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気ままに生活してるシニアの残日録

「團菊祭 五月大歌舞伎 三人吉三巴白波」を観る

2023年03月21日 | 歌舞伎

河竹黙阿弥の作品「三人吉三巴白波 大川端庚申塚の場」のテレビ録画を見直した

出演は若手中心だ

お嬢吉三:尾上右近
お坊吉三:中村隼人
和尚吉三:坂東巳之助
夜鷹おとせ:中村莟玉

この作品は1860年初演、吉三(きちさ)という同じ名前を持つ3人の盗賊が出会って義兄弟の契りを結ぶと言う話、世の中が激変していた時代(明治維新は1868年)、黙阿弥調(七五調)の名台詞がふんだんに使われている、これは西洋劇の独白は自分はこう思っている、感情を吐露するせりふが多いが、黙阿弥の独白は景色、おぼろ月やかがり火など、叙景だ、言葉による絵画美で客に心地よく響く、言葉を聞いて絵を思い浮かぶせりふだと解説されていた。また、黙阿弥は、普通に見えた人が悪の本性を出すと言うのを好んで描いた、お嬢さんが実は盗賊だったなど本作でも見られる。先に見た土蜘蛛でも比叡山の僧が実は土蜘蛛だった。

あらすじは、両国橋近くの大川端、客が忘れた100両の金を持った美しい娘(夜鷹)が着物姿の娘、実はお嬢吉三、に道を尋ねられ、親切に案内していると突然その娘が盗賊の本性を現し、夜鷹の娘を川に突き落として金を奪う。その一部始終を見ていたもう1人の盗賊のお坊吉三、金をよこせとお嬢吉三とけんか沙汰に、その喧嘩を止めに入った和尚吉三、一番格上の和尚吉三の取りなしで喧嘩は収まり、3人が兄弟のちぎりを交わす、と言った結構単純なあらすじ。この作品はここから何幕も続く長編だが現在ではこの大川端の場が人気があるのでこの部分だけが上演されることが多い。

1幕で40分程度の長さで、あらすじも複雑ではないのでわかりやすい。あまり絵になるような様式美はないが、若手俳優中心の舞台で十分楽しめた。お嬢吉三の右近は歌舞伎座で主役級の役をやるのは初めてだそうだが、有名な七五調のせりふ、「月もおぼろに 白魚の 篝(かがり)もかすむ 春の空・・・こいつは春から 縁起がいいわえ」はハラハラ聞いていたが、うまく言えていた。


「團菊祭 五月大歌舞伎 土蜘蛛」を観る

2023年03月21日 | 歌舞伎

先日、紀尾井ホールで「河竹黙阿弥の世界」の公演を観たのを機に、過去の歌舞伎座公演のテレビ録画の中で黙阿弥作品を探したところ、2021年5月の團菊祭での土蜘蛛があったので見直した。河竹黙阿弥は江戸から明治にかけて活躍した歌舞伎作者で生涯360もの作品を残した、江戸と明治という全く違った時代を生きた。

土蜘蛛は音羽屋の新古演劇十種の第1番目の作品、五代目菊五郎が1881年(明治14年)に初演した、六代目菊五郎、二代目松緑、当代菊五郎に受け継がれ、今は、当代松緑が演じている。

「新古典劇十種」とは明治以降に書かれた作品の中から主に能狂言をモチーフにし、古典的味わいのある格調高いものを10個選んだもの。江戸末期から明治にかけての名優だった五代目尾上菊五郎が「尾上家の家の芸」として制定したもので格調高い「松羽目もの」だ。そのほかには先日紀尾井ホールで見た「茨木」や「身代わり座禅」などがある。

あらすじは、平安時代が舞台、源頼光(らいこう)は病で療養中、そこに比叡山の僧「智疇(ちちゅう)」が祈祷をすると言って訪ねてくる、そのしぐさの怪しいのを太刀持ちの音和が気づき、頼光が常にそばに持っている「膝丸(ひざまる)」という名刀で斬り付けたため、蜘蛛は逃げていく。頼光の命令で家臣の平井保昌と四天王が土蜘蛛退治に行き、大立ち回りの末、撃退し、めでたしめでたしとなり幕となる。

土蜘蛛の松緑は実に役柄に合っていた、ぎょろっとした眼、大きな口など土蜘蛛のイメージそのもの、寺嶋眞秀の太刀持ちもよく間違えずにせりふが言えて立派だった。後半の大立ち回りは衣装が華やかで見ていて楽しかった。前半でもあったが土蜘蛛が次々と繰り出す「千筋(ちすじ)の糸」が印象的だ、これは能楽でも秘伝だそうだが一回の失敗もなくやってのけたのは立派だった。もう菊五郎は土蜘蛛はやらないのかな。

1時間半くらいの劇だがさすが黙阿弥、退屈せずに楽しめた。

出演
叡山の僧智籌じつは土蜘の精 尾上松緑
平井保昌          坂東亀蔵(楽善の息子)
渡辺綱(四天王)      中村福之助(芝翫の息子)
坂田公時(同上)      中村鷹之資(富十郎の息子)
碓井貞光(同上)      尾上左近
卜部季武(同上)      市川弘太郎
太刀持音和         寺嶋眞秀
侍女胡蝶          坂東新悟(彌十郎の息子)
源頼光           市川猿之助