歌舞伎座で三月大歌舞伎昼の部を観た。座席は3階A席、夫婦で11,000円、中央前から3列目で、だいたいこの位置が好きで一番コスパが良いと考えている。舞台は全部見えるし、花道も半分見える。直前に予約したけど今日は3階席はずいぶん空いていた。最近では一番悪い入りかもしれない。今日の昼の部は1幕もの2つだ。
仮名手本忠臣蔵
十段目 天川屋義平内の場
この演目は通し狂言では省略されるし、単独では今まで4回しか演じられていない、これはこの場が仇討ちの本筋から少し外れること、由良之助が商人を脅して試すことに釈然としないと感ずる人がいたためなどと言われている。
天野屋利兵衛という人物は実在の商人だが赤穂藩とは関係がなかった。歌舞伎では天川屋義平と名前を変えて大阪の商人とし、武器の調達をして赤穂藩の討入りを支援していたことにした、そしてそれがお役人に気づかれ、義平の運んでいた荷物を差し押さて「この中身は何か」と厳しく問い、答えねば子どもを殺すとまで脅かされたが、義平は「天川屋義平は男でござる」と啖呵を切り、白状しなかった。一番の見せ場だ、そして、その後がまたサプライズで、実はお役人だと思っていた人たちが赤穂藩の大星由良之助とその配下の浪士たちだった、由良之助は義平が信頼できるかどうか試していたのだ。義平の商人魂に感心した由良之助は、商人は討入りに参加できないが討入りの時の合図に「天」と「川」を使うことにして、義平も事実上参加していることと同等だとして義平の忠誠に報いることにした。
日本人だったら感動するだろう。義平は商人なのにたいしたものだと。
さて、由良之助はもともと義平を信頼していたが、四十七士の中には義平が商人であるため信頼できないのではと言う者がいたため、あえてその不満分子を使って一芝居打ったと言う説明もなされている。
天川屋義平 芝翫
大星由良之助 幸四郎
竹森喜多八※ 坂東亀蔵(44)
千崎弥五郎※ 中村福之助(芝翫次男)
矢間重太郎※ 歌之助(芝翫三男)
医者太田了 竹橘太郎
丁稚伊吾 男寅
大鷲文吾 松江
義平女房おその 孝太郎
※ 塩冶家家臣(赤穂藩)
新古演劇十種の内 身替座禅
例の音羽屋の演目だ、すべて明治になってからの歌舞伎作品で、身替座禅は狂言の大曲「花子」をもとにした松羽目物の舞踏劇。大名の右京は奥方の玉の井からベタ惚れされているが、頭が上がらない、愛人が都に来たので奥方の目を盗み会いたいと思案した結果、邸内の持仏堂で座禅をすると奥方に言って、実は太郎冠者に身替りで座禅をさせ、その間に浮気する、奥方はこれを見破る、それとは知らずに愛人との逢瀬の後、持仏堂に戻って太郎冠者と思って逢瀬の話をするが・・・・
松緑の右京は先日の土蜘蛛のイメージが残っているのでなんとなく役柄に合わないような気がしたが鴈治郎の玉の井はぴったりはまっていた。こういう役が鴈治郎には合っているような気がする。結構ひょうきんなところがある、普段玉の井に全然頭が上がらない右京だが、玉の井は本当に右京に惚れている、だから怒ってもなんとなく憎めないキャラで、最後は右京を許す。
この演目で役者の演技以外で注目したのは常磐津と長唄連中が両方で代わるがわる演奏や唄を歌うことだ。長唄の立三味線は杵屋巳太郎、立唄は杵屋勝四郎で、先日紀尾井ホールで観たメンバーだ。今日は長唄の太鼓や笛は若手も出演されており、後継者育成は問題ないのかな、のと印象を持った。
山蔭右京 松緑(菊五郎から交替)
太郎冠者 権十郎
侍女千枝 新悟(彌十郎息子、32)
同 小枝 玉太郎
奥方玉の井 鴈治郎