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クリムゾンキングの宮殿

2019-01-22 15:46:09 | 日記
ロバート・フリップはかねてから、キング・クリムゾンのスタジオアルバムのベスト3作品は「クリムゾンキングの宮殿」「レッド」「ディシプリン」だと述べているが、昨年の来日コンサートで全公演日に必ず演奏されている歌曲が3曲あり、それらは興味深いことにこの3つのアルバムに収められている。ではその曲を紹介したい。「クリムゾンキングの宮殿」と「スターレス」と「インディシプリン」の3曲である。どの曲も聴き応えのある名曲で「クリムゾンキングの宮殿」と「スターレス」は2015年の来日公演でも演奏されていたが、今回の演奏の方が凄みがあった。東京、北海道、仙台、金沢、大阪、福岡、広島、名古屋で直に聴いた人々は、誰もがそのように感じたのではないか。

今回のブログで紹介する「クリムゾンキングの宮殿」に関していうと、2015年の来日公演では曲の終盤を削った内容だったが、2018年の来日公演では全編にわたって完全再現されていた。このブログでも書いたことだが、中世ヨーロッパを舞台に語られるこの詩には、反権力のメッセージが捻りを効かせて用意周到に込められている。特に御前試合や寡婦という言葉は意味深長だ。御前試合は当時のベトナム戦争だけではなく、米国とソ連が後ろ盾になって世界各地で勃発したアフリカ、中南米、アジア、中東の内戦を批判しているような匂いがするし、寡婦は戦争未亡人をほぼ直接的に表現している言葉だろう。この詩と音楽で創造された世界は中世ヨーロッパの封建社会ではあっても、現代と同様に地政学的な領土紛争があり、戦争で金儲けをする武器商人が暗躍し、贅をこらし富栄える支配層が存在する一方で、その支配層の暴政により搾取され放題の被支配層が存在するという虚しい図式が、厳かで格調高い詩から垣間見えてくる。さらに終盤における、曲が終わったかと思わせる轟音が止み静かな沈黙が訪れた後に、ギャビン・ハリスンが叩くシンバルの囁くような響きを合図に、操り人形の踊りを表現したビル・リーフリンのキーボードがなんとも儚くも美しい旋律を奏でるのだが、これがまさに狡猾な権力に翻弄され、善意や良心を踏みにじられた無数の人々の哀愁を感じさせるのだ。圧政を敷く巨大な権力者たる真紅の王は王宮のどこかにずっと隠れているわけだが、操り人形の踊りの短い間奏の後に、大音量で重い扉がこじ開けられるような、全てを呑み込み吸い込んでしまうような暴風の音がドラム、ベース、ギター、キーボード、サックスが合流した大迫力の演奏で表現される。ここで私たち観客は、迷宮に潜む真紅の王の居場所が探り当てられ、権力の全貌を白日の元に曝しその悪行を暴露するカタルシスを感じることができる。

この「クリムゾンキングの宮殿」は、地球上で極端に富が偏在してしまった現代社会の問題を、その問題の本質を鋭く突いていると云えるだろう。音楽は重厚長大で激しくそして美しい。この曲を最初に歌ったのはオリジナル・メンバーのグレッグ・レイクだが、彼は2016年に他界する迄、ソロ活動ではかつて在籍したキング・クリムゾンの名曲としてこの曲をライブ演奏することが多かった。グレッグ・レイクはキング・クリムゾンを脱退後はキース・エマーソンやカール・パーマーと意気投合しトリオ編成のEL&Pを結成して大活躍するのだが、歌唱力の頂点に達したのはEL&Pの全盛期だったと思われる。そのグレッグ・レイクの代役として現在、リード・ヴォーカルを務めているジャッコ・ジャクスジクの歌声も実に味わい深い。彼は元々、キング・クリムゾンのファンだったこともあり、長年ファンとして愛聴していたことからくる熱情が歌に込められているわけである。その辺りはドラマーのパット・マステロットと同様にかつてのファンがバンドに在籍し、立派に自分達が愛した音楽を演奏しているのだから、こうした要素も2014年からライブを中心に音楽活動を再開したキング・クリムゾンが世界中で絶賛されている大きな理由だろう。次回のブログでは「スターレス」をとりあげたい。

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