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帯とけの枕草子〔二百四十一〕たゞすぎにすぐる物
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百四十一〕たゞすぎにすぐる物
文の清げな姿
ただ過ぎて過ぎゆくもの、帆かけた舟。人の年齢。春夏秋冬。
原文
たゞすぎにすぐる物、ほかけたるふね。人のよはひ。はる、なつ、秋、冬。
心におかしきところ
直過ぎて、ゆき過ぎるもの、ほ欠けた夫根。男の夜這い、張る、撫づ、飽き、尽。
言の戯れと言の心
「ただ…唯…ひたすら…直…真っ直ぐ…直立」「ほ…帆…穂…秀いでたもの…抜きん出たもの…お」「かけたる…掛けたる…欠けたる」「ふね…舟…ふ根…おとこ」「はる…春…春情…張る」「なつ…夏…なづ…撫づ…いたわる…なづむ…泥む…ゆきわずらう」「秋…飽き…しゅう…収…収縮」「冬…ふゆ…心に北風吹く…冬の字義は尽きる…終」。
古今和歌集の夏と秋の歌を二首聞きましょう。
巻第三 夏歌 みな月のつごもりの日よめる 躬恒
夏と秋と行きかふそらのかよひぢは かたへすゞしき風やふくらん
(夏と秋と移り変わる空の通い路は、片辺、涼しい風が吹いているもよう……ゆきなづむときと飽きの行き交う空しい通い路は、片方に涼しい風が心に吹いているだろう)。
巻第五 秋歌下 題しらず よみ人しらず
かれる田におふるひづちのほにいでぬは 世を今更に秋はてぬとか
(刈られた田に生えるひこばえが、穂を出さないのは、この世を今更ながら、飽き果てたのだとか……涸れる多に極まる小茎が、ほを出さないのは、夜を今更に繰り返せない、飽き果てたとか)。
なつ、あき、という言葉は、季節の夏や秋だけではない意味をもとより孕んでいる。同じく、かぜ、た、おふ、ほ、よ、なども。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。