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トルココーヒー

2017-07-12 15:38:23 | 日記
今回はコーヒーの歴史について少し書いてみたい。コーヒーの原産地はアフリカ大陸である。それも北アフリカのエチオピアあたり。古代に山羊飼いの少年が、コーヒーの赤い実を食べて元気溌剌になった山羊を目にして、大人に相談し飲用してみたのが事の始まりだそうだ。ここで登場する大人とは修道院の修道僧らしい。ということはアフリカのキリスト教徒という仮説が成り立つ。その後、13世紀頃にアラビア半島のモカで、イスラム神秘主義修道者が山で赤い実を啄む鳥を見て持ち帰り飲用をはじめたという。この山羊と鳥にまつわるエピソードは、後世にコーヒー産業が花開いたことの味付けとしての創作逸話である可能性が非常に高い。

ただコーヒーという香りも味わえる飲み物が、古代のアフリカ大陸から中世のアラビア半島へ伝わっていった流れは事実のようだ。そしてコーヒーが波紋のように広く伝播していくその中心は、オスマン・トルコ帝国を核としたイスラム世界である。
私はトルコへ旅行をしたことはないが、トルココーヒーを飲んだことはある。1969年創業の京都のロダンというカフェで、今日の写真の一枚は、このお店で頂いたトルココーヒーだ。店内にはカウンターテーブルしかないが、オーナーの仲の良い老夫婦と談笑しながらコーヒーが飲める。ご主人は知的な上に行動力が並大抵ではない。1984年に京都の舞鶴港にトマホークを装備した米国艦船が来航した際には、人間の鎖で港を包囲し大抗議行動をした京都府民の一人なのだ。そればかりか毎年8月には広島の原爆ドーム前での反核集会にも参加されておられる。そんなご主人もカフェの中ではコーヒーという異文化を静かに語る。

トルココーヒーはハンドミルで豆を砕いて、イブリックという器具を使ってじっくりと煮だしをする為、できあがる迄30分ほど待つわけだが、これが正真正銘のトルコ式である。奥様がコーヒーをご用意される間、世界中を旅してきたご主人がアルバムを見せてトルコの話を聞かせてくださった。映っている被写体は子供が多く、青い空と海(地中海ではなく黒海)、それに白い建物が目立ち、第一印象からするとギリシャを連想してしまうところだが、少年少女の顔が彫りの深いコーカソイドのようでも、その肌は浅黄色かったり茶褐色だったりする。そこらへんはモンゴロイドに近く、やはりトルコの人々が古代から広大なユーラシアを駆け抜けた遊牧民の末裔であることを象徴しているかのようだ。

その香りは芳情で豊かである。かつてオスマントルコ帝国が神聖ローマ帝国のウィーンを包囲した時、城を囲むトルコ兵の大軍勢の陣営からコーヒーの香りが謎めいた風流で漂ってきたという、あの有名な逸話を思い出させる。ヨーロッパにコーヒーが広まった契機は、ヴェネチア商人の地中海貿易とこのウィーン包囲だというが、そんな歴史的な重厚さを感じてしまうような香りである。そして肝心のトルココーヒーの味のほうだが、私の個人的な印象だと珍味に属するものであった。味は薄い方である。ただ、安直な喫茶店がブレンドを薄くしてアメリカンに仕立てたような単純さではない。透明感のある澄んだ味わいとでも表現すればよいか、とにかく言葉で説明するのは非常に難しい味だということだけは確かだ。

ここまで書いてきて、とても残念な話をしなければならない。実はご主人は2011年に他界されており、その後は奥様が志を継いでお店を続けられていたのだが、数年前に閉店されたという話を風の便りで知った。合掌。



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