が」「そなたの能弁はよくわかりました」講釈が侍女への人格攻撃に移りそうな気配に、タハミーネは遮った。
「この上は、本来のそなたの職業について技を見せてもらうべきでしょう」タハミーネの言葉と供に侍女の一人がリュートのような弦楽器(ルード)をギーヴに示した。「さて、カイ・ホスロー武勲詩抄を捧げましょう」ギーヴは弦器を爪弾き、詩を朗唱した。
『荒涼たるマザンダラーンの野に、カイ・ホスローの王旗ひるがえれば、邪悪なるザッハーク(蛇王)の軍勢は逃げそう惑いぬ。春雷に脅える羊の群の如くに。鉄をも両断せる宝剣ルクナバードは太陽の欠片を鍛えたるなり。愛馬ラクシュナには見えざる翼有り、ジャハーン・ギール(世界の覇王)に相応しい名馬なり。天空の太陽は二つ無く、地上にシャーオ(国王)は唯一人。類いなき勇者カイ・ホスロー剣持て彼の天命を継ぐ者は誰ぞ』
演奏後、侍女は歓声を上げ、側仕えの兵士達もそれなりに手を叩いた。タハミーネは侍女に指を2本立てて示した。「見事でありました。弓の技に百枚、音楽に百枚、合わせて金貨二百枚を褒美に取らせます」侍女は金貨を持ってきたが(五百枚はくれるものと思っていたのに)と不満げな顔を見せるギーヴ。「そなたが私の侍女を偽った罪の分は、差し引いてありますからね」タハミーネには見透かされたようだった。
7に続く
「この上は、本来のそなたの職業について技を見せてもらうべきでしょう」タハミーネの言葉と供に侍女の一人がリュートのような弦楽器(ルード)をギーヴに示した。「さて、カイ・ホスロー武勲詩抄を捧げましょう」ギーヴは弦器を爪弾き、詩を朗唱した。
『荒涼たるマザンダラーンの野に、カイ・ホスローの王旗ひるがえれば、邪悪なるザッハーク(蛇王)の軍勢は逃げそう惑いぬ。春雷に脅える羊の群の如くに。鉄をも両断せる宝剣ルクナバードは太陽の欠片を鍛えたるなり。愛馬ラクシュナには見えざる翼有り、ジャハーン・ギール(世界の覇王)に相応しい名馬なり。天空の太陽は二つ無く、地上にシャーオ(国王)は唯一人。類いなき勇者カイ・ホスロー剣持て彼の天命を継ぐ者は誰ぞ』
演奏後、侍女は歓声を上げ、側仕えの兵士達もそれなりに手を叩いた。タハミーネは侍女に指を2本立てて示した。「見事でありました。弓の技に百枚、音楽に百枚、合わせて金貨二百枚を褒美に取らせます」侍女は金貨を持ってきたが(五百枚はくれるものと思っていたのに)と不満げな顔を見せるギーヴ。「そなたが私の侍女を偽った罪の分は、差し引いてありますからね」タハミーネには見透かされたようだった。
7に続く