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帯とけの枕草子〔百四十七〕見るにことなることなき物の
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔百四十七〕見るにことなることなき物の
文の清げな姿
見ると特にどうということはないものの、文字に書くと大げさなもの、苺、露草、水蕗、蜘蛛、胡桃。文章博士、得業生、皇太后宮権大夫。楊桃(やまもも)。いたどりは、まして虎杖と書くとか、虎など・杖なくとも生存できる顔つきなのに。
原文
見るにことなき物の、もじにかきてことごとしき物、いちご。つゆくさ。水ふゞき。くも。くるみ。もんじやうはかせ。とくごふの生。皇太后宮権大夫。やまもゝ。いたどりは、まいてとらのつえとかきたるとか、つえなくともありぬべきかほつきを。
心におかしきところ
見ると何んでもないものの、文字に書いて、異異しき物、いちご、つゆくさ、水ふゞき、くも、くるみ、もんじやうはかせ、とくごふの生(苺、露草、水蕗、蜘蛛、胡桃、文章博士、得業生)。皇太后宮権大夫(詮子の宮の権太夫…道長のことよ)、山もゝ(楊梅…山ば百)、いたどりは、まいて虎の杖と書くとか、杖(頼るべき姉詮子)無くとも、ありぬべきかほつきを(虎は・生存するだろう顔つきなのに)。
言の戯れと言の心
「ことごとし…事事し…おおげさだ…異異し…異様だ」「皇太后宮権大夫…道長の姉詮子皇太后宮の仮の長官…道長のことよ」「皇太后…一条天皇の御母…定子中宮の叔母で姑…詮子は落飾された後も女院と称され厳然と威勢を誇っておられた」「やまもも…楊梅…やま桃…夢の中で桃の木の上いる子どものわたしに揺すりをかけた男、梅もそうする男〔百三十七・正月十よひ日〕…道長よ」「楊…よう…ゆする…揺」「杖…頼りとするもの…道長にとって姉の皇太后詮子は力強い後ろ盾であった」「虎…おそろし…道長よ」。
本人にはそれとわからないように迷彩色をほどこして、あてつけ、いやみ、ひにくを言う。これも、われらが女たちには快く聞けるでしょう。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・9月、改定しました)
原文は「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による