帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔百四十七〕見るにことなることなき物の

2011-08-18 06:10:39 | 古典

  



                   帯とけの枕草子〔百四十七〕見るにことなることなき物の



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔百四十七〕見るにことなることなき物の


 文の清げな姿

見ると特にどうということはないものの、文字に書くと大げさなもの、苺、露草、水蕗、蜘蛛、胡桃。文章博士、得業生、皇太后宮権大夫。楊桃(やまもも)。いたどりは、まして虎杖と書くとか、虎など・杖なくとも生存できる顔つきなのに。


 原文

見るにことなき物の、もじにかきてことごとしき物、いちご。つゆくさ。水ふゞき。くも。くるみ。もんじやうはかせ。とくごふの生。皇太后宮権大夫。やまもゝ。いたどりは、まいてとらのつえとかきたるとか、つえなくともありぬべきかほつきを。


 心におかしきところ

 見ると何んでもないものの、文字に書いて、異異しき物、いちご、つゆくさ、水ふゞき、くも、くるみ、もんじやうはかせ、とくごふの生(苺、露草、水蕗、蜘蛛、胡桃、文章博士、得業生)。皇太后宮権大夫(詮子の宮の権太夫…道長のことよ)、山もゝ(楊梅…山ば百)、いたどりは、まいて虎の杖と書くとか、杖(頼るべき姉詮子)無くとも、ありぬべきかほつきを(虎は・生存するだろう顔つきなのに)。


 言の戯れと言の心

「ことごとし…事事し…おおげさだ…異異し…異様だ」「皇太后宮権大夫…道長の姉詮子皇太后宮の仮の長官…道長のことよ」「皇太后…一条天皇の御母…定子中宮の叔母で姑…詮子は落飾された後も女院と称され厳然と威勢を誇っておられた」「やまもも…楊梅…やま桃…夢の中で桃の木の上いる子どものわたしに揺すりをかけた男、梅もそうする男〔百三十七・正月十よひ日〕…道長よ」「楊…よう…ゆする…揺」「杖…頼りとするもの…道長にとって姉の皇太后詮子は力強い後ろ盾であった」「虎…おそろし…道長よ」。



 本人にはそれとわからないように迷彩色をほどこして、あてつけ、いやみ、ひにくを言う。これも、われらが女たちには快く聞けるでしょう。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず  (2015・9月、改定しました)


 原文は「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による