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帯とけの枕草子〔百四十八〕むつかしげなる物
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔百四十八〕むつかしげなる物
文の清げな姿
いやな気持になるもの、縫い物の裏。鼠の子が毛もまだ生えないのに巣の中よりころがり出ている。
裏をまだ付けていない革衣の縫い目。猫の耳の中。とくに清潔でない所の暗いの。何ということのない人が子供多数持ってめんどう見ている。たいして深くは好意のない妻が、心地悪くして久しく病んでいるのも、男の気持はいやなものでしょう。
原文
むつかしげなる物、ぬい物のうら。ねずみのこのけもまだおひぬを、すの中よりまろばしいでたる。
うらまだつけぬかわきぬのぬいめ。ねこのみゝの中。ことに清げならぬ所のくらき。
ことなる事なき人の、こなどあまたもちあつかひたる。いとふかふしも心ざしなきめの、心ちあしうしてひさしうなやみたるも、をとこの心ちはむつかしかるべし。
心におかしきところ
いやな気持になるのもの、逢うものの心、寝ず身の子の、気もまだ極まらぬのに、すの中より、まるまる端出ている。
心未だゆき着けぬ、乾き来たような逢う女。寝子の見見の途中。とくに気好げならぬところの暗い気持。
こと成る事の無い男が、御(女)などあまた持って、くるしんでいる。とくに深くも好意無き妻が、心地悪くして、久しく汝止みたるも、おとこの心地は不快でしょう。
言の戯れと言の心
「むつかしげ…気味が悪い感じ…嫌な気持になる」「縫う…逢う…合う…合体」「うら…裏…心」「ね…根…おとこ…寝」「す…女」「おひぬ…生ひぬ…生えない…追ひぬ…極まらない」「こ…子…おとこ」「みみ…耳…身身…見見」「見…まぐあい」「こ…子…ご…御…女の敬称」「あつかふ…扱う…世話をする…心をくばる…苦しみ悩む」「心ちあしうしてひさしくなやみたる…気分が悪くなって久しく病んでいる…心地を悪くして久しく悩んで居る…心地悪くして久しく汝止んでいる」「なやみ…悩み…患い…汝止み」「汝…身近なもの…これ…おとこ」。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・9月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。