気の向くままに

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人生を思案… 「8本足」の火星人ならば何と答えるか?

2016-10-02 15:43:54 | 日記

 人生について思案するとき、人は夜空に答えを求めるものらしい。高村光太郎は沖天に赤くともった星を見上げ、詠んでいる。〈おれは知らない、人間が何をせねばならないかを。おれは知らない、人間が何を得ようとすべきかを〉と。『火星が出てゐる』という詩の一節にある。

 ▼答えにより近づこうと試みたのは歌人の窪田空穂(うつぼ)だった。〈宇宙より己れを観(み)よといにしへの釈迦、キリストもあはれみ教へき〉。人も、人がよって立つ大地も夜空が産み落とした子であり孫でしかない。人は何ゆえに-の答えを星たちに問うてきたゆえんだろう。  

▼火星への初飛行を2022年にかなえたいと、米国の宇宙ベンチャー企業が計画を公表した。100人以上が乗れる宇宙船の旅は1人約2千万円という。火星移住を含め庶民には縁遠い構想だが、〈宇宙より己れを〉の境地が味わえるなら悪くない買い物ではある。  

▼ほんの100年前までは火星人の存在を夢想し、SF小説で襲来におびえる人類だった。今や人口は70億人を超え、温暖化や食糧問題などいさかいの種のはけ口として、火星に答えを求めている。詩情や哲学に乏しい夜空への問い掛けに詩人も歌人も渋面であろう。  

▼ここ半世紀の探査で火星人の存在は否定された。「夢を失った」と嘆いたのは、亡き橋本龍太郎元首相である。タコ形をした巨大な頭の中には、高度な知性を蓄えていたとされる。存外、探査など及ばぬ場所に潜み、こちらの動静をうかがっているのかもしれない。  

▼人は何ゆえに-の問いに対し、「考える葦」ならぬ「8本足」ならば何と答えるか。聡明であろう火星人に聞いてみたい気もする。異形のお隣さんをまぶたに浮かべ、秋の夜長に思いを巡らせてみるのも楽しい。

2016.10.2 【産経抄】