上・三軒家紡績ストで演説する山内みな(1926年)
下・1923年5月20日婦人労働問題演説会
この時代、先輩女性たちはどんな演説をしたのだろう! 1923年の婦人労働問題演説会 (読書メモ)
この時代、先輩女性たちはどんな演説をしたのだろう!
参照
「協調会」資料(大正12年5月20日婦人労働問題演説会)
「山内みな自伝(12歳の紡績女工からの生涯)」
1923年5月20日に大阪天王寺で開催された「婦人労働問題演説会」を紹介します。「山内みな自伝(12歳の紡績女工からの生涯)」によると総同盟大阪聯合会が4月に婦人部を結成し、総同盟の紡績労働者山内みならは各組合の中にも婦人部を結成しようと熱心に活動します。同じ頃岡部(木本)芳子が中心となり山内みならと革命的無産婦人を糾合しようと婦人団体「醒光婦人会」を結成し、この5月の「婦人労働問題演説会」を計画します。岡部(木本)芳子は天王寺公園前の正露丸本舗の夫人であり、当時ここは大阪における水平社の活動拠点の一つとなっていました。この日「主催 異端者同盟」として天王寺公会堂で多くの女性や総同盟組合員をはじめ約1200名もの参加者のもと「婦人労働問題演説会」が開催されます。この日、10数名の女性労働者が次々と壇上に立ちます。臨監警察官の弾圧「弁士中止!」に抗議した山内みなや岡部(木本)芳子ら5人が検束されます。
下の報告資料は、協調会大阪支所員が当日会場の演説を記録し、まとめて協調会本部へ報告したものです。勿論現代の録音記録とは違い会場にいた協調会大阪支所員個人の理解力と速記と主観によるまとめであり、階級的観点のあやふやな(むしろ会場に潜り込んだスパイ的ともいえる)ものですが、当時の先輩女性労働者の演説がリアルに伝わりますので大変おもしろかったです。それにしても労働者1200名もの参加者が午後7時から3時間もの長時間、そしてこの演説内容には驚きです。
(原本のカタカナをひらがなに変えています)
*****************************************************
婦人労働問題演説会
(報告)
大正12年5月21日
財団法人協調会大阪支所長 藤沢 稔
常務理事添田敬一郎殿
婦人労働問題演説会の件
時日 5月20日午後7時~午後10時
場所 天王寺公会堂
主催者 異端者同盟
入場者 約1200名
入場料 30銭
司会者 新木 勇
(演説者)
岡部(木本)芳子
私たちが男の心持ちがわからないように男は女の機敏なところを知らないから今晩の演説会は意義があります。私たちは批評に対して超越しております。警官が私たちに干渉することは馬鹿げたことです。・・警官諸君はあまり干渉しないように、また聴衆諸君の声援をお願いします。
島村みき子(煙草労働組合)
資本家が夜業は国家の爲だと言って私達に夜業をさせます。私たちは工場で男工の三分の一か四分の一くらいの賃金で働いております。私達は工場から帰って家事の面倒を見なければなりません。私達は男子が想像する事の出来ないくらい忙しいのです。
私達職業婦人が虐げられるのは、私達の自覚が足らない結果です。専売局の補充や広瀬を男子にやらせたならば男子は私たちの十分の一の仕事しかできません。しかるに女工の賃金が安いのはもってのほかです。私たちは男工と同じ給料を要求いたします。
私たちが安い芝居を観て楽しむ時代は過ぎ去りました。私たち無産婦人は共同戦線に立って私たちの望む社会を一日も早く来るようにしなければなりません。私達はブルジョアを殺して、私達の社会を一日も早く作らなければなりません。
片岡素子(煙草労働組合)
産業革命の結果、私達は工場で永い時間虐待され、そして男工と競争をしなければなりません。私達の〇頭は男工の失業を増すばかりです。私達の賃金が安いのは私たちが嫁に行く事ばかり考えて仕事に熱心にならないからです。この世の中は不合理なことばかりです。私たちは不合理な社会から逃れなければなりません。男子も女子も団結してお互いに運動をしなければなりません。
北島くら子(煙草労働組合)
私たちは随分奪われている。私達は全力をあげて奪われたものを奪取しなければなりません。私達は不平不満のために反逆心を起こして立たなければなりません。私たちは団結して労働組合を作らなければなりません。男工も女工も一斉に起って新社会を作らなければなりません。労働者の力は二つの腕にあります。私たちが二つの腕で戦う事は私達の義務です。
某朝鮮人が獅子吼(大演説)・・・(中身は書いてない)
谷本まつ代
私達は貧困無知不平の中で生活をしております。私達には屈従と隷属の歴史があります。私達は不合理に対して反逆せざるを得ません。婦人なるが爲に安い賃金で満足しなければならぬ道理はありません。婦人の解放は無産者の革命によって得ることができます。資本家はプロレタリアの婦人や子供まで魔の手を延ばしてきております。ロシアでは子供の労働は禁じております。ロシアの子供は自由の赤旗を持って喜んで遊んでおります。ロシアでは妊婦に産前産後七週間の休みを与えるのみならず、国家は赤子を養育しております。また性的差別を撤廃しております。
私たちは団結して世界のプロレタリアと共に解放の運動をしなければなりません。
一無産婦人
(壇上に立つや否や)革命の勝負(弁士中止!)
某台湾人
(台湾では)何にもしていないのに陰謀事件だと称して、警官は少年300名を引致して白状せよと迫り、嫌疑者の口にホースで水を飲まそうと(弁士中止!)
速見直造
大正七年富山県の女房が、あの事(米騒動)をやってから以後、男は何をしたか。女は実に強いものだ。女が因襲的に弱いとするのは大いなる間違いだ。天下茶屋の女房は結束して家賃の値下に成功したのだ。アメリカの女は男より安い賃金では働かない。婦人は住宅問題に対しても結束しなければならない。・・・・無産婦人のみなさんは共同戦線に立とう。
森井歌子
これからは実行の世の中であります。皆さんは真の人間性の愛に目覚めなければなりません。我が国は私達の生命を奪わんとする悪魔が至るところにおります。私達は私達の先存権を擁護する偽に立たなければなりません。私達は資本主義制度の鉄鎖を断ち切らねばなりません。横暴な男子に肉迫しなければなりません。
私たちは恋愛の自由と賃金制度排斥を絶叫します。恋愛の自由は神に奉仕する道であります。私達は眞の人間愛に目覚めなければなりません。
働かずして喰う者(資本家)は人道の冒涜者です。文明の害毒者です。すべての問題は行き詰まっております。雨か風です。私たちはお互いの了解と鼓動とを一つにして大いなる爆発力(弁士中止!)
仲橋初二郎(鉄道聯合会)
ストライキの裏切者は家内や子供の為に俺たちを裏切るのだ。無産婦人の皆さんの主人を俺たちの裏切者にしないようにせねばなりません。
岡村うすえ(煙草労働組合)
ロシアとフランスの革命の火ぶたを切った者は無産婦人です。無産婦人の力は大きいですから、私達はお互いに力を合せて戦おうではありませんか。
竹井虎四郎(進め社)
今夜の模様から考えると無産婦人の運動は相当なものになったと思う、女は決して弱くはない。ロシアの三月革命は洗濯の女工が導火線に火をつけたのだ。ハンガリーの革命が一晩で出来たのは無産婦人のおかげだ。革命は無産階級によって(弁士中止!)
山内みな(赤衛社)
女のやる事を皆さんが好奇心と侮辱心で見ていることは甚だ遺憾です。私たちは腕力の点においては男子に劣るかもしれませんが、他の方面では決して劣りません。私達は不合理に対してあくまで反抗しなければなりません。私は紡織の女エとして種々雑多なことを体験してきました。私達をいつ迄も無知と隷属の内に置こうとすることはもってのほかです。
一般に働いている人間に生存権を与えよというのが労働問題です。労働問題の解決は全体が一団となり力を作り運動をすることです。私たちは人間味のある社会を作りたいのです。婦人は温順にしなければならないという考えは古い道徳です。無産階級が団結して新社会をつくらなければ私達は解放されません。私達はあらゆる阻害物を除いて進まなければなりません。女性が団結して女性の目的を貫徹しなければなりません。
大島新一(総同盟大阪聯合会)
私は消費組合に関わるので各家庭を訪問します。私が出入りする家庭では百人の妻君の九十九人迄は主人より強い権利を持っておられる、そんなに婦人が家庭では力があるにもかかわらず男の玩弄物になったり、工場では男工以下の待遇を受けるのは何故であるか。これは婦人が目覚めないため及び団結力がないためである。私は今、婦人の解放運動をすることは当を得た事だと思う。新社会は我が婦人と提携する事によって完成できるのだ。(米騒動の)越中の婦人をみても婦人はいかに力があるかということがわかる。総同盟関西同盟会では4月1日の大会において婦人部を設置する事を決議した。一体争議の裏切者は家婦に動かされる事が多い、無産婦人は誤った道徳に左右されず目的のために突進しなければならない。
岡部(木本)芳子(青十字)
私は初めに警官諸君に中止してくださるなと願ってきましたのに、中止されたのはもってのほかです。警官は聞き方が悪いから中止を命じるのです。この社会で虐げられておる者は無産婦人です。監獄的寄宿舎で故郷がなつかしいと泣いている乙女がいます。恋しくもないのに恋しているように見せ、心の中でやるさない思いをして貞操を男に蹂躙されている売笑婦もおります。失業者の家庭はどうでしょう。妻は内職、子はタ刊配達、そして夫は職に就かんとして東奔西走しているが職はない。
これだけ聞いたただけでも五尺の男子は男泣きするに相違ありません。失業者は我が国に一体幾人いるでしょうか。私達が虐待される原因は資本主義制度にあります。酒のために妻を虐める男があります。その男に酒を呑ます様にした原因は一体何でしょう。女とみればかたっぱしからやっつけなければ承知しない男が随分ありますが、そんな男に一体誰がしたのでしょうか、その原因はどこにあるかを私たちは研究しなければなりません。私は男子の横暴を根本的に知っておりますが、ここで私は男子を攻撃しません。私はここで男子の反省を促し、私達の立場を理解させて、その根本的な禍いを一掃しなければなりません。
我国には前科者が幾百万人いますが、いかにまじめに働いても駄目だと知った多くの人は反抗の烽火を近い内にあげるに相違ありません。
水平社の運動はどうですか、まったく敬服のほかありません。
朝鮮人の運動はどうですか。台湾人の奮起はどうですか。
警官は私達に対して実に横暴です。警官も、ある朝、職を失えば我々と同じです。あの人たちの親や子供は私たちの親や子供となんら変わりません。私たちは腕の力で生活しておりますが、あの人達は搾取物を資本家より分配されて生活しております。あの人達は私達に、ありとあらゆる千渉を敢てしてきています。無産階級婦人が〇〇に立てば、あの人達の圧迫は無意味になります。私達の運動は、災々として燃える火の如しです。
私たちは瑣々たる感情を捨てなければなりません。私達は「女々しい」という言葉を「男々しい」としなければなりません。私達の運動はピアノの同好会のように安っぽい団結ではありません。私たちは美しい着物やおしろいを捨てなければなりません。私は「躊躇は汝を一生不幸にする」とのモットーで進みたいのです。私は大砲の力より、より以上の力で爆発する(弁士中止!)
檜木政子
革命近ずく(弁士中止!)
時に午後10時