米国のトランプ大統領は3日、訪問先のロンドンで記者団に対し、弾道ミサイルなどの発射を続ける北朝鮮を巡り「金正恩朝鮮労働党委員長との個人的関係は非常に良い」と強調しつつも「必要なら軍事力を行使する」と語った。その際、金正恩氏を「ロケットマン」と呼んだ。
北朝鮮はこの発言に即座に反応。同国外務省の崔善姫(チェ・ソニ)第1外務次官は5日に発表した談話で、「ふたたびもうろくがはじまった」とトランプ氏を非難した。
談話では、「2年前、大洋を隔てて舌戦が行き来していた時を連想させる表現を意図的に再び登場させることであるなら、それは極めて危険な挑戦となるであろう」(公式訳ママ)と警告している。
2017年9月、トランプ氏は国連総会での一般討論演説で、弾道ミサイルの発射を繰り返す金正恩氏を「ロケットマン」と呼んだ。これに対して金正恩氏は、史上初となる朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長名義での声明を発表。「怖じ気づいた犬がもっと吠え立てるものである」「ごろつき」「老いぼれ」などと反撃するなど、両者は舌戦を繰り広げた。
当時は、米朝関係が極度に緊張し、米韓軍は北朝鮮の首脳部、すなわち金正恩氏に対する先制攻撃を意味する「斬首作戦」を導入。米国の識者からは「金正恩氏のトイレを爆撃せよ」などの声も出ていた。そのようなプレッシャーの中にあったことが、金正恩氏のこうした声明につながったと見られる。
(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳)
金正恩氏とトランプ氏の罵倒合戦は翌年2018年6月、史上初の米朝首脳会談で手打ちとなった。今年はベトナムのハノイ、軍事境界線上の板門店(パンムンジョム)で会談するなど蜜月関係を築き、両者共々、この関係を自画自賛してきた。
しかし、これはあくまでも金正恩氏とトランプ氏との関係だ。トランプ氏は確かに核・ミサイル問題に対していささか甘い姿勢を示している。だからといって経済制裁や今も続いている人権侵害に対する追及など、北朝鮮に対する米国の圧力が緩まったわけではない。
ここ最近、北朝鮮がミサイル実験を繰り返している裏には、一向に進まない米朝関係に対する金正恩氏の焦りや苛立ちがあるのかもしれない。
金正恩体制が維持されるうえにおいて、正恩氏とトランプ氏の関係は最大の担保だ。表向きはいくら米国と対立していようとも、北朝鮮の体制存続のためには、首脳間の関係は維持されなくてはならない。崔善姫氏は談話の最後を、金正恩氏の本音で締めた。
「われらの国務委員長は、トランプ大統領に向かっていまだいかなる表現もしていない」
まるで金正恩氏が自制しているかのような表現だが、これは「まだ仲良くしたいのに…」というトランプ氏へのラブコールに他ならない。

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)